2020年のドラフト会議から1年あまりが経過した。大きな期待を受けて入団した12人のドラフト1位指名選手は、どんな1年を過ごしたのか。

即戦力型の選手もいれば、将来有望な素材型もいる。そんな「2020年ドライチ」12人の「現在地」を確認しておこう。

 まずは1年目から大活躍を見せた4選手を紹介しよう。

■天国と地獄を味わった阪神・佐藤輝明の1年目

 2020年ドラフト1位のなかで最大級の輝きを放ったのは、栗林良吏(広島)だろう。

22試合連続無失点、1試合3本塁打、15失点大炎上…明暗くっ...の画像はこちら >>

新人歴代タイ記録となる37セーブをマークした広島・栗林良吏

 広島のスカウトは先発投手としての期待を込めてドラフト1位指名したが、ヘロニモ・フランスアの故障というチーム事情もあってリリーフに転向。トヨタ自動車ではカットボールやカーブを得意としていたが、プロではフォークが決め球に確立。
新人クローザーとして前代未聞の、開幕から22試合連続無失点の日本記録を樹立した。

 さらには東京五輪代表に選出され、2勝3セーブを挙げて金メダルに大きく貢献。レギュラーシーズンは最終的に0勝1敗37セーブ(新人歴代タイ記録)、防御率0.86の驚異的な成績で締めくくった。

 世間に与えた衝撃度では、佐藤輝明(阪神)の右に出る者はないだろう。オープン戦で6本塁打を放つなど春先から話題を振りまき、開幕後も大爆発。4月9日の横浜スタジアムでの場外弾、5月28日のメットライフドームでの1試合3本塁打と、毎日のように度肝を抜くパフォーマンスを見せた。

その豪快なフルスイングは、野球に興味のない層まで虜にする魅力があった。

 後半戦は54打席連続無安打の同一シーズンワースト記録を打ち立て、三振数は173を数えた。だが、それも後年には「佐藤輝明伝説」の一つのエピソードとして語り継がれていくに違いない。

 パ・リーグでは伊藤大海(日本ハム)、早川隆久(楽天)が前評判に違わぬ成績を残した。苫小牧駒澤大(現・北洋大)から地元球団に進んだ伊藤は、23試合に登板して10勝9敗、防御率2.90。野手陣の援護に恵まれなくても、魂のこもった投球でピンチを切り抜ける姿はエースの風格すらあった。

栗林と同じく東京五輪代表に選ばれ、セットアッパーの重役を担っている。

 早川は24試合に登板して9勝7敗、防御率3.86。2020年ドラフトでは4球団が重複1位指名した実力を発揮した。とはいえ、無双状態だった早稲田大4年時の投球に比べるとやや勢いが落ちた感もあり、2ケタ勝利と規定投球回にわずかに届かなかったのは残念だった。

■ファームでじっくり経験を積んだ高卒ルーキーたち

 上記4選手ほど華々しい活躍ではなかったものの、しっかり一軍戦力になったのは、鈴木昭汰(ロッテ)だ。法政大時代よりもストレートの勢いが増し、開幕から先発ローテーション入り。

シーズン終盤にやや息切れしたものの、先発12試合、リリーフ11試合とチーム事情に応じて柔軟な起用に応えた。勝利数は1に留まったが、クオリティースタート(6イニング以上を投げ、自責点3以内の試合)は5回。来季は高いゲームメイク力を生かし、小島和哉に続く先発左腕として存在感を見せたい。

 将来を見据え、1年目はじっくりと実力を養成していたドラフト1位もいる。

 中京大中京高で高校ナンバーワン右腕と呼ばれた高橋宏斗(中日)は、ファームで1年間を過ごした。ウエスタンリーグ14試合に登板し、0勝5敗、防御率7.01。

34回2/3投げて被安打51と、プロの壁に当たった格好だ。それでも、自己最速の155キロをマーク。秋のフェニックスリーグでは好不調の波はありながら、11回連続無失点と大器の片鱗も見せ始めている。

