Why JAPAN? 私が日本でプレーする理由
北海道コンサドーレ札幌 ジェイ(2)
今年27シーズン目を迎えているJリーグは、現在、じつに多くの国から、さまざまな外国籍選手がやってきてプレーするようになっている。彼らはなぜ日本でのプレーを選んだのか。
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いいストライカーに必要なもの──。それはスキルやスピード、落ち着き、シュート精度など、多岐にわたる。だが、北海道コンサドーレ札幌のジェイ・ボスロイドにその質問を投げかけると、彼は真っ先にこう答えた。
札幌の練習場で、トレーニングに励むジェイ
「ストライカーはわがままであるべきだ」
アーセナルの育成組織で育ち、プレミアリーグやセリエAで何度もネットを揺らしてきた元イングランド代表FWは、フットボールでもっとも華のある仕事を任される選手は利己的であれ、と言う。
「長いキャリアを経て、自分のプレースタイルは変わった。
日本で5シーズン目を過ごすジェイは、Jリーグのクオリティーは「とても高い」と感じている。ヨーロッパの主要リーグと比べると、歴史はまだまだ浅いが、プレーのスタンダードに特別大きな差はなく、長足の発展を支えたのは日本人の勤勉さと熱意だと見ている。
ただし、ことストライカーについては、日本人選手があまり台頭していない。実際に今シーズンのJ1でも、得点ランキングの上位はほとんど、外国籍選手で占められている。その理由には社会的、文化的な背景があるはずだとジェイは話す。
「日本人は基本的に、物を分け合う利他的な人々だと思う。だからこそ、ミドルクラスの多いすばらしい社会が成り立っているのだろう。ただしストライカーがそのような性格の持ち主だと、成功するのはなかなか難しい。
ヨーロッパでは、GKはゴールを守り、DFはピンチを潰し、MFやウイングは得点をお膳立てし、FWはゴールを決める、とそれぞれの役割が明確に捉えられている。でも日本では多くの場合、どのポジションの選手でもチームに貢献さえすれば、それでいいと考えられている節がある」
では一流のストライカーを日本で育てていくには、どうすればいいのだろうか。「問題はメンタルだけだと思う」とジェイは言う。
「日本人の優れたナンバー10の選手は、本当にたくさんいる。それからウイングやサイドバック、セントラルMFにも優れた選手が多い。
フットボーラーとしての資質に加え、図太い神経を持つ。どんなにミスをしても、次のチャンスにはボールを要求する精神的なタフネス。それはジェイ自身が体現しているものだ。
たとえば今シーズンのJ1第21節サンフレッチェ広島戦で、ジェイは好機をたびたび逸し、チームは0-1で敗北。試合終了後には、カメラがうなだれたような彼の姿を抜いた。
けれど、その後も先発を続けると、翌々節の清水エスパルス戦ではJ1で初となるハットトリックを達成し、8-0の大勝に大きく貢献。さらにそこから3試合連続でゴールを奪い続けている。
今年の春に2カ月ほど負傷離脱し、先発に復帰した第15節の川崎フロンターレ戦のあとにはこんなやりとりがあった。ミックスゾーンで「あなたのゴールを待っているファンは多いです」とある記者に訊かれると、「心配ないよ。僕はいつだってゴールを決めてきたのだから」と、いつもの微笑みを浮かべて答えている。
ただ彼のようなメンタルを日本人選手に求めるのは、この国の社会的な背景を考えると、簡単ではないような気もする。一度の失敗に手厳しく、セカンドチャンスはあまりない。世界でも稀な一括就職採用に代表されるように、一度でもレールから外れると、浮上のきっかけをつかみにくい。スポーツの現場では、いまだに頭ごなしの強権的な指導者が存在し、少年や少女たちはミスへの叱責を恐れて縮こまってしまう。
「(日本でも)いいFWは出てくる」とジェイは語る
先日、サガン鳥栖で現役を退いたフェルナンド・トーレスはこう語っていた。「ミスを恐れないでほしい」と。
ジェイも日本人選手の質の高さを認めている。だからこそ、あとは「メンタルだけだ」と言うのだ。
「たとえば日本代表はW杯の8強、いや4強に入ってもおかしくないと、僕は率直に思う。でもここの人々は控えめだからか、予選を突破した時だけものすごく喜ぶよね。僕からすれば、日本の本大会出場は当たり前のことであって、大騒ぎする必要はない。なにしろ、これほど優れた選手たちがいるのだから。日本代表はもっと先に目を向けて、自分たちなら大きなことを成し遂げられると信じるべきだよ」
ジェイ
Jay Bothroyd/1982年5月7日生まれ、イギリス・ロンドン出身。北海道コンサドーレ札幌所属のFW。アーセナルの育成組織で育ち、プロ入り後はイングランドのクラブを中心にプレー。イングランド代表歴1キャップを持つ。2015年より日本へ。コベントリー→ペルージャ→(イタリア)→ブラックバーン→チャールトン→ウォルバーハンプトン→ストーク・シティ→カーディフ・シティ→QPR→シェフィールド・ウェンズデー→ムアントン・ユナイテッド(タイ)→ジュビロ磐田(日本)