「北の玄関口」こと北海道の新千歳空港に乗り入れているJR北海道の鉄道路線を改造しようという話が急浮上しました。実際に改造されると何が便利になるのでしょうか。

「昔の千歳空港駅」の機能が復活へ

 北海道で新幹線に続く、大規模な鉄道プロジェクトが急浮上。新千歳空港駅(千歳市)とその周辺の鉄道線路を改造するプロジェクトが、JR北海道と国土交通省によって検討されていることが2018年5月、明らかになりました。

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札幌~新千歳空港間を結ぶ快速「エアポート」(2017年10月、草町義和撮影)。

「北の玄関口」こと千歳空港と鉄道の接続が図られたのは、1980(昭和55)年のこと。千歳線の千歳~美々(現在は信号場)間に千歳空港駅が開業し、駅と空港ターミナルビルが連絡通路で結ばれました。翌1981(昭和56)年には千歳空港駅から帯広方面に伸びる石勝線も開業。千歳空港から札幌、帯広、苫小牧の3方面へ鉄道でアクセスできるようになったのです。

 しかし、千歳空港を離着陸する飛行機が増えたため、南側に新しい空港(新千歳空港)が建設され、空港ターミナルビルも移転。これに伴い、千歳空港駅から新千歳空港のターミナルビルに乗り入れる千歳線の支線(空港支線)が1992(平成4)年に開業し、千歳空港駅は現在の南千歳駅に改称されました。

 空港支線の整備により、新千歳空港駅と札幌方面を直通する快速「エアポート」が運転を開始しましたが、帯広方面と苫小牧方面へは南千歳駅での乗り換えが必要になってしまいました。また、空港支線は単線で建設されたため、列車をあまり増やすことができないといった問題を抱えています。

 そこで浮上したのが、新千歳空港駅とその周辺の鉄道線路の改造。

空港支線と新千歳空港駅の施設を増強するとともに、「昔の千歳空港駅」のように3方面へ直接アクセスできる構造に変えることが考えられるようになったのです。

複線化と新線の「合わせ技」

 具体的にどのように改造するか、いまのところJR北海道や国交省からの正式な発表はありません。2018年5月2日付の北海道新聞朝刊や5月3日付の北海道建設新聞などによると、以下のようなことが考えられているようです。

新千歳空港の鉄道改造プロジェクトで何が便利になる? 30年ぶりに「復活」するコト

空港支線が分岐する南千歳駅(右上)。1992年までは空港直結の千歳空港駅だった(2015年9月、草町義和撮影)。

・空港支線の南千歳~新千歳空港間を複線化
・新千歳空港駅のホームを増設
・新千歳空港駅から千歳線(苫小牧方面)に抜ける新線を建設
・新千歳空港駅から石勝線(帯広方面)に抜ける新線を建設

 苫小牧~新千歳空港間の現在の所要時間は鉄道で25分くらいですが、時間帯によっては南千歳駅での乗り換えに時間がかかり、50分になるケースもあります。新線が建設されると札幌方面と苫小牧方面を結ぶ列車が新千歳空港駅を通れるようになり、南千歳駅での乗り換えはもちろん不要に。全体の平均所要時間も大幅に短くなるとみられます。

 札幌方面と帯広方面を結ぶ石勝線の特急「スーパーとかち」「スーパーおおぞら」も、新線の建設により新千歳空港経由で運転することが可能に。新千歳空港~帯広方面の所要時間短縮が期待できます。

 新千歳空港駅と苫小牧方面を結ぶ新線は、大きく分けてふたつのルートが考えられます。ひとつは新千歳空港駅から東へカーブして滑走路の下を通り、美々信号場付近で千歳線に合流。

建設距離は短いですが、滑走路の下を通るトンネルの建設で時間や費用がかかりそうです。

 もうひとつは滑走路に沿って南下し、東へ緩やかにカーブして植苗駅付近で千歳線に合流するルート。こちらは滑走路下のトンネルを建設する必要はありませんが、建設距離は長くなります。

 新千歳空港~帯広方面の新線も複数のルートが考えられます。建設距離が一番短くなりそうなのは、南千歳駅の南側で空港支線から石勝線につなぐルート。ただし札幌方面と帯広方面を結ぶ列車は新千歳空港駅で向きを変えなければならず、運用が複雑になるというデメリットがあります。

成否の鍵はどこにある?

 いっぽう、滑走路下や空港の南側に回り込むルートは建設距離が長くなるものの、列車の向きを変える必要がありません。このうち南側ルートは、室蘭本線の遠浅駅付近まで新線を建設し、遠浅~追分間は室蘭本線を走って追分駅で石勝線に合流するルートも考えられそうです。

新千歳空港の鉄道改造プロジェクトで何が便利になる? 30年ぶりに「復活」するコト

新千歳空港のターミナルビル内にある列車案内表示器。南千歳駅での乗り換え列車も案内している(2015年9月、草町義和撮影)。

 それにしても、JR北海道や国交省がここまで大規模なプロジェクトを検討しているのはなぜなのでしょうか。

 過疎地のローカル線を多数抱えているJR北海道は厳しい経営を強いられていますが、新千歳空港駅を含む札幌都市圏の路線は比較的好調。

そこで同社はローカル線の見直し(上下分離方式の導入やバス転換など)を進めるいっぽう、黒字化が可能とみられる新千歳空港へのアクセス輸送に力を入れ、経営の改善を図ろうと考えているようです。

 ただ、新千歳空港駅付近の鉄道改造にかかる費用は1000億円規模になるとみられています。JR北海道が単独で建設できる額ではなく、国や自治体の公的支援が不可欠です。

 国の「空港アクセス鉄道等整備事業費補助制度」では、補助対象経費の18%を国が補助することになっていますが、「国土交通大臣が定める事業」は補助率が3分の1(約33.3%)に引き上げられます。まずは「国土交通大臣が定める事業」に指定されるかどうかが、このプロジェクトの成否を握る鍵になるでしょう。

 ちなみに、仙台空港鉄道が運営する仙台空港線(宮城県)は滑走路の下を通るルートも検討されましたが、最終的には滑走路の東側を回り込むルートで建設されています。建設距離は約600m長くなりましたが、地下を通る区間が減ったため、建設費は約50億円安くなったといいます。今後の検討で建設コストをどこまで減らすことができるのか、これも焦点のひとつになるとみられます。

 JR北海道は実現の可能性や経費などを調査し、2018年内には国に報告する模様。早ければ2022年の完成が見込まれているといいます。実現すれば、空港駅から3方面への直通アクセスが30年ぶりに復活することになりそうです。

【地図】建設が想定される新線のルートは?

新千歳空港の鉄道改造プロジェクトで何が便利になる? 30年ぶりに「復活」するコト

新千歳空港とその周辺の鉄道路線。
南千歳~新千歳空港間を複線化(青)するとともに、新千歳空港駅から苫小牧方面(赤)や帯広方面(緑)に抜ける新線の建設が考えられている(国土地理院の地図を加工/新線のルート案は推定)。

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