海上自衛隊のはやぶさ型ミサイル艇が、まもなく退役の時期を迎えようとしています。ところが後継艦艇の建造計画は聞こえず、今後、同艇を配備し北海道の北辺を守る余市基地のあり方を左右することになるかもしれません。

敵水上艦艇への切り込み役

「はやぶさ型ミサイル艇」は、2004(平成16)年までに計6隻が建造されたウォータージェット推進の小型高速艇で、最大速力44ノット(約81.4km/h、公称)という、海上自衛隊の現役艦艇(2019年現在)のなかで最速のスピードを誇ります。

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海上自衛隊のはやぶさ型ミサイル艇「わかたか」。訓練にて90式艦対艦誘導弾を発射する様子(画像:海上自衛隊)。

 その速度を生かし、有事の際には搭載する90式艦対艦誘導弾や76mm速射砲で、近付いてくる敵艦艇を迎撃する任務が与えられており、またその様子から現場では、はやぶさ型ミサイル艇が洋上を高速で疾走するのを「海のスクランブル」と呼んでいるそうです。加えて、建造開始直前の1999(平成11)年3月に「能登半島沖不審船事件」が起きたことから、就役後は不審船への対処も役割として与えられてきました。

現役最速! 海自はやぶさ型ミサイル艇の退役時期と北辺を守る余市基地の悩ましい話

はやぶさ型ミサイル艇「わかたか」(画像:海上自衛隊)。

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はやぶさ型の76mm速射砲は外観が角張っているのが特徴(月刊PANZER編集部撮影)。
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はやぶさ型の主武装、90式艦対艦誘導弾。連装2基で計4発(月刊PANZER編集部撮影)。

 しかしそのはやぶさ型も、時代の変化と老朽化によってもうすぐ退役を始めようとしています。

 はやぶさ型の前型にあたる「1号型ミサイル艇」は3隻建造されましたが、3隻とも約17年の就役で2010(平成22)年までに退役しています。同艇は海上自衛隊艦艇史上、最速の(公称)46ノット(約85.2km/h)を誇りましたが、アルミ合金製の船体なので、鋼製の護衛艦などと比べると就役期間はだいぶ短くなります。

 1号型ミサイル艇ほどではないものの、はやぶさ型ミサイル艇もまた速度性能を重視して船体にアルミ合金を多用しており、鋼製船体の護衛艦と比べるとやはり耐用年数は短くなります。そのため、1号型ミサイル艇よりは長いでしょうが、それでもはやぶさ型の就役期間はおよそ20年程度だと考えられます。

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最大速力44ノットを発揮する3基のウォータージェット(月刊PANZER編集部撮影)。
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機関室。主機のガスタービンエンジンをコントロールする(月刊PANZER編集部撮影)。
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はやぶさ型の食堂兼待機所。
食事は弁当かレトルト食品のみ(月刊PANZER編集部撮影)。

 はやぶさ型ミサイル艇は2002(平成14)年から2004(平成16)年にかけて各年2隻ずつ竣工しているため、そこから積算するとそろそろ代艦建造の計画を始めなくてはならない時期ですが、しかし、そのような話は聞こえてきません。少なくとも2019年現在の「中期防衛力整備計画(2019年3月~2024年3月)」には記載されていないのです。

一芸に秀でた小型艦よりも多用途に使える大型艦が欲しい

 一方、海上自衛隊は新時代の主力となる多用途艦として、「3900トン型護衛艦」の建造を始めようとしています。同艦は通称「FFM」と呼ばれ、これまでの沿海警備用の小型護衛艦(DE)と掃海艦艇(MSO/MSC)の、両方の機能を持つ新艦種です。

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3900トン型護衛艦、通称「FFM」のイメージ(画像:三菱重工業)。

 FFMは2018年度予算で初めて建造予算がついた新型護衛艦で、基準排水量3900トン、全長130m、幅16m、主機はガスタービン+ディーゼルのCODAG式、速力は30ノット(約55.5km/h)というスペックが計画値として公開されています。

