森保一監督就任当初の日本代表と最近のそれとを比較したとき、顕著な変化が見られるのが、4-2-3-1の2列目の顔ぶれだ。
右から堂安律、南野拓実、中島翔哉が並び、新生・日本代表の顔ともなっていたが、鎌田大地、伊東純也の台頭により、右から伊東、鎌田、南野へと変化。
この結果、よくも悪くも存在が目立つようになったのが、左サイドバックである。
南野が中央へ入っていくことで、左サイドにスペースが生まれやすくなるため、左サイドバックが高い位置で攻撃に加われれば、自然と活躍の機会は増えるが、逆にそこで円滑さを欠いてしまうと、ノッキングが際立ってしまうからだ。
日本代表の左サイドバックは2010年南アフリカ大会以来、ワールドカップでは3大会連続で長友佑都が務めてきた。
イタリアの名門、インテルで長年プレーしてきた長友は、日本代表でも別格の存在として定位置を確保し続けてきたが、そんな鉄人も2022年ワールドカップ開催時には36歳になる。さすがに、いつまでも長友にばかりに頼ってはいられない。
そんな状況のなか、ここに来て"新たな候補者"がまたひとりポジション争いに加わってきた。
後釜を探されていたはずの、長友本人である。
周囲とスムーズな連係を見せていた長友佑都
ワールドカップ2次予選のミャンマー戦に先発出場した長友は、高いポジションを取って再三攻撃参加。ボランチを務めた守田英正が「(自分が)左の脇に下りて、佑都さんを上げて、拓実くんを中に入れることを意識した」と振り返ったように、南野との連係もスムーズで、22分にはオーバーラップからのクロスで2点目のゴールをアシストしている。
カウンターを受ける怖さをほぼ感じることなく、気持ちよく攻め上がれたという面はあるにしても、高いポジショニングとそこでの周囲との関わり方は的確だった。
10-0で勝てるチームが相手なのだから、あのくらいはやれて当然。そうした見方もできるだろう。だが、3月の韓国戦にしてもスコアは3-0、モンゴル戦は14-0だ。長友だけが楽な状況でプレーしていたわけではない。
対戦相手のレベルが上がったとき、どれだけのことができるかが重要だと言うなら、むしろ過去に裏づけがあるだけ、長友に分があるとも言える。
2018年1月にインテルを離れ、トルコのガラタサライへと移籍した長友は、2018年ワールドカップが終わって以降も健在ぶりを見せていたが、2020年にガラタサライで登録外となり、公式戦に出場できない状況が続いていた。
このとき、長友は33歳。その後のキャリアは下降線の一途をたどるかに思われた。今季を前にフランスのマルセイユへと移籍はしたが、有り体に言えば、ベテランの経験を買われたバックアッパーとしての獲得だっただろう。
事実、長友本人も「9カ月くらい実戦から離れていたので、(今季の)前半戦はコンディションに苦労した」と明かし、こう語っている。
「(トルコリーグとは)スピード感、フィジカルレベルが明らかに違う。フィジカルコンディションが100%ではないなかで、(相手選手が)どう来るかイメージはできても体が反応しなかったり、相手がそれ以上のスピードやフィジカルを持っていたり、アダプト(適応)するのに苦労した」
ところが、シーズンが始まってみると、今季リーグ戦で25試合に出場。「(ポジションを争う)ライバルの選手のケガがあったりしたが、マルセイユのレベルになると、僕のポジションができる選手は数人いて、そのなかで僕を起用し続けてくれたのは自信になった。後半戦は試合にも出られるようになり、フランスリーグにも慣れて、コンディションは右肩上がりにどんどんよくなった」という。
人間である以上、年齢による肉体的な衰えは当然あるだろう。事実、ピッチ上でのプレーを見ていても、攻守両面でグイグイと前に出ていく全盛期のような力強さは感じられない。
それでも、長友が再び自身を取り巻くプレー環境を整え、実戦で力を発揮するレベルまで戻ってきたことは確かだ。
昨秋以来となる久しぶりの代表活動に「緊張感があるなかでも楽しんでいる自分がいて、すごく充実している」と、34歳は笑顔を見せる。
「若い選手にはいい選手がたくさんいる。どんどん競争が激しくなるが、自分自身負けないように、強い気持ちで覚悟を持って戦いたい」
客観的に日本代表を見たとき、ベテランDFの復活を単純に喜んでいいのかどうかはわからない。ポスト長友は長友――。禅問答とも、笑い話ともつかない状況に、おいおい、とツッコミを入れ、若い選手たちに、もっと奮起を、と言いたくなる。
だが、いざというとき、長友という切り札が手の中にある安心感は、やはり貴重なのだろう。
来年11月にカタールで開幕するワールドカップまで、残された時間はおよそ1年半。ベテラン左サイドバックが4度目の大舞台に立つ可能性は、少なからず高まっているようだ。