青島文化教材社が手掛けているプラモデルの「デコトラ」、これらは実在するものなのでしょうか。ある映画のブームをきっかけに、40年以上も続く「アオシマのデコトラ」、その模型制作の舞台裏を聞きました。
いわゆる「デコトラ」のプラモデルシリーズを長年にわたり展開しているのが、静岡県の模型メーカー、青島文化教材社です。2020年現在、デコトラ関係のプラモデル新製品を開発し続けているのは、同社のみだそうです。
たとえば2010(平成22)年から続く「1/32バリューデコトラ」シリーズは、「修羅雪姫(深箱ダンプ)」「島根のブリ麿(冷凍トレーラー)」「ヤンキーメイト(4t可動ウイング)」といった商品が、これまで50種以上も展開されています。どれも、“それっぽい”車体ペイントや装飾が施されたものですが、これら車両は実在するのでしょうか。どのように取材しているのか、青島文化教材社に聞きました。
バリューデコトラ「二代目髑髏丸(大型冷凍車)」(画像:青島文化教材社)。
――プラモデルのデコトラは、実在するのでしょうか?
「1/32バリューデコトラ」は、すべて架空のクルマで実在しません。一方、上位シリーズである「1/32バリューデコトラExtra」は全車実在し、実車を再現しています。
――制作にあたり、実車のドライバーに取材をするのでしょうか?
実車を再現する「バリューデコトラExtra」は、取材をガッツリ行い、オーナーさんともいろいろな話をして、思いやこだわりを商品に反映するよう努力しています。一方、架空のクルマを展開する「バリューデコトラ」の制作に際しては、取材はありません。
架空のデコトラ、どう作っている? すべてはあの映画から――架空のクルマの模型制作は、どうアイディアを具現化させているのでしょうか?
まずテーマを決め、車種、車体構成、飾りの方向性、乗っている人間の人物像などを包括的に考え、洒落を利かせて頭の中でクルマを組み立てていきます。実際には映出車(映画に登場したクルマ)のパロディだったり、1970年代、80年代に存在した実車の影響を強く受けたりすることも多いですが、それらを元にオリジナルに組み立てていきます。
頭の中で全体像がある程度でき上がったら、実際にパーツを揃えて仮組みをしたり、寸法を確認したりします。この段階で一番大事なのはコストの管理で、定められた原価、利益率を守りながら、いかに良い商品を作れるかが、担当者としてのウデの見せ所です。
――制作のペースや、苦労するのはどのような点でしょうか?
以前は年間15点ほどトラックやデコトラモデルの新製品がありましたが、最近は年間5、6点程度に落ち着いています。デコトラは毎回、新規の金型を投入できるわけではないため、既存部品をやりくりして商品化しています。一番苦労するのは、なるべくマンネリにならないようにすることで、同じ部品を使いながら、全く違うクルマに見せなければならないのが大変です。

車体のペイント類やナンバープレートを再現したシールやデカールが付属する(画像:青島文化教材社)。
――そもそも、なぜデコトラの模型を作り始めたのでしょうか?
もともとは1975(昭和50)年に公開された東映の映画『トラック野郎』のヒットによる「トラック野郎ブーム」に乗って、映画版権を獲得したうえで映出車を商品化しようとしたのが始まりです。しかし、その版権取得に苦労し、自社ブランドでの商品化に切り替えることとなり、その際にデコレーショントラックの略である「デコトラ」という言葉を創り、シリーズ名に据えたのが、こんにちまで脈々と続くアオシマのデコトラシリーズです。
昔とは全く違う! デコトラモデル40年の熱き想い――昔と比べて進化したのはどのような点でしょうか?
もともとは子供向けの玩具としてのスタートでしたが、いまや完全に大人向けのホビーとなっています。ですからコンセプトが大幅に変わっており、パーツの精度、パーツ点数や再現度など、すべてにおいて精密になってきました。デコトラシリーズは2020年で44年目ですが、年代を追うごとに実車に近く、リアルになる方向で進化してきています。
しかし、リアルさの追求と作りやすさは反比例する部分があり、総じて近年のキットは難易度も上がってしまいました。

バリューデコトラ「令和元年(大型冷凍車)」(画像:青島文化教材社)。
※ ※ ※
デコトラシリーズの購買層は、基本的にはデコトラやトラックが好きな人で、実車のトラックドライバーも多いとのこと。年齢層でいえば40代以上がメインではあるものの、毎年、若年層にもファンが増えているそうです。また、アジアを中心に少しずつ輸出もしているといいます。
このアオシマのデコトラシリーズ、ひとりの担当者がすべてを手掛けています。担当者は幼稚園のころから同社のデコトラプラモを作って育ったといい、「大学生のころには、アルバイトで始めた運送業にハマってしまい、学校へ行かずトラッカーの日々、でもそれらの経験が、いまの仕事の糧になっています」と話します。
「デコトラはロマンであり、男の憧れ。古き良き日本の文化でもあります。実車の世界においては次第に数を減らしていますが、なくなることはありません。皆さんの思い、理想をプラモデルにぶつけて、これからも楽しんでいただければ幸いです」(青島文化教材社 デコトラシリーズ担当)
なお、「デコトラ」という言葉はいまや一般名詞ともなっていますが、青島文化教材社が商標を保有しています。