伊豆諸島には日本で唯一、ヘリコプターによる定期航路が存在します。座席数はわずか9席、島々の交通手段として欠かせないというヘリによる生活路線は、どのように利用されているのでしょうか。
東京都の離島である伊豆諸島は、様々な交通機関で本土や島どうしが結ばれています。空路はANAが羽田と八丈島を、新中央航空が調布飛行場と大島、三宅島、新島、神津島を結ぶほか、海路は東海汽船がフェリーの東京~大島~利島~新島~式根島~神津島航路や、東京~三宅島~御蔵島~八丈島航路などを運航。さらに伊豆と島々を結ぶ航路や、八丈島~青ヶ島航路など諸島内の航路も存在します。
アメリカのシコルスキー社製ヘリ2機で運航される「東京愛らんどシャトル」(画像:東邦航空)。
こうしたなか、諸島内だけを結ぶ珍しい交通機関もあります。「東京愛らんどシャトル」と呼ばれる日本唯一のヘリコプター定期航路です。朝9時20分に八丈島を出発し、青ヶ島、八丈島、御蔵島、三宅島、大島、利島と飛び、さらに大島、三宅島、御蔵島を経由して16時に八丈島へ戻るという運航。それぞれの島を10~30分で毎日結んでいます。
たとえば八丈島~青ヶ島間のフェリー運賃は大人片道2730円(2等のみ)ですが、ヘリの場合は1万1530円と割高。しかも座席数はたった9席です。なぜヘリなのか、運航する東邦航空(江東区)に話を聞きました。
――どのような経緯で運航が始まったのでしょうか?
島どうしの交通を確保する目的で、「大離島」と呼ばれる大島、三宅島、八丈島と、それらに隣接した「小離島」と呼ばれる利島、御蔵島、青ヶ島を結ぶ生活路線として設定されています。
小離島では、港の整備も厳しい状況にあり、台風シーズンや、西風の強い冬場においては、船便の就航率が50%以下になることもあります。また、たとえば三宅島と大島のあいだは、既存の交通体系ではいったん東京に出なければならないなど、島と島の移動も不便です。このため、小離島では船便が4~5日間も欠航となり、島外との連絡はもとより、生活物資の運搬にも支障をきたすこともありました。こうした状況を打開し小離島の生活基盤を強化すべく、東京都がヘリコプターによる航路を打ち出し、その事業主体として当社が選ばれ、現在に至っています。
――なぜヘリなのでしょうか?
利島、御蔵島、青ヶ島では、山がちな地理条件から飛行場を造ることができないため、限られた場所で離着陸できるヘリコプターが有利なのです。運航開始前には4年間にわたり試験運航が行われ、船便の就航率が落ち込む冬場においても就航率が高いことが確認されたうえで事業が開始されました。
「乗り継ぎ」で移動圏がグッと広がる――どのような人が、どのような目的で利用されていますでしょうか?
ご利用は島民の方や、公務員の方が中心で、島と島の移動だけでなく、ほかの航空便や船便への乗り継ぎにも使われています。たとえば青ヶ島から八丈島へ向かい、そこからANAさんの旅客機に乗り継ぎ、その日のうちに東京へ通院する人もいらっしゃいます。船は外洋を通るので揺れが大きいこともあり、高齢の方からはヘリで移動が楽になったというお声もいただきますが、やはり船と比べて料金が高いこともあり、船が運航されるとわかると予約をキャンセルしてそちらを利用されることもあります。
――荷物は運べるのでしょうか?
旅客機と違って貨物室がほとんどないため、受託手荷物は受け付けていません。郵便物輸送などは、船の欠航が続き郵便物が溜まってしまったときに、貨物便としてチャーターいただいています。
――運航で気を付けている点などはありますか?
安全の確保が最優先ですが、お客様の快適性確保も重要な課題です。機材はキャビンの静寂性や快適性を高めているほか、クルーの服装や接客マナーについても気を配っています。
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東邦航空によると、ヘリは「有視界飛行」が基本で、ガスや雲の中では飛べないものの、就航率は90%以上とのこと。また、開業から現在まで25年間、無事故で運航を続けているといいます。
ちなみに、かつてはここ以外にもヘリによる定期航路が存在。バブル期には成田空港~羽田空港~横浜間に「シティ・エアリンク」もありましたが、離島と違って本土では運航ルートなどに制約があるうえ、運航コストも大きいことから採算が取れず、姿を消しました。
運航コストの問題は「東京愛らんどシャトル」も同様で、都からの補助金で成り立っている部分が大きいといいます。一方で、都とは別に国からも離島振興関係の補助金が拠出され、2018年10月15日(月)からは就航する島の住民を対象に、運賃が4割引きとなる「島民割引」も導入されます。
【画像】「東京愛らんどシャトル」のルート

八丈島を拠点に、南は青ヶ島から北は大島までを結ぶ(画像:東邦航空)。