駅に導入されるホームドアは、床から天井までを完全に隔てているもの、ドアが左右に動くもの、バーやロープが上下に動くもの、といった種類があります。それぞれどのような事情で使い分けられているのでしょうか。

ホームドア設置駅は10年で倍増

 駅ホームからの転落を防ぐホームドアの設置拡大が進んでいます。国土交通省の調べによると、2017(平成29)年3月末時点で全国686駅のホームに設置されており、設置駅数はここ10年で2倍以上に増えました。

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東京メトロ南北線・赤羽岩淵駅のフルスクリーン型ホームドア(2017年2月、枝久保達也撮影)。

 首都圏の通勤路線では、東京メトロ有楽町線や都営大江戸線でホームドアの設置が完了したほか、銀座線、千代田線、都営新宿線でも整備が進んでいます。2018年3月、JR東日本も首都圏在来線主要路線の全駅に、2032年度までにホームドアを設置する長期計画を発表。東急電鉄は東横線・田園都市線・大井町線の全駅へのホームドア設置を進めており、2019年度中に完了する見通しです。

 ひと口に「ホームドア」と言ってもその形や機能は様々で、製造するメーカーも複数ありますが、現在使われているホームドアは大きくふたつに分類できます。

 ひとつは東京メトロ南北線やゆりかもめなどの新交通システムで採用されている「フルスクリーン型(またはフルハイト型)」です。1980年代から新交通システム、1990年代から地下鉄で設置が進んだ比較的歴史の古いホームドアでもあります。ホームと線路を隔てるため、転落や線路内への侵入を完全に防げますが、装置が大掛かりで後から設置することが困難という欠点があります。

もうひとつは高さが半分の「ハーフハイト型」

 もうひとつが、東京メトロ丸ノ内線やJR山手線などで採用されている「ハーフハイト型」です。正式には「可動式ホーム柵」といい、法律でもフルスクリーン型の狭義の「ホームドア」とは区別されていますが、現在は特に区別せずまとめてホームドアと呼ばれています。

高さも動きもいろいろ 複数タイプある駅のホームドア、その使い分けは

東武アーバンパークライン(野田線)・柏駅の可動式ホーム柵(2016年11月、枝久保達也撮影)。

 フルスクリーン型と比較すると高さは約130cmと半分(ハーフハイト)ですが、簡単には乗り越えられないため安全性は同等で、さらに小型で軽量なので営業中の路線にも後から設置しやすいという利点があります。コストパフォーマンスに優れることから、つくばエクスプレスや東京メトロ副都心線など新線でもハーフハイト型が主流になっています。

 それでもホームドアの設置には依然として大きなハードルがあります。まず1路線あたり最大で数百億円にもなる費用です。ハーフハイト型のホームドアでもひとつのユニットあたり約500kgにもなり、古い構造のホームでは重さに耐えられないことから、補強やホームを造り直す工事が必要になります。また、車両のドアとホームドアがずれると乗降できないため、列車を定位置に停車させる装置や、車両のドアとホームドアを連動して開閉させる装置の搭載など、車両側の改修工事も必要になるからです。

 もうひとつがホームドアの設置によりドアの開口部が固定されるために、ドアの枚数や位置の異なる車両が走行する路線には対応できないという問題です。車両をすべて置き換えてドア位置を統一させる荒業や、ドア開口部を広くとって設置位置のズレを許容する方法など様々な対応策が講じられてきましたが、特急車両が走る路線などでは完全な対応は困難です。

 そのため数年前までは、都心のドル箱通勤路線であればまだしも、郊外を含めた全路線での設置は現実的ではないと考えられてきました。こうした問題を解決し、ホームドアの設置拡大を進めるために、新しいタイプのホームドアが登場しています。

各方式は一長一短 使い分けがカギに

 たとえば、JR東日本のグループ会社が開発した、ハーフハイト型の扉部分を簡易なバーに置き換えた「スマートホームドア」や、音楽プロデューサーの向谷 実さんが発案した柵型のホームドアなど、さらなる軽量化を図ったホームドアです。

重量が従来の半分ほどなので、本体価格も補強費もコストダウンが可能です。

高さも動きもいろいろ 複数タイプある駅のホームドア、その使い分けは

小田急小田原線・愛甲石田駅での「昇降バー式ホーム柵」の実証実験(2017年9月、恵 知仁撮影)。

 ドアの位置や枚数の問題を解決できる方式として注目されているのが、ドアの開閉に応じてバーやロープを上下させる「昇降式ホームドア」です。開口幅がゆったりと広いため、基本的にすべての車両に対応することができるのです。下を潜り抜けられる欠点はありますが、不意の転落は防ぐことができ、構造も簡易で軽量な点が注目され、JR西日本が一部駅に導入を始めているほか、特急列車を運行する小田急電鉄や近鉄でも実用試験が行われています。

 乗り越えたり下を潜れたりできるような簡易型のホームドアでは不十分だという意見もありますが、実際に発生している事象のほとんどが不意の転落であり、故意にホームドアを乗り越えての自殺や線路内侵入は非常にまれなケースです。視覚障がい者をはじめとして、すべての利用者にとって安全な駅を一刻も早く実現させるためには、整備促進を後押しする新たなホームドアの開発が大きな役割を担っているのです。

 ただしそれぞれの方式には一長一短があり、すべてのホームドアが同じ構造に集約されていくわけではありません。フルスクリーン型ホームドアを地下駅での列車風対策として採用した京王電鉄・布田駅(東京都調布市)のような事例もあるように、条件や環境に応じた使い分けが重要になっていくことでしょう。

【写真】開業90年を迎えた地下鉄駅にもホームドア

高さも動きもいろいろ 複数タイプある駅のホームドア、その使い分けは

可動式ホーム柵が設置された東京メトロ銀座線・上野駅のホーム。駅は1927年に開業(当時は東京地下鉄道)(2018年4月、枝久保達也撮影)。

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