航空券や乗車券などは、早めに予約・購入すれば割引になるものの、旅行がキャンセルとなれば、相応のキャンセル料も発生。そうした旅行のキャンセル料を補償する保険が拡大しています。
急な事情で予定した旅行をキャンセルする場合、ホテルや旅行会社、交通事業者から規定のキャンセル料を請求されることがあります。たとえば宿泊日の7日前から4日前なら宿泊料金の20%、1日前なら80%、当日あるいは無連絡キャンセルであれば100%といった具合です。
高速バスやLCCなどの、キャンセル料を補償する保険商品が登場している(画像:杉崎観光バス/恵 知仁)。
こうしたキャンセル料の発生に対し、事前に保険料を支払うことで補償するという仕組みの保険商品が登場しています。たとえば2019年2月には、旅行大手のエイチ・アイ・エスが、三井住友海上と共同で開発した「H.I.S.キャンセルサポート」の販売を開始。3月12日(火)には高速バスを運行する杉崎観光バスが、ヨーロッパの保険会社アリアンツのグループ企業が提供する「チケットガード保険」の取り扱いを開始しました。いずれも旅行業界、乗合バス業界では初の導入だといいます。
杉崎観光バスの高速バスは乗車前に運賃の決済が必要ですが、高速バスの乗車予約とともに「チケットガード保険」に加入すれば、たとえば運賃1万円の1乗車につき、保険料940円で、キャンセル時に1万円全額が補償されるとのこと(運賃により保険料は異なる)。アリアンツグループのAWPジャパン(東京都品川区)に詳しく話を聞きました。
――どのような保険なのでしょうか?
「チケットガード保険」という名のとおり、乗車券など「チケット」にかける保険です。杉崎観光バス様の事例では、本人やその家族の入院・通院、あるいは死亡、乗車当日における交通機関の運休・遅延(2時間以上)、急な宿泊出張などで乗車できなかった場合、また同行者がこれらの理由で乗車できず、本人も行かなかった場合に、キャンセル料を補償します。
当日行けないとわかった段階で当社にご連絡いただき、補償を申請していただいたうえで、当社から保険金という形でキャンセル料相当額をお支払いします。ただ、杉崎観光バス様では従来から、乗車当日のキャンセルでも運賃の50%払い戻しが可能です(無連絡キャンセルの場合は払い戻しなし)。保険に加入していれば、その残り50%も保険金でお支払いするほか、同社へキャンセルの連絡をしなかった場合も、当社への申請で100%補償します。
コンサートチケットのキャンセルにも――そうしたキャンセル理由であれば、すべてのケースで補償されるのでしょうか?
いえ、たとえば歯医者や針灸、マッサージへの通院、自家用車やタクシーによる移動で遅延した場合など、お支払いの対象外となる事例もあります。また、遅延証明書や病院の領収書など、その事由を証明するものの添付が必要です。
――導入は増えているのでしょうか?
旅行会社や旅行予約サイトのほか、コンサートなど各種チケット販売サービスで取り扱っていただくケースが増えているほか、航空事業者ではピーチ・アビエーション様が2014年から導入されています。
杉崎観光バス様では、直前のキャンセルで払い戻されない代金の50%についても、お客様から払い戻しの依頼を頂くことがあり、それらに対応する解決策として本保険をご活用いただく運びとなりました。最大の目的は「顧客満足度の向上」です。同社のように、チケットとは別に保険としてご用意いただくケースのほか、チケットに保険料を含めた金額で販売し、「キャンセル料の返金が可能な商品」として顧客満足度アップにつなげるケースもあります。
――どのような人が加入しているのでしょうか?
早期に格安料金でチケットを購入される方や、高額なチケットに対して加入される方が多いです。たとえば5万円するオペラのチケットを3か月前から購入するとなれば、「行けなくなったらどうしよう」と思われるかもしれませんが、この保険で精神的なハードルを下げることができます。

杉崎観光バスにおける「チケットガード保険」の補償対象(画像:杉崎観光バス)。
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AWPジャパンによると、このような商品は海外では広く普及しているとのこと。最近になり日本でも導入が増えており、同社以外からも商品が出てきているといいます。
このようなキャンセルへの補償は、通常の国内旅行保険や海外旅行保険にも存在するものの、たとえば既往症がある人がクルーズなどの高額商品を購入した場合、加入できないケースがあるとのこと。対して同社の商品は、既往症がある人でも加入できるそうです。
ますます重要になる「早期予約」のリスクを軽減前出のエイチ・アイ・エスが販売する「H.I.S.キャンセルサポート」は、航空券やホテルなど、ツアー全体のキャンセル料をカバーする保険商品です。同社では従来からツアーのオプションとして同様のサービスを提供していたものの、適用可能事項の幅を広げ、同社が「保険単体で販売する」点が業界初とのこと。数年をかけて開発したもので、他社のツアーに対して加入することも可能だそうです。
「お客様が早めの予約を足踏みしてしまうのを打ち破ることが最大の目的です。インバウンド(訪日観光客)が増えていることもあり、様々な予約が間際では取りづらくなっています。2019年はゴールデンウイークに最大10連休、年末年始には最大9連休となりますが、この保険があれば半年前の予約でも安心できるでしょう」(エイチ・アイ・エス)
2018年は、台風や地震の影響で関西空港や新千歳空港が被災するなど、旅行者自身の都合ではないキャンセルも多く発生。そのような予期せぬ自然災害にも対応できるほか、もしキャンセルとなった場合、戻ってきた旅行代金で次の旅行を促すこともできると、エイチ・アイ・エスは話します。
AWPジャパンによるとこの保険は、「あくまでも、お客様ご自身は旅行やコンサートなどに『行きたい』はずですので、それらを直前までサポートできる体制を構築することが存在意義です」とのこと。

「H.I.S.キャンセルサポート」の補償範囲。黄色は従来のツアーオプションから拡大された補償内容(画像:エイチ・アイ・エス)。