関西空港ではドローンにより滑走路の閉鎖が相次ぎましたが、こうしたドローンを実力排除する手段もさまざまに開発されています。そのひとつ、イスラエルの防空システム「アイアンドーム」の開発会社によるドローン対策に注目しました。
ドローンにより空港や航空会社、その利用客が損害を被るという事案が、相次ぎ発生しました。
ドローン対策システム「ドローンドーム」の、CCD/赤外線カメラ(左)と360度を監視可能なレーダー(画像:ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズ)。
2019年11月9日の午前8時ごろ、大阪府泉佐野市の関西国際空港で、航空会社の地上作業員がドローンのような物体を目撃したことから、国土交通省大阪航空局が約1時間10分に渡って安全確認のため滑走路を閉鎖。その結果2便が欠航し、到着予定の17便が別の空港に目的地を変更したほか、出発便にも最大2時間の遅れが生じてしまいました。
関西国際空港では10月19日と11月7日にも、やはりドローンの目撃情報により一時滑走路が閉鎖されていますが、空港関連施設へのドローンの侵入は日本だけでなく、近年、全世界で増加しており、2018年には全世界で20件以上の事案が発生しています。このうち2018年12月19日にロンドンのガトウィック空港で発生した事案では、36時間に渡って滑走路が閉鎖され、約1000便が欠航または目的地の変更を余儀なくされ、約14万人の利用者が影響を受けました。
ガトウィック空港の閉鎖によって生じた損害額は明らかにされていませんが、損害額は数百万ポンドに上るとの報道もあります。また、このような事態が発生し長時間に渡って滑走路が閉鎖されてしまうと、企業がその空港の所在する都市にビジネスの拠点を置くことを忌避する可能性も指摘されています。
ドローン規制を決定づけたテロまがいの事件もドローンは航空業界だけでなく、社会全体に脅威を与える存在になりつつあると言えます。
2015年4月22日の午前10時20分ごろ、東京都千代田区永田町の首相官邸(内閣総理大臣官邸)屋上ヘリポートにて、落下していたドローンが発見され、搭載していたプラスチック製容器に微量の放射性物質、セシウム134とセシウム137が入っていたという事件も起こっています。
この事件に関してはドローンを飛行させた人物が警察に自首し、テロリストなどとの繋がりはないことが判明していますが、日本で最も警備が厳重なはずの場所のひとつである首相官邸の屋上へドローンが着陸していたことに、誰も気づいていなかったという事実は、重く受け止めるべきでしょう。

「ジャミングガン」のひとつ「ドローンガンMk3」(竹内 修撮影)
この事件を契機に日本でもドローンを規制する法整備が進められ、2016年4月7日には首相官邸や在外公館、原子力発電所の上空などでドローンを飛行することを禁止する、ドローン規制法が施行されています。
また警視庁にも、網で飛行中のドローンを捕獲する改造を加えたドローンを装備する「無人航空機対処部隊」(IDT)が編成されたほか、警察庁も強力な電磁波を照射してドローンを制御不能にする「ジャミングガン」を導入する
など、ドローンの不正利用への対処策も講じられていますが、筆者(竹内 修:軍事ジャーナリスト)はイギリスなどに比べると、まだ遅れているという印象を受けています。
2019年11月18日から20日まで、千葉市の幕張メッセで開催された防衛総合イベント「DSEI Japan 2019」でも、こうした日本の状況をビジネスチャンスと捉えた外国企業による、ドローン対策製品の展示が行なわれました。そのなかで筆者が最も注目したのは、イスラエルのラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズが出展した「ドローンドーム」です。
ドローンドームのドローン探知システムは、CCDカメラと赤外線カメラ、電波を測定するRFセンサー、レーダーから構成されています。

「ドローンドーム」のオペレーター用ディスプレイの画面。ドローンの飛行位置や種類などが整理されて表示される(竹内 修撮影)
既存の多くのレーダーは、鳥のような小型の飛行物体や自動車が発するノイズによる影響を受けやすく、それがドローンの探知を困難にしていますが、ドローンドームのレーダーは、イスラエルが実戦で収集したデータを活用して、ドローンのみを検出する能力を備えています。CCDカメラと赤外線カメラはレーダーと連動しており、ドローンに危険物が搭載されていないかを識別、またRFセンサーにより、ドローン操縦者の位置を特定する能力も備えています。
危険とみなされたドローンは電波による妨害、またはレーザーの照射によって無力化されます。2019年現在の日本では、電波妨害は総務省から特別な許可を受けた警察などの組織しか行なえませんが、イーサネットで警察などと接続し電波妨害を行なう仕組みを構築できれば、空港などでも迅速な対処が行なえます。レーザーは自衛隊などの軍事組織のみに使用が限定されていますが、流れ弾による第三者への損害などを考慮することなく、高い確率で無力化できます。
ドローンドームは前述したガトウィック空港をはじめ、同じロンドンに所在するヒースロー空港、シンガポールのチャンギ空港などにも導入されており、ラファエル・アドバンスド・ディフェンス・システムズは、日本の公的機関から購入の申し出があったことを明らかにしています。