天皇陛下が鉄道を利用される際に運行される「お召列車」。実はJR東日本の特別車両だけでなく、新幹線など様々な車両が使われています。
天皇皇后両陛下や上皇上皇后両陛下といった方々が鉄道を利用して移動される際、特別な車両を仕立てて特別なダイヤで運行されるのが「お召列車」です。
国鉄時代は、天皇皇后両陛下が乗車される「御料車」に、ともに移動する供奉(ぐぶ)員が乗車する「供奉車」をつないだ「一号編成」と呼ばれる客車列車がおもに使われましたが、現在ではJR東日本がE655系電車「なごみ」に連結する特別車両を運用するほかは、JRや私鉄各社は旅客列車に用いる通常の車両を、特別に整備して使用しています。
お召列車での使用を考慮して製造されたJR東日本のE655系電車(2010年9月、伊藤真悟撮影)。
今回はそのようなお召列車のなかから、印象深い車両をピックアップしました。
なお「お召列車」の定義は「天皇、皇后、上皇、上皇后、皇太后が利用する列車」ですが、ここでは皇太子殿下や皇族が利用される「御乗用列車」も含めます。また、「陛下」や「殿下」などの敬称はいずれも当時のものです。
新幹線で歌を詠まれた昭和天皇1964(昭和39)年に東海道新幹線が開業した後は、歴代の天皇陛下も新幹線で各地を巡幸されています。ここ数年でも東海道新幹線はもちろん、北陸新幹線や九州新幹線なども利用されています。

天皇陛下は新幹線も利用される。写真のN700系R8編成には2013年10月23日、エコパーク水俣へお出かけのとき乗車された(2012年12月、児山 計撮影)。
昭和天皇が初めて新幹線を利用されたのは1965(昭和40)年5月7日、鳥取植樹祭への行幸で、東京~新大阪間を移動されたときのことです。
このとき陛下は運転席にも入られ、前面展望を楽しまれたそうです。その際に「四時間にてはや大阪に着きにけり新幹線はすべるがごとし」「避け得ずに運転台にあたりたる雀のあとのまどにのこれり」という歌を二首したためられています。
近鉄はグレードの高い特急形車両をお召列車に目的地がJR線上にない場合、もしくはJRよりも私鉄のほうが利便を図れる場合は、天皇陛下は私鉄も利用されます。

私鉄のなかでは皇族のご利用が多い近鉄。現在はおもに50000系電車「しまかぜ」がお召し列車として使われる(2018年12月、児山 計撮影)。
特に近鉄(近畿日本鉄道)は伊勢や吉野、奈良などを網羅することから、皇族のご利用が多い鉄道会社です。近鉄では原則として設備の新しい、もしくはグレードの高い車両をお召列車に充当します。かつては車両の一部を改装し「御座所」を設けたこともありますが、現在では21020系電車「アーバンライナー」のデラックスシートや、50000系電車の観光特急「しまかぜ」などを使用します。
神戸電鉄3000系電車1980(昭和55)年7月23日、兵庫県の県立施設の見学に向かわれる当時皇太子だった明仁殿下と美智子妃殿下が、神戸電鉄の新開地~志染間を利用されています。神戸電鉄は通勤・通学路線で御乗用列車はもちろん、近鉄のような特急形の車両も所有していません。

御乗用列車に使われた3000系3010編成。神戸電鉄には通勤形電車しかないが、当時の最新型車両を使用した(2007年8月、児山 計撮影)。
神戸電鉄は当時最新型の3000系電車3010編成を使用し、新開地~志染間をノンストップで運転しました。道中では殿下が車内に掲示されている路線図をご覧になりながら、神戸電鉄の中田社長(当時)に解説を求められるといった、通勤形電車らしいエピソードが残されています。
つくばエクスプレスTX2000系電車2008(平成20)年11月12日、茨城県の宇宙航空研究開発機構の視察や国際会議出席などのため、当時の天皇皇后両陛下はつくばエクスプレスに乗車されました。この際お召し列車に指定されたTX2000系電車の2168編成は、窓ガラスの一部を防弾ガラスにし、お召し列車の運転までは通常の営業運転に使用しない措置が取られました。

2008年、お召列車に使われた2168編成。お召列車での運用の際は連結器を銀色に塗るなどの装飾が施された(2008年11月、児山 計撮影)。
また、これまでお召し列車の運転士には、各鉄道事業者のベテランが抜擢されることが通例でしたが、つくばエクスプレスはATO(自動列車運転装置)による自動運転を行う路線です。このときのお召し列車が自動運転だったか手動運転だったかは判明しませんでしたが、少なくとも自動運転が可能な列車で初のお召し列車であったことは間違いありません。
短距離でもお召列車 セキュリティを考慮し新幹線?2010(平成22)年12月21日に、当時の天皇皇后両陛下が埼玉県さいたま市の鉄道博物館を訪問された際、大宮~鉄道博物館間で埼玉新都市交通のニューシャトルを利用されました。このときの乗車距離は1.5kmと、きわめて短い距離でした。余談ですが、このとき東京~大宮間は新幹線に乗車されています。こちらも短い距離ですが、セキュリティなどを考えた場合、新幹線の利用が適切という判断と思われます。

お召列車に使われた2000系2102編成。乗車距離1.5kmでも警備の厳重さは変わらない(2011年12月、児山 計撮影)。
なお、ニューシャトルも特別な車両を保有していないため、当時最新型の2000形電車を用いた以外は、車両に特別な装備はしなかったそうです。
こどもの国のミニSL「太陽号」2009(平成21)年12月19日、当時の天皇皇后両陛下、皇太子だった徳仁殿下と雅子妃両殿下、秋篠宮ご一家と黒田さんご夫妻の計11人が、神奈川県横浜市の「こどもの国」を訪問されました。その際、園内を走行するミニSL「太陽号」に乗車されています。こどもの国は、1959(昭和34)年の当時皇太子だった明仁殿下と美智子さまのご成婚を記念し、1965(昭和40)年に開園しており、皇室とは縁の深い施設です。
現在も「太陽号」の乗り場には、ご一家が乗車された際の写真が展示されています。