5月4日、ラ・リーガ2位のバルセロナは、敵地で3位のジローナに4-2と逆転負けを喫している。これで順位が入れ替わり、バルサは3位に後退。

同時に、レアル・マドリードのラ・リーガ優勝も決まった。控え目に言っても、屈辱的な敗戦と言える。

――先月末、今シーズン限りの監督退任を撤回し、続行を発表しましたが、(来季の体制に対して)論争が再燃するのでは?

「論争はないだろう」

 バルサを率いるシャビ・エルナンデス監督は、記者の質問に断固として言った。

 今年1月、ビジャレアルに3-5と大量失点で敗れたあと、シャビは突如として退任を発表した。クラブ関係者にとっても、青天の霹靂だった。当時の戦績を考えると、解任報道も出ていただけに、「不退転の決意」の表われとも受け取られた。

 以降、シャビ・バルサは無敗を続けた。ラ・リーガでは8勝2分けで、首位レアル・マドリードに食らいつき、アトレティコ・マドリードを敵地で0-3と完膚なきまでに破った。チャンピオンズリーグ(CL)でも、ラウンド16でナポリを下し、準々決勝も、ファーストレグではパリ・サンジェルマン(PSG)を敵地で2-3と破っていた。

 しかし、マジックアワーは終わる。

 CL準々決勝のセカンドレグ、ホームでPSGに1-4と大敗し、欧州制覇の夢は呆気なく潰えた。その直後、レアル・マドリードとのクラシコは敵地で3-2と敗れたことで、ラ・リーガ連覇の可能性もほぼ消えていた。

直近4試合は守備が崩壊し、13失点だ。

 はたして、シャビ監督に来季を託すべきなのか。そんな疑念がくすぶり始めている。
 

久保建英との対決が運命の一戦に? バルサ監督退任撤回のシャビ...の画像はこちら >>
 来季で、シャビはバルサ監督4年目になる。

 前任者のロナルド・クーマンは「改革」という名で、チームを「破壊」していた。バルサのフィロソフィーまで全否定。

昔からのファンにとって"死神"のような指揮官だった。

 シャビはシーズン途中でクーマンのあとを継いだが、1年目にできたことは多くはなかった。

 しかし、2年目にはロベルト・レバンドフスキ、ラフィーニャ、アンドレアス・クリステンセン、ジュール・クンデなど新戦力を稼働させ、見事にラ・リーガ優勝を飾っている。未完の大器で、「給料泥棒」と言われていたウスマン・デンベレの力を(ケガで離脱するまでは)引き出し、トップフォームを失っていたセルヒオ・ブスケツを復調させた。

 収穫は少なくなかった。

【「勝てる指揮官」ではない?】

 だが、3年目は当初から困難に直面した。

デンベレがPSGに移籍、ブスケツも退団。チーム構造をリセットせざるを得なかった。結果、攻守にノッキングが生じた。敵の脅威になっていたデンベレが去って、得点創出機会が減り、ブスケツがいないことでゲームのテンポが作れず、失点が増えた。前者については16歳、ラミン・ヤマルの台頭で解消されたが......。

「ブスケツ不在」

 今シーズンの苦戦理由はそこに尽きる。

ブスケツの後継者候補の名前は挙がるが、ほとんどが力不足なのだ(実質的にはマンチェスター・シティのロドリくらいだろう)。

 そこで、シャビは苦肉の策を講じていた。クリステンセンのアンカー起用は、一定の効果があった。ブスケツほどひとりで攻守の軸になることはできなかったが、少なくとも守備のフィルターになっていた。おかげでイルカイ・ギュンドアン、フレンキー・デ・ヨング、ペドリとのコンビプレーが向上。今後もこうしたアプローチでバランスをとるか、下部組織ラ・マシア組のパウ・プリムなどの飛躍を信じるしかない。

 ラ・マシア出身でバルサのレジェンドであるシャビが、ヤマル、パウ・クバルシ、フェルミン・ロペスといったラ・マシア組を引き上げた功績は、特記に値する。それぞれ16歳、17歳、20歳で、クラブの未来を担う。さらに18歳のFWマルク・ギウ、17歳のDFエクトル・フォルトも可能性を感じさせ、来季に向けては15歳のMFギジェ・フェルナンデスの夏のツアー帯同が決まったという。

 シャビ監督にとっては、戦力に入れていたガビ、アレハンドロ・バルデのふたりが相次いでシーズンを棒に振るケガに見舞われたのも計算外だったはずで、それを考えれば及第点を与えられるシーズンにも思えるが......。

 一方、新たに獲得した選手が思ったようにフィットせず、「勝てる指揮官」として限界を感じている人も少なくない。

 ブラジルから3000万ユーロ(約50億円)で獲得したFWビトール・ロッキ(移籍を今年1月に早めた)はほとんど戦力なっておらず、ジョアン・フェリックスは「ウィンカー」と揶揄される、明滅する活躍加減にとどまる。オリオル・ロメウは事実上の戦力外で、ジョアン・カンセロはむしろ守備面の弱点になっている。いずれも、レンタルも含めた放出リストに入っているという。

 しかし、そのプラスとマイナスを足し引きした場合、やはりシャビの功績は大きい。

「バルサはラ・マシア」

 それが中興の祖であるヨハン・クライフの遺訓だけに、シャビ以外の適任者はめどが立たない。

 5月13日、バルサは本拠地に久保建英を擁するレアル・ソシエダを迎える。ラ・マシア出身の久保との対決は、現地でもクローズアップされるだろう。

「同じカタルーニャのジローナの後塵を拝することはあってはならない」

 その声は根強いが、自尊心の問題だけでなく、来季のスペインスーパーカップ出場もかかっている(ラ・リーガ優勝のレアル・マドリード、2位のチーム、スペイン国王杯決勝進出のアスレティック・ビルバオ、マジョルカが参加)。最低でも700万ユーロ(約12億円)の収入が見込める大会を逃すわけにはいかない。ラ・リーガ2位奪還は至上命題なのだ。

 シャビ・バルサは試練に挑む。