ダービージョッキー
大西直宏が読む「3連単のヒモ穴」
いよいよ今週、牝馬三冠の最終戦となるGI秋華賞(10月16日/阪神・芝2000m)が行なわれます。
昨年末の重賞から注目レースの勝ち馬が常に異なり、「大混戦」と言われていた今年の3歳牝馬戦線ですが、春のクラシックではスターズオンアース(牝3歳)が二冠を達成しました。
GI桜花賞(4月10日/阪神・芝1600m)では7番人気、GIオークス(5月22日/東京・芝2400m)では3番人気で勝利。その支持の受け方は、まるで1997年に僕が騎乗して二冠を遂げたサニーブライアンのようでした(皐月賞11番人気、ダービー6番人気)。それだけ、同馬の実力について半信半疑の人が多かったのでしょう。
しかし今回、三冠レースの最後にしてやっと1番人気になるのではないでしょうか。骨折明けからのぶっつけ参戦とあって、これまでの三冠牝馬ほど絶対的な安心感はないかもしれませんが、ポテンシャルが世代ナンバーワンであることは疑いがありませんからね。
前哨戦のGIII紫苑S(9月10日/中山・芝2000m)とGIIローズS(9月18日/中京・芝2000m)は、スターズオンアースがオークスで負かした馬が勝利。
フットワークが大きい馬なので、内回りの2000mというコースに関してはやや不安がありますが、手綱をとるのはクリストフ・ルメール騎手。初コンビだったオークスではルメール騎手が追うリズムとストライドがバッチリかみ合っていて、どこまでも伸びていきそうな感じがしました。それを考えれば、そこまで心配することもないでしょう。
そもそもルメール騎手は、祖母のスタセリタ(フランス)に騎乗して欧州のGIを3勝。叔母のソウルスターリングの主戦も務め、オークスを制しています。
三冠馬が誕生すれば、また競馬界の大きな話題となって盛り上がるので、僕としてもその瞬間を見たい、という気持ちは大いにあります。
そのスターズオンアースの三冠に待ったをかけるとしたら、その背中を知る川田将雅騎手が騎乗するアートハウス(牝3歳)でしょうか。
川田騎手はスターズオンアースの手綱をとって桜花賞を勝つも、オークスではアートハウスの鞍上を務めました。アートハウスの母パールコードの主戦だった川田騎手としては、お母さんが惜しくも手にできなかったGIタイトルを、その娘に獲らせてあげたいという思いもあったのではないでしょうか。
ただ、オークスでは直線で一度は先頭に立つも、残り1ハロンを辛抱できずに7着と敗れました。
そこから、夏を越して本当の意味での力をつけたアートハウス。ローズSでは、成長曲線がハッキリと描かれていました。いつもどおりの先行策から、早め先頭に立つ横綱相撲で完勝しました。最後は2着サリエラに詰め寄られましたが、終(しま)いの脚に衰えはなく、着差以上の強さを感じました。
この馬の戦法と脚の使い方からして、コーナー4つの2000mという舞台は合っていると思います。コース適性だけなら、スターズオンアースよりもアートハウスのほうに分がありそう。逆転のシーンがあっても、まったく不思議ではありません。
他では高野友和厩舎の2頭、オークス2着のスタニングローズ(牝3歳)と3着のナミュール(牝3歳)が人気を集めそうですが、僕は紫苑Sを勝ってさらに高い支持を得そうなスタニングローズより、ナミュールのほうが気になります。
距離に不安があったオークスでも見せ場を作って、さすが桜花賞までこの世代の主役を張ってきた馬だけあるなと思いましたし、同馬の底力の高さを改めて痛感させられました。
オークスでは直線で強引にインに進路をとった時、少しササり気味になってしまいました。
春は馬体減りを気にして、加減しながら調整してきたみたいですね。夏を越した今回はしっかりと充電して馬体を回復させてきていると思います。
加えて、外回りで長く脚を使う馬といったイメージが強いと思いますが、僕はこの馬について、内回りで一瞬の脚を使わせたほうが合っているのではないかと思っています。阪神・芝2000mの舞台は、実はこの馬向きではないかと見ています。
これらオークス組がレースの中心になっていくと思いますが、僕が穴馬として注目しているのは、別路線組。唯一のディープインパクト産駒であるウインエクレール(牝3歳)です。
秋華賞での大駆けが期待されるウインエクレール
春はオークストライアルのリステッド競走・スイートピーS(5月1日/東京・芝1800m)を勝ちながら、オークスには出走しませんでした。理由は、脚元の不安などではなく、レース間隔が詰まることや距離適性を考慮したものでした。優先出走権を獲得して回避するのは、なかなか大きな決断です。
これは、陣営が「今は無理をさせず、先々の成長を優先した」ということであり、その判断がここでプラスに働くかもしれません。香港でGIを2勝した半兄のウインブライトは、内回りの芝1800m~2000mで活躍した馬。そんな兄の器用さを受け継いでいるこの馬も、今回の舞台は合いそうです
鞍上が松岡正海騎手というのも興味深いところ。彼は今年、重賞で7回馬券圏内(3着以内)に入っていますが、その人気は11番、15番、6番、8番、5番、7番、7番人気と、おおよそ伏兵馬でのものでした。いかにも"穴男"らしい戦績です。
とりわけ彼は「ウイン」の馬との相性がよく、ここも思いきった立ち回りからの一発を狙ってくると睨んでいます。ぜひ、押さえておきたい1頭です。
ということで、今回の「ヒモ穴馬」にはウインエクレールを指名したいと思います。