千葉県北部、京成線のユーカリが丘駅からテニスラケットのように突き出た環状線。これは山万ユーカリが丘線で、路線と一体になったニュータウン内を、ゴムタイヤで非冷房の電車が1周しています。
首都圏の路線図を見ていると、千葉県内を走る京成線のユーカリが丘駅から、テニスラケットのような形をしたユーカリが丘線が出ていることに気付きます。一体どんな路線なのか、乗りに出かけました。
「こあら号」の愛称を持つ山万ユーカリが丘線の1000形電車(2019年10月、蜂谷あす美撮影)。
訪れたのは京成上野駅から京成線で50分のところに位置するユーカリが丘駅です。時刻は7時半を少し過ぎたところ。ちょうど列車が到着したタイミングなのでしょう、ユーカリが丘線の改札を大勢の人が足早に抜け、京成線の駅に向かっていきました。
一方、これからユーカリが丘線に乗ろうとする人は……私ひとりでした。運賃表によれば、どこまで乗っても運賃は一律200円で、券売機は「大人」「小人」「人数」のボタンしかない非常にシンプルなもの。今回は、あちこちめぐりたく、1日乗車券を窓口で買い求め、ホームへと向かいました。ちなみに改札は、首都圏では珍しくなったICカード非対応です。
列車はユーカリが丘駅で折り返し運転を行います。到着した3両編成の列車からは30人ほどの乗客が下車しました。
列車はユーカリが丘駅を発車後、加速をしないまま高架線を走り、隣駅である地区センター駅に到着します。一般の列車とは異なりゴムタイヤで走る案内軌条方式であることから、がたんごとんとした鋭い揺れはありません。
次の公園駅で、ロングシートの向かいに座っていた70歳前後と思しき3人組が下車していきました。列車は、女子大駅、中学校駅と発着を続けていきます。架空の駅名のようですが、すべて実在の駅です。車窓は右側に、マンションや戸建などの住宅、また、左手には畑や原っぱが見えました。列車は井野駅を発車後、再び公園駅に到着。1周して戻ってきたのです。
所要時間はおよそ14分、乗車距離は5kmちょっとです。これにてユーカリが丘線完乗!せっかくなら反対方向にも乗りたいところですが、山手線のような「外回り・内回り」はなく、すべての列車が反時計周りに走っています。

ユーカリが丘線の内側は、畑など緑地が保全されている(2019年10月、蜂谷あす美撮影)。
さて、この一風変わった路線があるのは、千葉県の佐倉市に位置するユーカリが丘というニュータウン。ユーカリが丘は山万株式会社が1970年代後半から分譲を始めたエリアで、面積はおよそ245ヘクタール。そして1982(昭和57)年に全線開業したユーカリが丘線を運営しているのもまた山万株式会社。つまり、ニュータウンの移動手段としての役割をユーカリが丘線は担っているのです。
このような経緯から、沿線の景色も特徴的です。まず、駅前から地区センター駅にかけては、シネコンや書店の入居する商業施設や日帰り入浴施設、塾などが立ち並び、一帯が商業エリアの位置付けです。続く公園駅の前には、駅名の由来であるユーカリが丘南公園があり、10時過ぎに訪れたときには、親子連れが遊んでいる様子が見られました。
街と一体の路線、外側に住居、内側に緑地公園駅以上にインパクトがある駅名を有しているのは女子大駅です。

女子大駅の外観(2019年10月、蜂谷あす美撮影)。
また、沿線は戸建てあるいはマンションが数多く立ち並んでいながらも、空き地があちこちに見られます。一般的にニュータウンというと、高齢化に注目が集まりますが、ユーカリが丘ではあえて毎年の分譲戸数を200~300戸に抑えることで年齢層のバランスを保っています。さらに、前述のように車窓の右手、つまり環状線の外側に住宅が立ち並ぶ一方で、内側には畑などが見られるのも特徴的ですが、これは街の中心を農地、緑地として保全しているためです。
加えて駅間距離が短く、一番離れている公園~女子大間でも900mしかないため、全区間を通して列車はゆっくり走ります。これは、どこに住んでいても「駅まで10分以内」を達成するためのもの。地域住民を主眼に置いた路線だとわかります。ただ、このようなつくりであることから、公園駅以外にはお手洗い設備がありません。
日中は、地元の主婦層や高齢者層の利用が目立ち、地域外の利用者と思しき人はほぼ見かけませんでした。
このように「街づくりの一環」としての存在であるユーカリが丘線は、開業以来一度も事故を起こしたことがありません。1周およそ14分のショートトリップですが、ほかとは異なる景色が見られます。