1月10日、乾貴士(エイバル)はレバンテ戦で、今シーズンのリーガ・エスパニョーラ初ゴールを決めている。50分、敵陣でのプレッシングで奪ったボールがエリア内でこぼれると、間髪入れず、右足で蹴り込んだ。

 スペイン大手スポーツ紙『マルカ』『アス』はいずれも、チーム最高の二つ星(0~3の4段階評価)を乾につけた。自ら持ち込んでシュートを打ち込み、2点目に近づいたシーンもあった。試合を通じて最も得点を予感させた選手と言えるだろう。

 今シーズン、乾はゴールへの意欲を強く示すようになっている。パスよりもシュートを選択する回数が増えた。ただ、ゴールネットを揺らすことができていなかった。

「乾は、チーム全体にポジティブな作用をもたらしてくれる。欠かせない選手だよ」

 ホセ・ルイス・メンディリバル監督はそう言って、乾がノーゴールであっても高い評価を与えてきた。事実、リーグ戦では18試合中16試合、先発で起用(1試合は途中出場)されている。その期待と信頼が伝わってくる。

 では、そんな乾の現在地とは――。

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18戦中16戦に先発、レバンテ戦では今季初ゴールを決めた乾貴士(エイバル)

 スペイン挑戦6シーズン目になる乾は、コンスタントに試合出場を重ねてきた。
2年目の久保建英が苦しみ、岡崎慎司の1部初挑戦は思うようにいかず、柴崎岳が2部で悪戦苦闘し、香川真司が所属先なしという状況と比較しても、その歩みは実直と言えるだろう。今シーズン、新たに入団した武藤嘉紀の"道筋"も作っている。

 エイバルでの1シーズン目は、明らかに守備面での脆弱さと不具合があった。その証拠に有力チームとの試合では起用されていない。しかしメンディリバルの我慢強い指導もあって、サイドでのディフェンスを目に見えて向上させてきた。たとえば、感覚的にプレスに行くのではなく、進行方向と内側へのパスコースを封じながら、周りと連動した守備ができるようになった。

 守備でリズムが出るようになると、攻撃にもプラス要素が見られる。3シーズン目で自己最多の5得点を記録し、上位を目指すベティスに引き抜かれることになった。期待されたようなプレーはできなかったが、シーズン中にアラベスに移籍し、主力として活躍することで帳尻を合わせた。

 そして5シーズン目はエイバルに復帰し、再び貴重な戦力となり、現在に至っている。乾ほど長く継続的に、スペインで活躍を続けた日本人選手は他にいない。試合を重ねる中で、確実に成長してきた。

 今シーズンは、得意とする左サイドでのプレーだけではない。右サイドアタッカーとして、精度の高いクロスを放り込むなどして相手にダメージを与え、適応力の高さを証明。グラナダ戦では、左サイドで売り出し中の若手ブライアン・ヒルからのクロスにヘディングで突っ込んでゴールを脅かすなど、"3番目のFW"としての働きもやってのけるようになった。

 また、レアル・マドリード戦、アラベス戦などではトップ下としてもプレーしている。ゴールに向かってドリブルするときの迫力は白眉。基本は2トップのチームだけに、乾が戦術オプションとなっている状況だ。

 前線でボールを呼び込む乾は、コントロールが難しいロングパスもぴたりとトラップし、一気に抜け出せる。そのワンプレーだけで、相手ディフェンスに脅威を与えられる。敵に対する精神的な負担となっていると言える。事実、レバンテ戦も序盤に左サイドで完璧なコントロールから抜け出し、好機を作った。これで、相手の攻め上がりを抑制することができたのだ。

 メンディリバル監督は攻守一体を重んじるだけに、乾を"相手ののど元に突き付けた短剣"と位置付けているのだろう。

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 欧州で戦う日本人アタッカーの中でも、乾は最も計算が立つ選手と言える。メディア受けはしないが、実務能力はすこぶる高い。経験を重ね、弱点はほぼなくなった。

 あとは単純に試合を決めるプレーが求められる。端的に言えば、ゴールだ。

「久保は、ピッチでふてぶてしさを見せる。ボールを受けたら、周りをボスとして動かす。敵に挑みかかっていく力は相当なものだろう。乾にはそれがない。それは私が彼に求めているプレーでもあるんだ」

 乾の最大の理解者と言えるメンディリバル監督の言葉は、重く受け止めるべきだろう。そのメッセージが、今シーズンの積極的なプレーに結びついているのかもしれない。

 乾には試合を決めてしまうだけの力がある。それはロシアワールドカップ、ベルギー戦で見せた一撃でも証明済みだろう。名手ティボー・クルトワでもどうしようもないシュートの精度だった。2019年3月のボリビア戦以来、日本代表からは遠ざかっているが、いつ復帰しても不思議はないはずだ。

 今シーズン、乾は殻を破ることができるのか――。レバンテ戦の初ゴールを口火としたいところだ。