永井秀樹 ヴェルディ再建への道
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永井秀樹監督と戦術について話す菅原智コーチ
永井の指示を
ポルトガル語で叫ぶ男
永井ヴェルディを語るうえで欠かせない”ブラジル出身選手”というキーワード。9月8日のレノファ山口FC戦で2得点をあげ、衝撃的なデビューを飾ったジャイルトン・パライバや、過去J1得点王にも輝いたベテランのレアンドロ。
各選手の特徴や性格をひとつひとつしっかりと把握している。
「パライバは2016年にも海外経験がありますが、『どこの国のどんなリーグでも、サッカーの色や文化の違い、難しさがある。異国のリーグで成功するためには、俺のスタイルはこうだ、ではなくて、早くその国のサッカーや文化に順応することが求められる』と話しています。
クレビーニョは、潜在能力の高さに加えて、真面目さと賢さがあります。
レアンドロは来日13年目なので、日本の文化や習慣、成功するために大切なこともよく理解しています。彼の存在は他のブラジル人選手にとっては非常に大きい。わたしもその輪に入ることで、良いコミュニケーションや関係を築いて、それを日本人選手、チーム全体につなげていけたらと思っています」
試合では、永井の隣で大声を出し、大きなジェスチャーを交えてブラジル出身トリオに指示を出す。永井の指示を単純に通訳するだけでなく、意図するところも含めて伝えるのが仕事だ。そのためには、まずは菅原自身が永井スタイルをより理解することが求められた。
菅原本人は「私は同時通訳で完璧にポルトガル語で話せる能力は、正直ありません」と謙遜する。しかし、実際ブラジル出身選手が短期間で馴染み活躍する姿を見るにつけ、菅原の目に見えない部分での貢献、プライベートでも時間を共にする配慮は、3人の活躍に少なからず貢献しているはずだ。
そんな菅原だが、実はブラジル生活はわずか1年なのだ。小6からヴェルディ育ちの菅原は22歳の時、ブラジルの名門FCサントスでプレーした経歴を持つ。契約は1年を待たずに打ち切られたものの、たったひとりで異国に飛び込み、通訳もいないなか、言葉もゼロから覚えて、生き残りをかけてハングリーに戦った濃密な時間は、今の仕事にも少なからず影響を与えていた。
「今、海外選手を受け入れる側になった時、彼らの緊張感、プレッシャー、言葉の壁、プライベートな悩みまで、自分自身も苦しんだからこそ『少しでも助けになりたい』という思いは選手時代からありました。今はコーチという立場から、彼らが少一日でも早く日本の生活に馴染み、ピッチ内・外において仲間と信頼関係を築いていけるように、本来の力を発揮できるようにサポートしたい、と考えています」
もうひとつ、菅原には重要な役割があった。本業のコーチとしての、守備面での貢献である。
永井は菅原について「現役時代も一緒にプレーしたけど、危機察知能力に優れた選手だった。ボランチが本職の菅原コーチがいるおかげで、うまくバランスがとれている(永井監督、藤吉信次、保坂信之両コーチとも現役時代は攻撃主体の選手)」と信頼を置いていた。
「相手守備の分析を映像にまとめて提出します。
永井さんが監督に就任された当初、『自分だけではなくて、より多くの目があるからこそ様々な気づきがある。あらゆる角度から分析したり、俯瞰したり、そういう風に、スタッフみんなで戦っていきたい』と話された。うれしい気持ちと同時に、『私を必要としていただける以上、クラブのために、まずは自身が成長すること、選手として少なからず経験してきたこと、指導者として経験してきたことを還元していきたい』と心の中で覚悟を決めて、今日に至っています」
菅原はまさに「縁の下の力持ち」だ。インタビュー時に初めて挨拶を交わした時も、「取材をしていただき、ありがとうございます」と丁寧に挨拶をし、両手で名刺を渡してくれた。
取材の現場でジャイルトン・パライバの通訳をする菅原智コーチ
そんな一般人の感覚や気遣いのできる人柄が、目に見えない所で大きな力となり永井を支えているはずだ。
「永井さんはサッカーに対する情熱はもちろん、チームや選手に対しても強い愛情を持っています。芯がしっかりしていて、妥協せず、考え方もブレない。求めることもはっきりしているので、コーチも選手も信じてついていこうと思える。一緒に仕事をしている中で気づかされ、多くを学ぶことができています。
シーズン中に、一からチームを作ることはものすごく難しい。シーズン前から始めたとしても、やりたいサッカー、色、フィロソフィーをチーム全員に落とし込み、そのサッカーを構築する作業は、並大抵のことではない。だからこそ、チームがファミリーとなり、理解を深め合いながら同じ道を歩むべきだと思いますし、永井さんが、その方向性を示し、緊張感がある中でもいい雰囲気を作っていることは、本当にすごいなと思います」
永井は仲間たちからの厚い信頼を得て、「ヴェルディ再建」に突き進んでいる。