華やかな航空自衛隊のパイロットや、それを支える整備員。彼らの教育に必要な教材作製を一手に担う、航空自衛隊唯一の生産部隊である教材整備隊を紹介します。

精密模型からポスター、PR動画まで

 轟音を立てながら大空へ舞う航空自衛隊の戦闘機たち。その戦闘機を操縦するパイロットや、整備員など、航空自衛隊に関る全ての隊員たちが必ずお世話になっている部隊があります。それが、教材整備隊です。

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教材整備隊の入る建物玄関に飾られた歴代ブルーインパルスの模型。教材整備隊にて原型から作製されたもの(矢作真弓撮影)。

 教材整備隊は、航空自衛隊の部隊や学校で行われる各種の教育や訓練に必要な教材類の造修(製作、修理、改造や複製)を行っている部隊です。

 1954(昭和29)年に、当時の整備学校の教材部としてその歴史をスタートさせた教材整備隊ですが、現在では航空教育集団の隷下部隊として配置されています。

 教材整備隊は、隊司令をトップとして、准尉、空曹、空士のトップに立ち、隊員を指導して取りまとめる准曹士先任、そして、司令が行う業務を担当する隊本部、工作隊、印刷隊、写真製図隊、補給隊のそれぞれの部隊で編成されています。

 主要な装備品は金属、木材を加工する機器や、溶接、塗装をする機器、印刷物を印刷する機器や製本をする機器などが配置されています。ほかにも、画像や動画を編集する機器も備えています。

自衛隊のクリエイター集団、教材整備隊とは? 航空機模型も完全自作、担うは教育支援

航空自衛隊で配布されている教範の背表紙には、教材整備隊のマークが入っている(矢作真弓撮影)。
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動画編集を担当する隊員。
ここでは様々な動画を撮影して編集している(矢作真弓撮影)。
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製本班が持つ各種の装置。ここで大量に教範類が作られる(矢作真弓撮影)。

 工作隊は統括班、設計班、工作班で編成されていて、おもに金属材料の加工や溶接、組み立てを行っており、合成樹脂を使用した各種の造修作業も担当しています。ほかにも、航空機のコクピットトレーナーや、ソリッドモデルという航空機などの精密模型も作っています。

図面と写真があればOK、航空機模型もゼロから作製

 印刷隊は統括班、編集班、製版班、印刷班、製本班で編成されていて、部隊や学校で使用される教程や教範(教科書)、そして訓練資料などを作製しています。ほかにもパイロットが操縦時に使う航空路図誌や、隊内に掲示される各種のポスター、そして我々の目に触れることもある募集広報用のパンフレットなども作っています。

 写真製図隊は統括班、製図班、映像班で編成されていて、おもに視聴覚教材を扱っています。各地の航空祭での撮影や、広報用のPR動画などもここで作製しています。

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ソリッドモデルのC-130Hにタイヤを取り付ける(矢作真弓撮影)。

 教材整備隊は航空自衛隊だけで使うものを作っている訳ではありません。指揮系統を通じた依頼であれば、陸上自衛隊や海上自衛隊、そして防衛大学校からの依頼も受け付けるとのことです。

なかでも多いのが、航空機の模型であるソリッドモデルだそうです。

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ソリッドモデルの製作工程。左にある木型から作る(矢作真弓撮影)。
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木型からゴムを流し込む型を作って、完成したT-4ブルーインパルスのソリッドモデル(矢作真弓撮影)。
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大型の模型は後ろに並べてある木材から作る。これは1/10スケールのT-7練習機(矢作真弓撮影)。

 このソリッドモデルですが、対象の図面と写真があれば作ることが可能だといいます。その作り方はまず、図面や写真を参考にして木を削り出し原型を製作します。この原型を枠で囲い、そのなかにシリコンゴムを流し入れてゴム型を作ります。その後はゴム型から製作した各部品を組み立てて研磨します。最後には塗装して、日の丸や機体番号などのデカールを貼り完成です。

 ひとつのソリッドモデルを作るには、平均して10時間ほどの時間がかかるそうです。

こうしたソリッドモデルは教材として使用されるほか、建物内の玄関や司令室などに展示されています。

原寸大ミサイルやコックピットも

 このソリッドモデルは樹脂で作られているため、2kg以上の重量になると、経年と共に自重で壊れてしまうそうです。そのため、大型の模型を作る際には、木材が材料として使用されます。木材を使用すれば、実質、原寸大の模型も作ることが可能だといいます。

 これらの模型への塗装は、まさに職人技です。非常に慣れた手つきでマスキングテープを貼りつけ、塗装を施していきます。その手の動きを見ているだけで時間を忘れてしまうほど、スムーズで無駄の無い作業を繰り返していたのが印象的でした。

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基地防空用ミサイルの実寸大模型を作る隊員たち(矢作真弓撮影)。
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基地防空用ミサイルの模型を作るために必要な設計図(矢作真弓撮影)。
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学生教材用になったF-2Bの実物に乗り込んで、撮影方法を予習する隊員たち(矢作真弓撮影)。

 別室では、ミサイルの原寸大模型を作製している部署もあれば、溶接機を使用して、パイロットの初期の教育で使用されるコクピットトレーナーを作製している部署もあります。このコクピットトレーナーやミサイルの模型は、当然のことながら市販されていませんので、すべて自分たちでゼロから作り上げます。

コクピットトレーナーの内部に配置される各種の計器も、実機と同じ大きさで同じ配置にする必要があるため、部隊に出向いて実際に戦闘機に乗り込んで、必要な写真を撮影してくることもあるそうです。

 航空自衛隊に関連した仕事をしたことのある人であれば、一度は耳にしたことのあるであろう教材整備隊。彼らの活躍があるからこそ、いまの航空自衛隊があるといっても過言ではないでしょう。

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