 190センチの大型右腕・山下舜平大(オリックス)もファームで苦しんだ。18試合に登板して2勝9敗、防御率5.48。高校時代から将来を見据え、ストレートとカーブの2球種でやりくりしていたが、プロではシーズン途中からフォークを扱うようになっている。

このまま時間をかけ、骨太な大投手への階段を上がっていってもらいたいものだ。

 野手では、井上朋也(ソフトバンク)の順応性の高さが目を引いた。花咲徳栄高では爆発力のあるインパクトで高校通算50本塁打を放った右のスラッガー。選手層の厚いソフトバンクに入団したものの、夏場に二軍での出場機会を増やした。最終的に.246まで落ちたが、一時は3割に迫る高打率をマーク。45試合で3本塁打、11打点を記録した。素材を高く評価する藤本博史監督が二軍から一軍監督に就任した追い風を生かしたい。

 大卒ながら渡部健人(西武)も1年目はファーム中心の1年を過ごした。体重112キロの巨漢スラッガーで、ポスト中村剛也の期待を背負う。イースタンリーグでは90試合で打率.228、19本塁打、64打点。清宮幸太郎(日本ハム)と並んでイースタン本塁打王に輝いた。一軍では4月4日にプロ初安打を本塁打で飾るも、6試合17打席を経験して、安打はこの1本のみに終わった。

■プロの壁にぶち当たった3人の即戦力ルーキー

 高い期待を受けながら、思うような結果も出なかった選手もいる。

 入江大生(DeNA)は明治大4年秋にかけて状態を高め、ドラフト時にはDeNAの単独1位指名に驚きの声も上がった。1年目の今季は開幕ローテーション入りも4戦4敗、防御率7.85と結果を残せなかった。8月には痛みのあった右ヒジのクリーニング手術を受け、シーズンを終えている。とはいえ、DeNAのスカウト陣は潜在能力も含めて入江を評価したはず。ドラフト2位の牧秀悟が栗林とハイレベルな新人王争いを展開するほどの活躍を見せただけに、入江の2年目以降の巻き返しに期待したい。

 平内龍太(巨人)もまた、一軍登板わずか3試合で0勝1敗、防御率14.40。成績だけを見れば苦しんだが、年間通してファームで投げ続けた点を評価すべきだろう。亜細亜大4年に進学する直前に右ヒジのクリーニング手術を受け、昨秋リーグ戦で最速156キロをマークするなど猛アピールの末にドラフト1位指名を勝ち取った経緯がある。間違いなく素材はいいだけに、長い目で見守りたい。フェニックスリーグでは先発で起用され、10月27日の西武戦で8者連続三振をマークしている。

 もっとも苦しいルーキーイヤーを過ごしたドライチは、木澤尚文(ヤクルト)かもしれない。イースタンリーグでは22試合の登板で2勝8敗、防御率6.07。10月16日のフェニックスリーグ・阪神戦では4回1/3を投げて、17安打15失点と大炎上した。

 とはいえ、大学時代にはもっとどん底を体験している。肩・ヒジの故障が長引いた影響で「自分の投げ方がわからない」という状況に陥り、当時の林卓史助監督と二人三脚で投球フォームを一からつくり直した。角度のある最速155キロの快速球と、高速で変化するカットボール、スプリット。パワーピッチャーとしての潜在能力は、木澤の大きな魅力だ。

 だが、それ以上に自分の置かれた状況を俯瞰して見られるクレバーさと、マウンドで気迫を前面に出す熱さこそ木澤の真骨頂のはず。再び雌伏の時を越え、一回り大きくなった姿をプロの一軍マウンドで見せてほしい。

 いきなり大ジャンプを決めた選手も、つまずいた選手も、まだプロ野球人生の一歩目にすぎない。「新人」という冠が取れる来年以降、彼らはどんな進化を見せてくれるのか。これからも期待を込めて見守っていきたい。