空自への導入検討が報じられたEA-18G「グラウラー」は、戦闘機を原型とする電子戦機です。あまり目立った話題になっていませんが、実は昨今話題になった装備のなかでは、最も「本気度」が高い装備と見られるものです。

そもそも電子戦機とは?

 2018年1月、政府は電子戦機EA-18G「グラウラー」の導入を見込み、本年中に改定される予定の中期防衛力整備計画に盛り込むことを検討中であると一部メディアが報じました。

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アメリカ海軍のEA-18G「グラウラー」電子戦機。原型機はF/A-18F「スーパーホーネット」戦闘機(画像:アメリカ海軍)。

 昨今、新型巡航ミサイルやヘリコプター搭載護衛艦「いずも」における垂直離着陸戦闘機F-35Bの運用など、政府が新しい装備を調達する方針であるという報道が相次いでいます。これらに比較するとEA-18Gはあまり注目を集めてはいないようです。しかしことの重大さにおいてはEA-18のほうがはるかに大きいといえます。

 電子戦機とは敵のレーダーや通信等を電波妨害し、これを無力化するための航空機です。現在航空自衛隊はEC-1、YS-11EAという輸送機を原型とした電子戦機を「電子戦訓練機」という名目で保有しており、さらに新型のC-2輸送機を原型としたものが開発されていると推測されます。

 一方で今回のEA-18Gは、F/A-18F「スーパーホーネット」戦闘機を原型に電子戦機としての能力を付加した派生型です。EA-18Gは戦闘機としての高い性能を活かし友軍の戦闘機や攻撃機に帯同し敵地へ侵攻し、電波妨害を行うことで友軍を護る能力に優れます。またAGM-88AARGM(先進対レーダー誘導ミサイル)によって、敵のレーダーサイトや地対空ミサイル陣地を破壊することも可能です。

自衛隊が導入する意味は?

 近年、地対空ミサイルの進歩はすさまじく、地対空ミサイルで十分に防護された目標に対しての航空攻撃は自殺行為といってよい状況です。

過去にはF-117ステルス攻撃機でさえ撃墜されています。したがってEA-18Gのような電子戦機は戦闘機や攻撃機を他国へ侵攻させるためには必須ともいえる存在です。

空自導入? 電子戦機EA-18G「グラウラー」とは なぜ「本気度高め」といえるのか

ウェーク島近辺を飛行する米海軍のEA-18G「グラウラー」(写真下)とF/A-18F「スーパーホーネット」。翼端の電子戦ポッドの有無で判別しやすい(画像:アメリカ海軍)。

 これを自衛隊が導入する意味はどこにあるのでしょうか。昨今広く議論されるようになりつつある「敵基地攻撃」、すなわち北朝鮮の弾道ミサイルを地上で撃破する作戦をにらんだ装備である可能性は大であると言えるでしょう。

 また従来の専守防衛に基づく対中国をにらんだ離島防衛においても、EA-18Gは大きな意味を持ちます。自衛隊には地対空ミサイルを陸揚げされてしまった場合、これを排除するための装備がありませんでしたが、EA-18Gならば可能になります。さらにEA-18Gはさまざまな手段で相手のレーダーや通信を無効化、ないし性能を減じられますから、現在航空自衛隊において戦力化を目指し導入が進んでいるF-35A戦闘機のステルス性能を強化し、その能力を数倍にも引き上げることができるようになります。

自衛隊への導入が決まったとしたら…?

 EA-18Gは2018年現在、アメリカ海軍とオーストラリア空軍が導入しており、在日米軍においても空母「ロナルド・レーガン」の艦載機部隊である海軍第5空母航空団所属機が4機、岩国基地(山口県岩国市)に駐留しています。なおアメリカ空軍は同種の電子戦機を保有していないので、海軍と共同でEA-18Gを運用しています。

空自導入? 電子戦機EA-18G「グラウラー」とは なぜ「本気度高め」といえるのか

米海軍の航空母艦「ロナルド・レーガン」。
2018年2月現在、横須賀基地(神奈川県横須賀市)を母港としている(画像:アメリカ海軍)。

 もし仮に日本へのEA-18G導入が決まった場合、その機数は多くても10機前後程度となるでしょう。しかし少数機でもこれを保有することによる、自衛隊の作戦能力に与える影響度は計り知れません。仮に日本周辺において大規模な戦争が勃発した場合、自衛隊機が直接交戦せずとも、EA-18Gによってアメリカ空軍機を間接的に護るといったこともあり得るかもしれません。

 現在、EA-18Gに搭載を見込むNGJ(新型妨害装置)が米軍にて開発中であり、2020年代の実用化を予定しています。NGJによってEA-18Gの電子攻撃能力は大幅に強化される見込みですが、自衛隊がこれを導入可能であるのかどうかは不明です。場合によっては、既存のTJS(戦術妨害装置)を使用することになるかもしれません。

【写真】ここに注目、EA-18Gの「戦術妨害装置(TJS)」

空自導入? 電子戦機EA-18G「グラウラー」とは なぜ「本気度高め」といえるのか

戦術妨害装置(TJS)を3本搭載したEA-18G。風車状の発電機が取り付けられているものがTJS。無いものは燃料タンク(関 賢太郎撮影)。

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