装輪戦車とも呼ばれる16式機動戦闘車は実際のところ、どのように運用されるのでしょうか。島しょ奪還をテーマに実施された2018年の総火演シナリオ演習にて、その一端がみられました。

総火演で注目を集めた16式機動戦闘車

 毎年夏の終わりに、静岡県御殿場市で行われる、陸上自衛隊最大規模の実弾演習である「富士総合火力演習」(以下「総火演」)。

実際どう戦う? 車輪の戦車、16式機動戦闘車 総火演に見えた...の画像はこちら >>

2両並んでスラロームしながら射撃する16MCV。自らが高速で動きながら射撃することができるのが、16MCVの強み(矢作真弓撮影)。

 このイベントは、陸上自衛隊が想定する国土防衛のシナリオの一端を、自衛隊の学生に対して研修させることが目的で1961(昭和36)年に第1回目が開催されたのが始まりです。今年で56回目を迎えた総火演ですが、今では国内外に対して、陸上自衛隊の戦闘力を披露して、広くその存在をアピールする場にもなっています。

 2018年の総火演は、「平成最後の総火演」とも言われており、最新装備品など、多くの改革を示すものとなりました。特に注目を集めたのが、2017年から部隊配備された16(ヒトロク)式機動戦闘車(以下「16MCV」)の登場です。

 16MCVとは、演習のなかで「戦車等火力」の区分で紹介された、最新式の戦闘車両です。従来までの戦車と違い、履帯(いわゆるキャタピラー)ではなく、車輪(タイヤ)を装備(装輪)しています。そのため、厳密には戦車のカテゴリーではないといわれています。

 そのような16MCVですが、いわば先輩ともいえる74式戦車が不参加だった一方で、今回大きくフィーチャーされたといえます。そこには、島嶼防衛を見据えた陸上自衛隊の決意を見て取ることができたと筆者(矢作真弓:軍事フォトライター)は考えます。

「島嶼防衛」とは、離島防衛とも言われる、いまの陸上自衛隊が想定している戦術です。これは、敵に奪われた島を奪還する戦術なのですが、機動性が悪く、射撃性能も16MCVに劣る74式戦車を島嶼防衛で使う想定は無いということを、陸上自衛隊が示したのです。

 この島嶼防衛では、敵の行動を邪魔して、敵の計画通りに作戦を進ませないために、陸上自衛隊は「即応機動展開」という戦術行動を取ります。そこで、軽量化され、装輪式になった16MCVが活躍するという訳です。

名は体を表す、強みは空輸も可能な機動展開力

 16MCVは10式戦車よりも軽量で、航空自衛隊のC-2輸送機に搭載して空輸するこが可能であるといわれています。また、装輪式であることから、従来の戦車よりも舗装路を高速移動することが可能で、最大速度は100km/hです。

 たとえば、香川県の善通寺駐屯地に所在する、第14旅団の第15即応機動連隊に所属する第15機動戦闘車隊の16MCVは、四国から全国に伸びる高速道路などを使用し、自走によって展開する訓練を重ねていて、16MCVによる市街地走行の各種データを収集しているといいます。

実際どう戦う? 車輪の戦車、16式機動戦闘車 総火演に見えたその運用の一端とは

市街地を走行する16MCVの車列。装輪車両であることから、装軌車両のように市街地輸送でトレーラなどに積載する必要がない(矢作真弓撮影)。

 機動性に富む16MCVは、総火演でもその能力を発揮してくれました。

 10式戦車と同等またはそれ以上ともいえる射撃統制装置を装備していて、自身が高速で走行しながらの射撃が可能になっています。これは、軽量化したことによる防御力の低下を、機動性の高さで補っているともいえます。

つまり、敵に発見される前に移動してしまえばよいのです。また、高速で移動することができるので、もし敵にロックオンされても、丘や岩、建物の陰に逃げ込むこともできるでしょう。

 装輪式であるため不整地走行能力は戦車に劣るものの、8つのタイヤを持つため各タイヤの接地圧が低く、よほどの悪路でない限り安定して走行することができます。そもそも、16MCVは市街地での運用をメインに考えているので、そこまで高い不整地走破能力は必要ありません。

どのような場面でどのように運用される? その役割

 機動戦闘車の役割は、大きく分けてふたつです。

 ひとつ目は、航空機や輸送艦に搭載されて迅速に目的地まで展開し、「先遣部隊の火力」として運用されるということです。そしてもうひとつが、味方戦車が追う敵の勢力を「側面から叩く」ということです。

 ひとつ目の「先遣部隊の火力」とは、迅速に展開できる利点を活かして、侵攻してきた敵に対し、戦闘の準備時間を与えることなく強制的に戦闘に参加させるほどの火力を発揮するということです。

 敵の準備が終わらない状態でこちらから攻撃を開始するということは、敵の指揮系統を混乱させ、そして充分な準備ができていない状態で敵を戦闘へ強制参加させるということになります。そうなれば敵はもちろん、充分な火力を発揮できないことでしょう。

 ふたつ目の「側面から叩く」とは、たとえば侵攻してきた敵が戦場から離脱するような際に、味方の戦車はその後を追いかけるわけですが、16MCVはその高い機動力を活かして、敵の逃げる経路に先回りし攻撃するといったような運用や状況を意味します。

 こうした運用ができる16MCVの登場によって、陸上自衛隊はより幅の広い戦術行動を取ることができるようになったのです。

実際どう戦う? 車輪の戦車、16式機動戦闘車 総火演に見えたその運用の一端とは

高い機動性を展示する16MCV。操縦は8輪車独特のモノがあるそうで、乗りこなすにはコツがいるという(矢作真弓撮影)。

 この16MCVですが、その車体をベースとした派生形の開発計画もあると聞きます。ただし、実際にどうなるかは未知数で、試作・研究で終わる可能性もあるとのことです。

 実際のところ、人員輸送型にした場合は後部の扉が小さいために、車体後部の形状を改良しないと迅速な人員の昇降は無理でしょう。

 砲弾を積んだ迫撃砲型にしても、車内のスペースの都合から、そこまで多くの砲弾を乗せることができるのか疑問です。

 105mmライフル砲を機関砲に乗せかえるのであれば、砲塔の変更と少しの改良でなんとかなりそうです。そうした場合、圧倒的に火力が落ちてしまうのですが、96式装輪装甲車の火力を代替することはできそうです。

 登場したばかりの16MCVですが、今後もマイナーチェンジを繰り返して、より扱いやすい装備品として、今後の陸上自衛隊を支えていくことになるのでしょう。

 将来装備品である「装輪155mm自走砲」との競演が楽しみです。

編集部おすすめ