八重樫幸雄がヤクルト優勝に「おめでとう!」。高津臣吾監督の手...の画像はこちら >>

「オープン球話」ヤクルト優勝記念回

【投手が頑張り、野手が応える好循環】

――八重樫さん、ヤクルトがついに優勝しましたよ! 2年連続最下位からの見事な大躍進。最高ですね!

八重樫 いやぁ、それにしても(高津)臣吾(監督)はよく頑張ったよ。

外国人の来日が遅れたり、青木(宣親)が新型コロナの濃厚接触者となってメンバーが揃わなかったりした春先をうまく乗り切ったのがよかったね。

八重樫幸雄がヤクルト優勝に「おめでとう!」。高津臣吾監督の手腕と雰囲気づくりを大絶賛

10月26日にリーグ優勝を決めたヤクルト

――八重樫さんは今年のヤクルトをどう見ていましたか?

八重樫 打線は充実しているとは思ったけど、結果的に打率ベスト10には誰もランクインしていない(10月26日時点)わけだから、やっぱり、ピッチャーがすごく頑張ったと思います。相手がエースの時は苦労しても、相手投手の力が少し落ちる時にはきちんと点を取って、少ないリードを中継ぎ陣がきっちり守って(スコット・)マクガフが抑える。いい形ができましたよね。

――今年は投手陣の頑張りが、特に目立ちましたね。

八重樫 僕も経験があるけど、昨年までのように打線がいくら点を取っても、すぐに失点を繰り返していたらチームのムードは悪くなるんです。
もちろん打撃陣も必死なんだけど、それ以上に点を奪われてしまうと、気持ちがバテてくるんですよ。体じゃなくて精神面がね。でも、今年はピッチャーが本当によく頑張っているから、打撃陣も「何とか1点を取るぞ」と必死になる。好循環でチーム全体がまとまったんじゃないのかな? そこには高津監督の雰囲気づくりも大きかったと思います。

――高津監督はどのような雰囲気づくりをしていたと感じましたか?

八重樫 負けている時の監督コメントって、たいていは「しっかり抑えてほしかった」とか「あそこで1本ほしかった」というものが多いんだけど、臣吾の場合は「打線はよく粘っている」とか「しつこく食らいついている」というように、決して選手を否定するような発言をしないんですよね。こういう発言が続くと、青木のようなベテランは特に「監督に心配させちゃいけない」って奮起するものですよ。


――なるほど、新聞紙上に掲載される監督コメントは大切ですよね。

八重樫 これはチームの雰囲気がいいから可能なんですよ。今までの真中(満)や小川(淳司)監督だって、基本的には選手を否定するようなことは言っていないと思います。でも、チーム状況が悪いと、どうしてもスポーツ紙の記者たちもネガティブなコメントばかり取り上げるようになるから、ますます選手に焦りが出てしまう。でも、今年の臣吾のコメントでは、そういうものは少なかったと思いますね。

【プロ20年目、石川雅規の頑張り】

――スポーツ紙での「監督コメント」は、やっぱり選手たちも気にするものですか?

八重樫 もちろん気にしますよ。

広岡(達朗)さんも、野村(克也)さんも、「選手たちもこの記事を読むだろう」という前提で、マスコミを通じてメッセージを伝えることも多かったですから。でも、昔は監督コメントを読んで「コノヤロー」って反発する選手が多かったけど、最近の選手は真面目だから委縮したり、焦りになったりするんですよね。臣吾はアメリカ、韓国、台湾、独立リーグでプレーして、いろいろな経験を積んでいるのが強みだと思います。

――頑張った投手陣の中で印象的な選手は誰ですか?

