陸自と空自が保有する、ふたつのローターを備えた大型輸送ヘリCH-47「チヌーク」は、導入から30年以上が経過しています。災害報道などで目にする機会も多いかもしれませんが、そのようにいまなおあちこちで使われ続けるのにはもちろん理由があります。

ふたつのローター備える大型輸送ヘリ

 2018年9月6日に北海道胆振東部を襲った震度7の地震によって、震源地近くでは多くの場所で土砂崩れが発生しました。その影響によって物流が滞り、商店には限られた品物しか陳列されていませんでした。

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雨のなか飛行するCH-47JA。原型機の初飛行は半世紀以上前で、ベトナム戦争にも米軍所属機が投入された(矢作真弓撮影)。

 これは北海道胆振東部地震だけではなく、過去に発生した東日本大震災や熊本地震でも同様の事態が発生しています。こうした時に投入されるのが航空機の空中輸送力です。

 遠隔地からの支援物資の多くは航空自衛隊の輸送機によって空輸されますが、固定翼機の離着陸には長い滑走路が必要で、拠点となる空港や基地は限定されます。そこで登場するのが、回転翼機であるヘリコプターたちです。

 ヘリコプターであれば、垂直離着陸ができるため、長い滑走路を必要としません。空港などの拠点に集められた支援物資を、被災地の避難所近くまで直接空輸できるため、陸路での移動経路は最低限の距離で済みます。陸上自衛隊と航空自衛隊が持つ、「チヌーク」の愛称で知られる大型輸送ヘリコプターCH-47は、こうした空輸任務を担うため、被災地ではよく見かける航空機です。

導入30有余年、陸自/空自の輸送ヘリCH-47がいまなお被災地などで重宝されるワケ

降りることができない場所でも、ロープを使って人員を降下させることができる(矢作真弓撮影)。

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機体の整備のために各所のパネルを開けられたCH-47J(矢作真弓撮影)。
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冬季迷彩を施したCH-47J。タイヤ部分にスキーを履かせているため、積雪地でも離着陸できる(矢作真弓撮影)。

 このCH-47を真っ先に導入したのは航空自衛隊でした。1984(昭和59)年から導入が開始され、へき地にあるレーダーサイトなどへの物資空輸を主任務としています。災害発生時には、空輸手段のひとつとして重宝されていて、現在でも各地の空を飛び回っています。導入当初は「CH-47J」という名称でしたが、後に改良が加えられ「CH-47J(LR)」と改称しています。配備する全てのCH-47Jが「LR」型になってからは再び「CH-47J」の名称で呼ばれています。

 航空自衛隊の導入から2年ほど遅れた1986(昭和61)年には、陸上自衛隊もCH-47Jを導入しています。

阪神淡路大震災を皮切りに

 陸上自衛隊が導入したCH-47Jの、最初の大規模災害派遣は1995(平成7)年1月17日に発生した阪神淡路大震災だといわれています。

 その後、2004(平成16)年の新潟県中越地震、2007(平成19)年の中越沖地震でも航空偵察や人員輸送、物資輸送などで使用されています。近年では、航続距離を伸ばすため、燃料タンクを大きくし、気象レーダーなどを搭載したCH-47JAも多く活躍しています。

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熊本地震にて、航空自衛隊のCH-47Jから救援物資をトラックに乗せかえる陸上自衛隊の隊員たち(矢作真弓撮影)。

 そのようなCH-47ですが、活躍の幅は国内だけに留まりません。海外での災害においても派遣された実績を持っています。2005(平成17)年にインドネシアで発生した地震と津波による災害時には、バンダ・アチェ地域への医療・防疫活動のために派遣され、2010(平成22)年にパキスタンで発生した洪水水害では、同国のおおむね中央に位置するムルタン市へ物資輸送で投入されています。

 海外に派遣される時に、CH-47は自力で飛行していくことはしません。なぜならば、飛行可能距離な航続距離が最新式のCH-47JA型で約1000kmとなっているため、被災地が遠い場合は何度も離着陸を繰り返し、給油と整備を行わなければならないからです。また、飛行時間毎に決められた整備も行わなければならないので、自力で遠方まで飛行していくのは燃料と労力を浪費してしまうことになります。そのため、海外に赴く際には、海上自衛隊の輸送艦などに搭載されて出国することになります。

 洋上を航行するときには、大きな2枚のローターは外され、塩害からの被害を抑えるためにつなぎ目にはマスキングが施され、機体全体が白い生地で覆われます。こうして遠洋航海した後に、現地にて封印が解かれ、再び空へと舞い上がるのです。

「オスプレイ」がとって代わるようなことはあるの?

 各地で活躍するCH-47の後継機は、しばらく登場することはないと言われています。それは基本設計が良く、拡張性に優れた機体デザインであることからもうかがい知れます。

実際にCH-47は改良が進められ、最新式はCH-47Fという名称でアメリカ軍を中心に配備が進んでいて、陸上自衛隊では既存のJ型をF型相当へと改修しているといいます。すなわち、今後しばらくはCH-47が日本の空を飛ぶ姿を見続けることができるということになります。

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つねに安全に安定した飛行ができるのは、整備員たちの努力の賜物(矢作真弓撮影)。

 陸上自衛隊は2019年頃を目途に、MV-22B「オスプレイ」を配備すると見られます。つまり陸上自衛隊は「オスプレイ」とCH-47という、大型輸送機を2種類保有することになります。両者をどのように使い分けるのでしょうか。

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熊本地震にて、救援物資を運んできた航空自衛隊のCH-47J(矢作真弓撮影)。
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体験搭乗で機内に乗り込む見学者たち。最大で55名乗せることが可能(矢作真弓撮影)。
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CH-47の機内には陸自の高機動車を搭載することも可能(矢作真弓撮影)。

「大型輸送機」とひとくくりにしましたが、実は両者には明確な違いがあります。それが搭載力と飛行速度です。

 搭載力に優れているのはCH-47です。機内に陸自の高機動車などを搭載して飛行することも可能で、さらには「オスプレイ」よりも重いものを吊り上げることができます。

 飛行速度に関しては、固定翼機と同じくらいの速度が出せる「オスプレイ」に軍配が上がります。同じ場所から同時にスタートした場合は「オスプレイ」の方が先に到着するので、「オスプレイ」が人命救助用の人員と物資を真っ先に被災地に投入して、後からCH-47が各種の支援物資を大量に空輸してくるというパターンもあるのかと考えられます。

 大量の物資を一度に空輸でき、人員や車両も空輸することができるCH-47は、陸上自衛隊の「翼」として今後も大いに活躍することが期待されているのです。

【写真】大空を舞う落下傘、空挺降下をサポートするCH-47

導入30有余年、陸自/空自の輸送ヘリCH-47がいまなお被災地などで重宝されるワケ

空挺隊員を降下させるCH-47JA。同じ要領で空中から物資を投下することも可能(矢作真弓撮影)。

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