都市間を結ぶ高速バスのなかには、「それどこ?」と思えるような終点や行先が存在します。なかには、一見何もなさそうなのに多くの人が下りていく途中停留所や、中途半端に思える終点も。

そこから高速バスの特徴が見えてきます。

高速バス、一般的には鉄道駅やバスターミナルが終点だが…

 高速バスの終点(最終停留所)の中には、ときどき「それどこ?」と疑問に感じる停留所があります。果たしてどのような人が利用しているのでしょうか。

 一般的に、都市間を結ぶ高速バスは鉄道駅やバスターミナルが終点です。地方都市の場合、繁華街や官庁街が並ぶ中心市街地にバスターミナルが立地し、少し外れたところに鉄道駅があるケースが多く、そこへ向かう高速バスは、高速道路を降りると中心市街地でこまめに停車し、鉄道駅を終点とするのが典型的なルート選択です。

 もちろん先に駅へ向かい、中心市街地が終点になる都市もありますし、新宿駅や東京駅などに停車後、東京ディズニーリゾートのようなテーマパークを終点とするのも典型例のひとつです。

 ところが、「それどこ?」という終点もあります。

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東京~木更津線の終点にもなっているイオンモール木更津。京成バスの車両が停車(2020年6月、成定竜一撮影)。

「事業所」が終点 ロボットテストフィールド 製鉄所…

 たとえば「ロボットテストフィールド」。東北アクセスが運行する福島~南相馬線の終点は、東日本大震災で大きな被害を受けた福島県南相馬市の海岸沿いに整備が進む「福島ロボットテストフィールド」にあります。無人航空機用の滑走路を備え、ロボットやドローンの世界最先端の技術開発を目指す施設です。

現地に移住、滞在する技術者の往来や、東京など各地からの出張客の需要があるのです。

 他に「君津製鉄所」(千葉県君津市、日本製鉄東日本製鉄所君津地区の東門前)や「原子力機構前」(茨城県東海村、日本原子力研究開発機構の本部前)などがあります。社員や取引先が往訪することは多いようで、両事業所の公式サイトでも、アクセスとして高速バスが紹介されています。

地元のイオンが終点 実はそこには…

 商業施設が終点、という例もあります。静岡県御殿場市の「御殿場プレミアム・アウトレット」や、千葉県木更津市の「三井アウトレットパーク木更津」などは、首都圏各地から相当な路線数の高速バスが設定されており好評です。

 しかし路線によっては、「イオンモール木更津」「イオンモール富津」のような、ふだん使いのショッピングモールまで高速バスの終点となっていて驚きます。

 実は、これらのモールでは、巨大な来店客用駐車場の一角が「高速バス利用者専用(または優先)」とされています。地元の人が通勤などで東京都内に向かう際、ここに自家用車を止めて高速バスに乗車するのです。また路線バスも多く乗り入れ、高速バスに乗り継げます。郊外のショッピングモールが、事実上、バスターミナルとして機能しているわけです。

 イオンモール木更津の開発コンセプトは「BOSO Central Gate」です。駐車場や停留所スペースを提供することで、地域の交流拠点を目指す姿勢が伝わります。

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栃木県の佐野プレミアム・アウトレット。東京から多くの高速バスが発着する佐野新都市バスターミナルが隣接するが、アウトレット内に停車する便もある(2018年12月、中島洋平撮影)。

 なお、沖縄県北中城村の「イオンモール沖縄ライカム」などは、「ふだん使い」というより「目的地型」の商業施設といえそうですが、ここも那覇市内から高速バスで来店する人が多くいます。ここでは、購入金額に応じて復路の高速バス無料券を提供するキャンペーンも行っています。

途中停留所で大量下車。この人たちはどこへ?

 終点ではない途中停留所にも、山形県鶴岡市の「庄内観光物産館」や、高松市の「ゆめタウン高松」など、パーク&ライドの機能を持つ商業施設があります。

 また、高速道路上やIC付近の停留所の周辺に、自治体やバス事業者が駐車場を整備している場所も数多くみられます。「周囲に何もないのに、なぜこんなに乗降があるんだろう?」と感じるのは、ほとんどがこのケースです。

 しかし、なかには違うケースもあります。山梨県富士吉田市の「中央道下吉田」は、高速道路本線上の目立たない停留所でした。ところが2011(平成23)年頃から乗降が急増。実は、徒歩で10分ほどの新倉山浅間公園が、訪日外国人のあいだで急に人気となったのです。

同公園には五重塔を模した建物があり、春には約650本の桜が咲き、そして富士山を望むことができます。日本らしい3つの要素を1枚の写真に収められるとして、特にタイからの訪日客らで急速に利用が高まりました。

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伊那バスの車両。中央道辰野にて(2019年7月、中島洋平撮影)。

 中央道ではもうひとつ、伊那バスが運行する横浜~飯田線の「中央道駒ヶ根インター」(長野県駒ヶ根市)において、週の前半に降車が目立ちます。

実は、合宿免許で有名な自動車教習所が近くにあり、入校者を迎えに来るのです。カリキュラムが決まっているため、利用は特定の曜日に集中します。なお、新宿や名古屋、大阪発の路線については、「駒ヶ根バスターミナル」まで送迎を行っているとのことです。余談ですが、この教習所は事業用バスの運転に必要な大型二種免許の取得数が国内トップクラスで、路線バスや高速バスタイプの教習車両を多数保有しています。

なぜ? 中途半端な行先「古戦場駅行き」

 豊鉄バスの新城~名古屋線は、名古屋ICを降り藤が丘駅(名古屋市名東区)に停車したあと、繁華街である栄や名駅(名古屋駅)に背を向け、終点の長久手古戦場駅(長久手市)へ向かいます。

 都心まで乗り入れないのは、所要時間が延びると1台で1日に3往復するダイヤを組めないことが理由です。藤が丘駅は、名古屋ICに近いうえ、栄と名駅に地下鉄1本で行けるので、所要時間と利便性のバランスという点で最適です。

 さらに長久手古戦場駅の周辺には、愛知学院大学や名古屋外国語大学といった大学が集中しています。新城市からは鉄道だと乗り換えが必要ですが、高速バスのおかげで簡単に通学できるようになりました。同市の高校生にとっては、実家から通える大学が増え、進路の選択肢も広がったことでしょう。愛知医科大学病院も両駅から近く、定期的な通院者の利用もあります。

 また新城市民の生活に必要な路線として、高速バスとしては珍しく同市が運行経費の一部を補助しています。今後は、紅葉で有名な鳳来寺山など新城市への観光客誘致に貢献することも期待されます。

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豊鉄バスの新城~名古屋(藤が丘)線「山の湊号」(画像:新城市)。

 蛇足ですが、新城市は、織田・徳川連合軍が武田軍と戦った「長篠・設楽原(したらがはら)の戦い」が行われた地で、設楽原古戦場が人気の観光地になっています。なお、その戦いの9年後に羽柴(豊臣)軍と徳川軍が戦った「小牧・長久手の戦い」の舞台のひとつが、終点の長久手古戦場です。

 このように高速バスの終点や停留所はバラエティに富んでいます。もう1例を挙げると、「福島競馬場前」(福島市)は、、競馬ファンのために路線をわざわざ伸ばしたように見えますが、実は福島交通の営業所(車庫)の目の前、というようなケースもあります。

 高速バスの終点の先には、その土地ならではの風景が広がっています。

※一部修正しました(9月13日11時20分)。

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