八重樫 たくさんいるけど、一緒にユニフォームを着て戦った仲間ということで、石川(雅規)は印象的でしたね。例年の石川は「今日はよくても、次がダメだ」というピッチングが多かったけど、今年は防御率を見てもわかるように、安定して試合を作っています。他の先発投手が充実しているから今年は登板機会が少ないけど、それが逆に「少ないチャンスをものにしよう」「若手には負けないぞ」といいエネルギーになっている気がしますね。
あとは「若手に手本を見せる」という思いが、例年以上に強いんじゃないのかな?

――今季はプロ20年目で初の開幕二軍となりました。でも、それを発奮材料として、今まで以上に心身ともに充実しているように見えます。

八重樫 もう40代になったとはいえ、石川は本当に探究心旺盛で今でもきちんと鍛え続けていると思うんです。だから、40代になったから急激に衰えるということもないと思うんだよね。そうなると、後は気持ちの問題だけ。これまでみたいに先発ローテーションの中心というわけにはいかなくても、「自分が先発する時にはきちんと試合を作る」という意識があれば、まだまだできるはず。
いずれにしても、彼の場合は肉体的な問題よりも、気持ちの部分が大きいでしょう。

――他に投手陣で印象に残っている選手はいますか?

八重樫 個人的には今野(龍太)くんを応援しているんです。セットアッパーとして、彼は本当によく頑張ったし、彼がいなかったら、ここまで勝てなかったと思いますよ。

――八重樫さんと今野投手は、接点はないですよね?

八重樫 同じ宮城出身ということで、彼が楽天にいた頃に地元の野球教室で一緒になったことがあるんです。僕が仙台で、彼が岩出山でしょ。その時にあいさつされて、「頑張ってね」と言ったんですよ。
真面目で、ニコニコしていて、すごくいい印象だったね。それから注目していたんだけど、楽天を自由契約になって心配していたらヤクルト入りして嬉しかった。

 きっと、臣吾が二軍監督時代に今野くんのことを見ていて「いい投手だな」って思っていたんじゃないのかな? かつて、日本ハムの城石(憲之)をトレードで獲得しましたよね。あの時も、野村監督からの要請に応えて、僕が推薦して実現したんですよ。

【プロ4年目、村上宗隆の存在感の大きさ】

――シーズン終盤になって、アルバート・スアレス投手、田口麗斗投手を先発からリリーフに配置転換しました。このあたりの高津監督の勝負勘についてはどう見ていますか?

八重樫 臣吾自身も先発からクローザーに配置転換されたから、「誰がリリーフに向いているか?」というのを見極める目を持っているんだと思います。野村さんが臣吾をリリーフにした時には「先発では難しくても、ひとつ球種をマスターすれば短いイニングなら通用する」と言っていました。その前提にあるのはコントロールのよさ。スアレスも田口もフォアボールで大崩れするタイプじゃない。そのあたりを伊藤智仁ピッチングコーチと相談しながら見極めたんでしょうね。

――選手への気遣いあるコメントや思い切った配置転換など、高津監督の手腕がすごく光っていますね。

八重樫 さっきも言ったけど、メジャー、韓国、台湾、日本の独立リーグ......。それだけ経験している名球会投手はいないですよ。それに彼はアマチュア時代にはなかなかエースになれずに、常に「二番手投手」という存在だった。控えの人の気持ちもよく理解していて、二軍監督として、現在の若手選手たちのこともよく知っている。トップの気持ちも、若手の気持ちも理解できるのは、すごい強みだと思いますよ。

――昨年は断トツの最下位でした。今年の躍進の要因は何でしょうか?

八重樫 今まで投手陣の話ばかりしてきたけど、僕は今年のヤクルトの強さは村上(宗隆)にあると思います。プレーはもちろん、プレー以外のすべてで、彼はチームに好影響をもたらしていますね。とにかく必死にプレーしている。いつも全力プレーをしている。その気持ちが、「オレたちも必死にやらなくちゃ」と青木や山田(哲人)にも影響して、両外国人選手にも伝わっている。そんな気がしますね。

 とにかく、ヤクルトナインのみんな、優勝おめでとう! 本当に嬉しいよ。