昨シーズンは最下位に沈んだ阪神が好調を維持している。6月9日時点で31勝27敗、首位広島と3ゲーム差の3位。

2年ぶりのAクラス、さらにリーグ優勝へと視界は良好だ。

 矢野燿大新監督のもと、阪神はどのように生まれ変わったのか。現役時代、2001年から5年連続で盗塁王を獲得するなど、阪神の不動のリードオフマンとして活躍した赤星憲広氏に、古巣の現状について聞いた。

「矢野ガッツ」が阪神を変えた。赤星憲広が考えるチームの好材料...の画像はこちら >>

気持ちを前面に出してチームをけん引する矢野監督

──ここまで好調な阪神のMVPを挙げるとしたら誰になりますか?

「ルーキーの近本(光司)しかいません。彼の存在なくして今の順位はなかったでしょう。彼がセンターのポジションを掴み取ったのはすごく大きいです」

──近年の阪神は、センターラインの弱さが課題とされていましたね。

「昨シーズン最下位になった一番の要因も、そこにあったと思います。若手が育っていなかったこともありますが、選手を固定できなかったことが問題で、セ・パ12球団の中でも厳しい印象がありました。それでも昨年は、捕手の梅野(隆太郎)が成長してゴールデングラブ賞を獲得するなど、明るい好材料もありましたけどね。今シーズンは打撃もいいですし、他の捕手との差がより大きく広がったように感じます」

──残るは二遊間ですが、まずショートに関してはいかがですか?

「近本と同じルーキーの木浪(聖也)が出てきて、ポジション争いが活性化しましたね。社会人時代に見た時には内野をどこでも守れる選手という印象で、それが強みでもあるんですが、『器用貧乏にならなければいいな』と思っていました。しかしオープン戦では両リーグ最多の22安打を放ち、実力で開幕スタメンを勝ち取ったのですから、すばらしいのひと言です。

 ただ、課題はたくさんあります。開幕してすぐスタメンを何試合か外されることもありましたが、今は8番打者で”使ってもらっている”状態。そこは近本と決定的に違います。守備でイージーなミスが目立ちますし、矢野監督も我慢して起用しているように見受けられます。しっかり守ることを当面の目標に、打率も2割5分くらいをキープできるようになるといいですね」

── 一方のセカンドは、新キャプテンの糸原健斗選手でほぼ固まった印象があります。

「私は今シーズンの糸原の働きを高く評価しています。

打率は2割6分前後ですが、2割8分、3割くらい打っているように感じていたので、あらためて数字を見た時に『こんなに低かったの?』と驚いたくらいです。チームトップの四球数(38個)が象徴するように、彼の粘り、いやらしさは相手チームにとってかなりのダメージになるはずです。

 相手投手に球数を多く投げさせ、次につなげる意識が高い二番打者がいると、出塁した一番打者は焦らずに盗塁の機会を見極めることができます。私が現役時代に二番を打っていた関本(賢太郎)もそうでしたね。現在、近本がリーグトップを争うくらい盗塁数が増えているのも、糸原のアシストによる部分が大きいと思います。守備範囲は上本(博紀)ほうが広いですが、安定感はありますし、攻撃での貢献度も考えて糸原が起用されているのでしょう」

──今シーズンは、投手陣も粘りの投球ができているように感じます。

「まず先発陣については、開幕前から枚数は揃っていたので心配していませんでした。小野(泰己)の離脱はあったものの、岩貞(祐太)や秋山(匠己)が穴を埋め、ベテランの岩田(稔)も頑張っています。昨シーズンのように(ランディ・)メッセンジャーに頼りきりになることはないでしょう。今シーズンのメッセンジャーは黒星が先行していますが、交流戦の初戦で勝利したように、節目の試合ではやはり彼の力が必要になると思います」

──中継ぎ陣に関してはいかがですか?

「島本(浩也)、守屋(功輝)など活きのいい若手が台頭していますね。昨年、二軍で指揮を執っていた矢野監督も彼らの成長を見ていたでしょうし、一軍レベルで通用するという期待に見事に応えています。さらにすばらしかったのは(ピアース・)ジョンソンです。

昨シーズンまで登板が多かった桑原(謙太朗)や岩崎(優)の蓄積疲労が心配される中、見事にハマリましたね。

 彼の魅力は、ストレートとパワーカーブのコントロールがいいこと。有利なカウントに持ち込むことができ、どちらの球種も勝負球として三振が取れる。また、クローザーの(ラファエル・)ドリスとタイプが異なるのも功を奏していると思います。同じ右投手ではあるんですが、ジョンソンはきれいな真っ直ぐと大きなカーブ、ドリスは動きのある真っ直ぐと落ちるボールで勝負するので、打者は対応が難しいでしょうね」

──打撃陣については、大山悠輔選手の四番としての存在感が増したように思います。赤星さんの印象はいかがですか?

「大山は、昨シーズンよりも楽に打席に入ることができているんじゃないでしょうか。

近年のタイガースは打撃陣の調子が全体的によくなく、その全責任が四番に押しつけられてしまう傾向にありました。しかし今シーズンは、近本や梅野などに注目が分散されたことにより、少し調子が落ちても批判が集中しないようになったと思います。

 そうなれば、矢野監督も大山の成長をじっくり待つことができる。現在は一番から三番までの出塁率が高く、順調に打点を挙げることができているので、それも自信になるでしょう。また、精神的な余裕が、もともと評価が高い守備にもプラスに働くでしょうね」

──矢野監督の采配についてはいかがですか?

「近本や木浪をいきなりスタメンで起用する大胆さ、その成長を待つ忍耐力もすばらしいですね。そして今は、開幕当初よりも采配がしやすくなっているはずです。少なくとも、近本、大山、梅野という3人をすんなりとメンバー表に書き込むことができ、それを軸に戦術を練ることができるわけですから。その点は、上位打線を固定してリーグ3連覇を果たした広島と重なる部分だと思います」

──”矢野ガッツ”とも呼ばれる、感情を前面に出す姿も話題になっていますね。

「最初は、大差で負けている時のシングルヒットでガッツポーズをしたり、サヨナラホームランを打った選手を誰よりも早く出迎えたりということに、違和感を覚えたファンもいると思います。しかし矢野監督はそれを貫き、明るさがチーム内に浸透してきましたよね。ペナントレースは長いですし、『常に先を見てポジティブにいこう』という監督の思いが、選手にも伝わったのでしょう」

──今後もチームが好調を持続するために、また、来年以降を見据えた時にさらに必要なことはありますか?

「より激しいポジション争いですね。とくに外野陣の若い選手たちが、近本の活躍を見てどう発奮するかに期待しています。6月1日に福留(孝介)が登録抹消になった今こそ、高山(俊)などが首脳陣にアピールするチャンスです。もちろん福留は、経験豊富で年齢を感じさせないプレーを見せてくれていますが、彼が復帰した時にスタメンを脅かす存在になってほしい。そういった選手が出てくることで、チームはより磐石になってくると思います」