井端弘和「イバらの道の野球論」(9)

 9月30日のセ・リーグ最終戦で、阪神が中日に3-0で勝利し単独3位に浮上。1敗も許されない状況からの3連勝を含めた、6連勝での劇的なCS(クライマックスシリーズ)進出を決めた。

10月5日から始まるセ・リーグCSのファーストステージは、横浜DeNAと阪神が横浜スタジアムで激突し、その勝者が東京ドームでシーズン1位の巨人に挑むことになった。

 その3チームのどこが日本シリーズへの切符を掴むのか。現役時代、コーチとして何度も短期決戦を経験した井端弘和氏に、セ・リーグCSの展望を聞いた。

井端弘和のセ・リーグCS展望。巨人に大胆起用の可能性「菅野は...の画像はこちら >>

CSでの起用法が注目される巨人の菅野智之

――阪神が最終戦でCS進出を決めましたが、この展開は予想していましたか?

「(CS進出への)条件は厳しかったですが、勢いがありましたから阪神が行くんじゃないかと思っていました」

―― 一方で、4連覇とCS進出を逃してしまった広島については?

「巨人に近づいた時もありましたが、そこから落ちていってしまいましたね。先発投手では、ローテーションを守ったのは(クリス・)ジョンソン、大瀬良(大地)くらいで、床田(寛樹)も頑張りましたが……。大瀬良にとっては不本意なシーズンになったでしょうし、リリーフ陣も3連覇を支えたクローザーの中崎(翔太)が離脱して、(ヘロニモ・)フランスアも昨年ほどの力がなく、やりくりに苦労していました。

 野手陣も鈴木(誠也)はすばらしかったですが、ほかに安定した成績を残したのは西川(龍馬)くらい。今オフには主力の選手がFAになりますし、その行方いかんでは、来年はさらに厳しいシーズンになる可能性もあるでしょうね」

――2位でシーズンを終えたDeNAにとっては、阪神と広島、どっちが戦いにくかったでしょうか。

「広島は昨年までの3年間で短期決戦を多く戦ってきましたから、CSで戦うとなったら嫌な相手だったと思います。それでも、大事なファーストステージ初戦での先発が予想される今永(昇太)との相性も考えると、阪神でしょうか。対阪神の防御率(3.26)も広島(2.59)より悪く、とくに、福留(孝介)に痛打されているイメージがあります。いいピッチングをしている時もつながれて失点していますし、そうなると藤川(球児)をはじめとしたリリーフ陣を相手に逆転することは簡単ではないです」

――DeNAのアレックス・ラミレス監督の采配も重要だと思いますが、現役時代からのラミレス監督の印象は?

「現役時代は、たとえ大差がついてもまったく手を抜かない選手でした。

開幕戦から最終戦まで1打席も無駄にすることがなかったですね。監督としても1勝に対する執念は変わらず、データをうまく使った野球をする印象があります」

──短期決戦では、シーズンと違う戦術が必要になる場面もあると思いますが。

「CSはシーズン2位と3位のチームに与えられた”敗者復活戦”。私が選手だった時には、『いつもと同じことをして、シーズンの順位と同じ結果になるのは避けたい』と思っていたので、違う自分を出すことを意識していました。例えば、反対方向への打球を封印して、全打席で引っ張ってみたり。チームメイトだった(タイロン・)ウッズが、ノーサインで盗塁することもありましたね。

 シーズンで積み上げてきたものをしっかり出すことも重要なので、そのバランスが難しくなると思います。その点、ラミレス監督は3度CSを経験していますし、2017年には日本シリーズ進出も果たしましたから、しっかり対応できるんじゃないでしょうか」

