グループステージ敗退に追い込まれたシリア戦を終え、ミックスゾーンに現れた岡崎慎(FC東京→清水エスパルス)の脳裏には、ドリブルをする背番号21の後ろ姿がこびりついていた。
ゲーム終盤にカウンターを浴び、シリアのストライカー、アマハド・ダリに抜け出された。
シリア戦に3バックの中央で先発出場した岡崎慎
「自分がレッド覚悟で、後ろから削ってもよかったんじゃないかって……」
中央から町田浩樹(鹿島アントラーズ)が懸命に戻っていた。中の選手が間に合うんじゃないか――。それが岡崎の判断だった。しかし、ファーサイドにも相手選手が走り込んでいた。町田はそちらへのパスコースを切るポジショニングを取った。
「本当に勝負がかかった場面での、見極めが甘かったというか」
額にあふれ出る汗を右手で拭いながら、岡崎は失点場面について振り返った。
所属するFC東京でシーズンを通してコンスタントに試合に出られなかった岡崎にとって、今大会は試合勘との戦いでもあった。
「(初戦の)サウジアラビア戦では最初、本来のキレがなく、身体も動かなくて、うまくいかないことのほうが多かったですね」
だが、それでも3バックの中央からボランチに面白いように縦パスを入れ、攻撃の起点となった。2試合目のシリア戦ではコンディションや試合勘も改善され、持ち運んだり、ロングボールを入れたりして、より一層存在感を発揮した。
相馬勇紀(名古屋グランパス)の同点ゴールが生まれる30分のシーンでも、起点となったのは、こぼれ球を拾った岡崎のミドルレンジのグラウンダーのパスだった。
「ビルドアップに関しては、自分で言うのもなんですけど、よかったと思います」
岡崎はそう認めた。だが、間髪入れずに「けど……」と続けた。
「2失点……2失点をしているので。CBをやっていて2失点したら、自分のせいになるのが普通だし、ましてや1試合目は自分がPKを与えて負けている。後悔というか、めちゃくちゃ悔しいです」
2017年12月に立ち上げられた東京五輪代表チームは、シリア戦まで39試合を戦っている。そのなかで岡崎がピッチに立ったのは10試合。
初めて声がかかったのは、2018年8月のアジア大会だった。プロ1年目の前年はケガで出遅れ、プロ2年目になってようやくJ1で試合に出始めた矢先の招集だった。
「本当にびっくりしました。自チームで試合に出れば、こうしてチャンスをもらえることがあらためてわかりました」
まだあどけなさを残す青年は、うれしそうに語っていた。だが、チームは過密日程のなか、たくましく戦い抜いて準優勝に輝いたものの、岡崎自身は1試合の出場にとどまり、悔しそうに、寂しそうにしていたのが印象的だった。
その後、2019年6月のトゥーロン国際大会で約1年ぶりに招集されると、全5試合でフル出場を飾り、今度はチームの準優勝に大きく貢献した。すると9月の北中米遠征、12月のジャマイカ戦のメンバーにも名を連ね、ジャマイカ戦での好パフォーマンスが評価されて今大会のメンバーに選出。2試合続けてスタメンを勝ち取ったのだ。
それだけに、2連敗の現実を重く受け止めていた。
「負け方も本当にしょうもない。代表のユニフォームを着て、あんな負け方をしていたら、テレビを見ていたら萎えるというか。
今回のU-23アジア選手権は東京五輪のアジア最終予選を兼ねているが、すでに出場権を得ている日本にとっては、本大会に向けた貴重なメンバー選考の場だった。ましてや食野亮太郎(ハーツ)をのぞいて海外組が不在で、国内組が試されていた。それで結果を残せなかったという事実が、不甲斐なさをいっそう強めているようだった。
「海外組が呼ばれていない日本代表に入るのはすごく悔しいですし、逆に言えば、海外組は普通に(本大会のメンバーに)入ってくる、というスタンスなのも悔しいです。
打ちのめされてあらためて感じたのは、チームを勝たせられる選手になることの重要性だ。こいつをピッチに置いておけば勝てる、こいつがピッチにいたら安心できる。監督にそう思わせることができたなら――。
「勝たせられるような選手だったら、今後も代表に選ばれると思いますし、逆に僕がFC東京で試合に出られないのは、そういうところなんじゃないかと。もっと『俺が、俺が』とやるべきなんじゃないかって。そういうところに気づかせてくれた2試合でした。
東京では、森重(真人)選手が背中でチームを引っ張っている。自分もそういう選手になっていきたい。守備で安心させられる選手になるために清水(エスパルス)に行くので、本当に1日、1日を大切に過ごしていきたいと思います」
中学時代から所属してきたFC東京を初めて離れる勝負のシーズン。そのスタートは苦いものになったが、先の長いサッカー人生を考えた時、今大会で負った疵(きず)は、今後の糧になるものに違いない。
この悔しさ、不甲斐なさが心に刻まれているかぎり、岡崎慎の進化は止まることがないはずだ。