かつてJR各社が所有していた「ジョイフルトレイン」。団体貸切列車や臨時列車に利用され、多くの鉄道ファンからも人気を集めましたが、そのほとんどが既に引退。

いまや「絶滅危惧種」となっています。

バブル期に登場した「ゆう」、そのゴージャス設備

 お座敷や個室、カラオケ設備などを有し、おもに団体旅行の貸切列車として使われるJRの「ジョイフルトレイン」。そのめずらしい塗装や形状、車内設備などから、駅に停車していると注目の的になりますが、その存在は今後、ますます貴重になっていきそうです。

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登場から35年が経つJR西日本の「サロンカーなにわ」。ジョイフルトレインの最長老だ(伊原 薫撮影)。

 2018年2月、JR東日本が所有するジョイフルトレイン「リゾートクスプレスゆう」(以下「ゆう」)が、およそ1か月ぶりに営業運転されました。この日は団体貸切列車として、総武本線や常磐線などのほか、普段は旅客列車が走らない貨物線にも入線。約150人の乗客は、めったに見られない車窓を楽しんでいました。

 この「ゆう」は、全国各地で特急列車に使われていた485系電車6両を改造したもの。直流・交流どちらの電化区間も走れるうえ、発電装置を積んだ専用車両を連結すれば、ディーゼル機関車に牽引(けんいん)されて非電化区間に乗り入れることもできる構造になっています。その特長をいかして、この車両の車庫がある常磐線をはじめ、東北や上越方面へ乗り入れたこともあります。

 車内は、6両のうち5両がお座敷車両です。

畳が敷き詰められ、座椅子とテーブルが備え付けられているのに加え、カラオケができる設備もあります。靴を脱いで畳に座り、流れゆく景色を眺めながら持ち込んだお酒や弁当を味わう……まさに、非日常のパーティーが楽しめます。

いまや絶滅危惧種 ディスコカーや展望車もあるJRの「ジョイフルトレイン」、その未来は

ジョイフルトレイン「リゾートエクスプレスゆう」。独特の形をした先頭部が特徴だ(伊原 薫撮影)。
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「ゆう」ハイデッキスペース奥の窓からは、一味違った展望風景が楽しめた(伊原 薫撮影)。
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「ゆう」4号車のディスコスペース。まさに「バブルの香り」がする空間だ(伊原 薫撮影)。

 そして、「ゆう」の最大の特徴は4号車。ここはフリースペースになっていますが、車両の半分は天井がドーム状で、床も1mほどかさ上げされています。1人掛けの座席は横方向に回転でき、大きな窓から空を見ることが可能。前後にも窓があり、屋根越しに隣の車両のパンタグラフが動く様子を見られるため、鉄道ファンからも人気のスペースです。

 さらに、車両の残り半分はなんとディスコスペース。

天井にはプロジェクター装置やスピーカー、カラフルなライトが取り付けられ、一角にはDJブースもある本格的なものです。バブル全盛期の1991(平成3)年に登場した車両らしいゴージャスな設備ですが、残念ながら諸事情により、現在はディスコスペースとしては使用不可。代わりに、冷蔵庫や電子レンジもあるサービスコーナーはバーカウンターなどとして利用されています。

ジョイフルトレインという存在がニーズに合わなくなってきた

 四半世紀以上にわたって多くの乗客を楽しませてきた「ゆう」ですが、実は引退がささやかれています。老朽化に加え、ジョイフルトレインという存在がニーズに合わなくなってきたのが、その理由です。

 国鉄(現・JR)では昭和30年代から、従来の客車を改造したお座敷車両を各地で製作。団体旅行などで使用していました。

 本格的なジョイフルトレインの第1号とされているのが、1983(昭和58)年に登場した「サロンエクスプレス東京」。車内はソファを設置した個室構成で、編成の両端には特大の窓を備えたフリースペースがありました。

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JR西日本が1988年に発行したジョイフルトレインのパンフレット。鉄道ファンには懐かしい車両が満載だ(伊原 薫撮影)。

 ほぼ同じ時期に、大阪でも「サロンカーなにわ」がデビュー。

この車両は個室構成ではなく、2+1列のゆったりとしたリクライニングシートが設置されました。かつて超特急「燕(つばめ)」などに連結された展望車を思い出させる展望スペースは、多くの乗客や鉄道ファンを魅了しました。

 国鉄からJRになった1980年代後半には、多くのジョイフルトレインが登場。このころはバブル全盛期で、団体列車での社員旅行やツアーも多く、これらジョイフルトレインは大いに活用されました。

 例えば、JR西日本が1988(昭和63)年に制作したジョイフルトレインのパンフレットでは、「スーパーサルーンゆめじ」「アストル」「ゆうゆうサロン岡山」など、16種類のジョイフルトレインを紹介。和風・欧風・展望車など、編成も1両だけのものから最大7両まで、団体客のニーズに応じてさまざまな種類があったことがうかがえます。

数減らすジョイフルトレイン 一方で増えているのは

 ところがバブル崩壊後は、社員旅行など大口の団体旅行が少なくなったほか、そうした旅行には観光バスが使われることも多くなり、ジョイフルトレインは次第に数を減らします。さらに、ジョイフルトレインは特殊な設備を持つことからメンテナンスが大変な反面、稼働率は少ないためコストパフォーマンスが悪くなってしまいます。臨時列車を走らせるためのダイヤ調整が難しくなってきたこと、走行するための動力を持たない客車の場合は機関車や運転士の手配が必要なことも、衰退に拍車をかけました。

 すでにJR九州JR東海では全てのジョイフルトレインが引退。他のJR各社でも数を減らしています。JR西日本では前述の「サロンカーなにわ」だけに。

JR東日本でも「ゆう」に先立ち、2018年1月には「NO.DO.KA」が廃車となるなど、その未来は決して明るくありません。

いまや絶滅危惧種 ディスコカーや展望車もあるJRの「ジョイフルトレイン」、その未来は

車内に足湯を設置した、JR東日本の観光列車「とれいゆ つばさ」(伊原 薫撮影)。

 一方で、近年は全国各地で観光列車が増えています。例えば、JR東日本の「SLばんえつ物語号」や「伊豆クレイル」、JR西日本の「花嫁のれん」や「SLやまぐち号」などは、イベントスペースや展望スペースなど、列車の旅そのものを楽しめる設備が充実。地域にちなんだ料理が味わえるものも多く、なかには車内に足湯を設けた山形新幹線の「とれいゆ つばさ」など個性的なものもあります。いわば「現代版ジョイフルトレイン」であるこれらの車両が、近年のトレンドである個人や小グループ旅行のニーズを満たしていると言えるでしょう。

 もはや絶滅危惧種となってしまった、旧来のジョイフルトレイン。前述の通り団体旅行などでの貸切利用がメインであり、なかなか気軽に乗車することができません。一方で、JR東日本の旅行商品「びゅう」やJR西日本グループの日本旅行では、ジョイフルトレインを利用したツアー旅行も開催。貴重な車両に乗れる絶好の機会とあって、注目を集めています。こうしたツアーは駅のパンフレットや各社のウェブサイトで告知されるので、こまめにチェックすると良いでしょう。

 かつて一時代を築いた、JRのジョイフルトレイン。

残り少なくなった彼らの姿を、いまのうちに楽しんでおきたいものです。

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