――阪神の矢野燿大監督にとっては、今回が初めてのCSになりますが、不安はないでしょうか。

「確かに監督としては初めてですが、現役時代の経験が豊富なので対策は練っているでしょう。若い選手をまとめて、土壇場でCS進出を決めた勢いを持続できれば、相手の本拠地で対戦するハンデも問題ないはずです。先発ローテーションもシーズン通りに、西(勇輝)、高橋(遥人)、青柳(晃洋)3本柱をぶつけてくると思います。短期決戦にシーズン中の成績は関係ないとも言われますが、DeNAの長距離打者たちをしっかり抑え、対戦成績も16勝8敗と大きく勝ち越しているのでいいイメージで試合に臨めると思います。

 一方のDeNAは、個人的には柴田(竜拓)に期待しています。彼は勝負強いですし、内野の複数のポジションを守れるのも、選手の交代が多くなる短期決戦では大きな武器になります。そして何より、先発の濱口(遥大)、東(克樹)がどれだけ調子を上げられるのかに尽きます。もし今永で第1戦を取れても、第2戦、第3戦をその2人が担えないとなると厳しいでしょう」

――ここまで聞くと少し阪神に分がありそうですが、阪神が勝ち上がった場合、巨人とのファイナルステージはどのような戦いになりそうでしょうか。

「”守”の阪神、”打”の巨人という構図になるでしょうね。坂本(勇人)と丸(佳浩)のコンビはもちろん、下位打線や控えにも長打がある打者が揃っていて、シーズン中も対阪神戦のチーム打率は2割5分を超えている。

ビハインドの展開になっても、阪神のリリーフ陣相手に連打での得点は難しいでしょうが、一発で試合をひっくり返す力があると思います。

 阪神が上がってきたら、CS進出決定からの勢いがさらに増すでしょうけど、巨人も阿部(慎之助)が引退を表明したことでチームのボルテージはかなり上がっているはずです。常に『日本一』を意識してきた大黒柱ですし、阿部はそれだけの影響力がある選手ですからね」

――対して先発陣は、最多勝など”投手三冠”に輝いた山口俊投手は信頼度が高い一方、腰痛に苦しんだ菅野智之投手の状態が気になるところです。

「これは私個人の考えですが、先発ではなく、リリーフとして起用する可能性があるんじゃないかと見ています。さすがに抑えにすることはないでしょうが、今シーズンの大竹(寛)のように、試合の終盤を任せることは十分に考えられるかと。一部では『CS戦力外』という噂もされていますけど、そこまで重症であれば、そもそもピッチング練習はさせないはず。

出場するとなったら相手にとって脅威になることは間違いありません」

――井端さんは現役時代に巨人とCSを戦った経験がありますが、そこで巨人の強さを感じた点はありますか?

「2010年前後に、野間口(貴彦)と福田(聡志)という強力なロングリリーフが厄介だったことはよく覚えています。普通であれば、先発ピッチャーを攻略したらチームが勢いづくんですけど、彼らにそれを止められて逆転されることも多かった。とくに巨人が日本一になった2012年は、福田はリリーフなのに8勝(1敗、17ホールド)を挙げていましたし、中日とのCSファイナルステージでも大事な場面で好投しました。

 今回のCSでもそんな投手がいたらより勝利が近づきますが、今季途中にトレードで入団した鍵谷(陽平/元日本ハム)、古川(侑利/元楽天)あたりが、その役割を果たせるのか。あとは、シーズン終盤に一軍デビューした、高卒ルーキーの戸郷(翔征)の起用もあるかもしれませんね。ダイナミックなフォームからの速くキレがいいストレートが魅力なので、CSでも登板があったら臆せずに投げてもらいたいです」

――巨人はいい状態でファイナルステージを迎えられそうですね。

「そうかもしれませんけど、相手を『待ち構える』気持ちでいたら危ないですよ。1勝のアドバンテージはありますが、初戦を落としたら雰囲気はガラっと変わってしまう。もちろん原(辰徳)監督も選手たちも心得ているでしょうが、挑戦者の気持ちで試合に臨む必要があります。DeNA、もしくは阪神がそれを上回るためにどんな戦いをするのか、注目したいと思います」