映画『スターウォーズ』の名を冠した愛称で呼ばれる渓谷があります。空と大地とわずかな植物を太陽が容赦なく照りつけるような荒野ですが、映画のロケ地としてはもちろん、軍用機マニアにとっても世界中に知られた場所といいます。

飛行機マニアはなぜ「死の谷」を目指すのか

 アメリカのカリフォルニア州にあるデスバレー国立公園。19世紀にカリフォルニアのゴールドラッシュで、この土地に迷い込んだ人々がそう呼んだことから名付けられたという砂漠と岩山だらけの荒涼とした大地で、夏には最高気温50度を越えるという、まさに字のごとく「死の谷」です。

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チャイナレイク基地から飛来したアメリカ海軍のF/A-18F(2017年11月、石津祐介撮影)。

 そんなデスバレーに、花崗岩や大理石など多様な岩石からなる渓谷「レインボーキャニオン」と呼ばれる場所があります。なかなか見応えのあるダイナミックな風景なのですが、実はあることで世界中からマニアが集まって来る有名な場所です。

世界的に有名な低空訓練エリア 眼下から迫る戦闘機

 実はここは、通称「スターウォーズキャニオン」と呼ばれる、アメリカ軍の軍事訓練エリアです。低空飛行により、対空砲火を避けたり、敵のレーダーに探知されたりしないことを想定した飛行訓練で、戦闘機が谷を縫うように300~400km/h以上で通過します。上空から急降下し、高さ約300mの谷に進入。谷底から60m程度の高度で、一気に機体を急上昇させ谷を抜けて行きます。その訓練の様子を谷の上から見ることができ、眼下からせり上がって来る迫力ある戦闘機を撮影しようと世界中からカメラマンが集まって来ます。

「スターウォーズキャニオン」とは? 灼熱の荒野、渓谷を飛び交う戦闘機のナゼ

荒涼とした大地が広がるデスバレー国立公園。
「スターウォーズキャニオン」とは? 灼熱の荒野、渓谷を飛び交う戦闘機のナゼ

戦闘機が通過する、通称「スターウォーズキャニオン」。

「スターウォーズキャニオン」とは? 灼熱の荒野、渓谷を飛び交う戦闘機のナゼ

谷を通過し、砂漠へと抜けるF/A-18E。

 この訓練エリアは、カリフォルニアにあるエドワーズ空軍基地が管理するR-2508と呼ばれる複合訓練空域にあり、F/A-18、F-15、F-16、A-10など空軍、海軍、海兵隊の様々な航空機が訓練に使用します。またアメリカ軍だけではなく、軍事演習に参加した各国の軍用機も飛来します。そしてこの訓練エリアは歴史も古く、第二次世界大戦の頃から訓練に使用しています。

なにゆえ『スターウォーズ』? 「ジェダイ」の名も

 そして、ここが「スターウォーズキャニオン」と呼ばれるのは、映画『スターウォーズ』に登場する架空の惑星「タトゥイーン」に風景が似ているからと言われています。それ故か、この谷に進入する航空ルートも「ジェダイ」と名付けられています。

「スターウォーズキャニオン」とは? 灼熱の荒野、渓谷を飛び交う戦闘機のナゼ

タンクキラー、アメリカ空軍のA-10C(2017年11月、石津祐介撮影)。

 ちなみに惑星タトゥイーンのロケ地はおもにチュニジアですが、ここデスバレーでも『スターウォーズ』の撮影が行われています。

 とくに訓練の内容は公開されいてはいませんが、谷に飛来する戦闘機をアメリカ人はもとより、日本人をはじめイギリスやオランダなど世界中のカメラマンが日がな一日待ち構えています。「昨日は凄いのが来た」とか「こんな写真が撮れた」など飛行機談義に花が咲きます。

「スターウォーズキャニオン」とは? 灼熱の荒野、渓谷を飛び交う戦闘機のナゼ

イギリス空軍のトーネードも訓練で飛来する(2016年11月、石津祐介撮影)。

 アメリカの荒涼とした大地の切れ目を飛び交う戦闘機。

そんなマニア憧れの地ですが、朝夕は冷え込み、昼間は強烈な日差しが差し込む砂漠地帯。しかも携帯電話は圏外で、コヨーテやガラガラヘビ、サソリもいる、なかなかスリリングな場所です。訪れる際には、十分に準備を整えて谷を目指しましょう。

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