 今後、大幅な防衛予算の増額が難しく、自衛官定数の拡大も難しいなかで、海洋防衛力の強化を図ろうとしたときに、1隻で沿岸防衛と掃海(機雷処理)、船団護衛(離島防衛)まで様々な任務に対応できる船が必要とされ、このような新艦種が設計されました。

 これにより、従来の沿岸防衛用の小型護衛艦と地方隊配備の掃海艇の両方を更新する計画で、現時点で22隻の導入が計画されており、1番艦は2022年3月に竣工する予定です。

 2019年4月現在、護衛艦隊隷下の地方配備部隊の小型・旧式護衛艦が16隻、地方隊配備の掃海艇が13隻あるため、合計すると29隻になります。これをFFM22隻で更新しようとしているのですが、どうやら前述の、はやぶさ型ミサイル艇の置き換えも視野にあるようなのです。

 とはいえ、次期中期防(2024年4月以降)で建造するにしても、計画くらいは現時点で立てなければなりませんが、前述のようにそうした話は一向に聞こえてきません。

むろん、単能艦の運用に限界が生じているなか、改めてミサイル艇を導入するのは厳しいでしょう。

海自最北の艦艇配備基地「余市」

 そうしたなか、はやぶさ型ミサイル艇のみが配備されている余市基地(北海道余市町)にとっては別の問題があります。

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余市基地の浮桟橋に繋がれた「わかたか」。マストの前にある円盤形のものは射撃用レーダー(月刊PANZER編集部撮影)。

 はやぶさ型は大湊(第1ミサイル艇隊)、舞鶴(第2ミサイル艇隊)、佐世保(第3ミサイル艇隊)の3つの地方隊に2隻ずつ配備されていますが、舞鶴と佐世保については、司令部である地方総監部所在の基地に配備されているのに対し、大湊だけは地方総監部所在基地から独立して、北海道沿岸防衛のため、余市に配備されています。

 この余市基地よりもさらに北の稚内市に、海上自衛隊最北の基地となる稚内基地がありますが、そちらは宗谷海峡の警戒監視や、稚内港に入港する海上自衛隊艦艇への支援がおもな任務です。

そのため各種艦艇は配備されておらず、その点で余市が艦艇配備基地としては最北となるのです。

 余市基地には余市防備隊が置かれ、はやぶさ型ミサイル艇の「わかたか」と「くまたか」を配備、この2隻で第1ミサイル艇隊を編成しています。人数は100人もいない小さな基地・部隊ですが、それでも小樽港などの道央地区の港湾に入港する海上自衛隊艦艇の支援にあたったり、第1ミサイル艇隊は北海道西部の海域に進出し、周辺を往来するロシア艦艇の警戒監視活動に従事していたりします。

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余市基地の外観。街の小中学校程度の広さしかない(月刊PANZER編集部撮影)。
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余市基地には防備隊本部所属の支援船も配備されている(月刊PANZER編集部撮影)。
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「わかたか」と共に余市に配備されている「くまたか」(画像:海上自衛隊)。

 余市の次に戦闘艦艇が配備されている基地となると、函館基地か青森県の大湊基地(むつ市)になります。このふたつは津軽海峡に面しており、宗谷海峡までは直線距離でもおよそ500kmあるため、航空機ならばあっという間ですが、艦艇の場合はほぼ丸1日(15時間から18時間)かけないと到達できません。

 その一方、宗谷海峡はロシア太平洋艦隊の軍艦が日本海とオホーツク海、西太平洋を行き来するのに重要な航路となっています。その点で、宗谷海峡まで約280kmと大湊の半分ほどの位置にある余市に、俊足のミサイル艇が配備されているのは重要なことなのです。

 ただし前述したように、はやぶさ型ミサイル艇もそろそろ耐用年数が近付いているのは確かです。他方で、余市基地の規模は小さく、FFMが入港することはできません。道央地区の海上自衛隊艦艇の入港支援や地元自治体との調整も必須なので、基地自体がすぐになくなることはないでしょうが、余市防備隊をどうするのか、具体的には、基地機能を拡大するのか、新たな小型艇を配置するのか、はたまた稚内のように警戒監視と入港支援に特化するのか、日本最北の艦艇配備基地は岐路に立たされているのです。