浅野翔吾への期待が確信に変わった瞬間。「この子はスター性があ...の画像はこちら >>

巨人1位指名が決まり、野球部の仲間から胴上げされる浅野翔吾

 プロ野球ドラフト会議で、巨人が阪神との競合の末、怪童・浅野翔吾(高松商高、中堅手)の交渉権を引き当てた。早々にドラフト1位指名を公言していた巨人は、今季セ・リーグ4位。
来季以降、名門復活にかけるチームにとって待望であった高卒野手のスター候補を獲得した。その旗手となった巨人の岸敬祐スカウトに、浅野の魅力を聞いた。

浅野翔吾への期待が確認に変わった瞬間

「本当によくやってくれている。昨年、(翁田)大勢の1位指名を担当したことで、今年は自信を持ってやれていますよね」

 原辰徳監督が交渉権の当たりくじを引き、大きなガッツポーズを決めた翌日の10月21日、夕刻。浅野への指名あいさつに高松商を訪れた巨人の水野雄仁スカウト部長は、2年連続で1位指名選手の担当となった35歳の若きスカウトを称えた。

「水野さん、そんなことを言ってくれたんですか? 浅野くんは今年一番追いかけた選手ですし、大勢も今年一軍で活躍してくれた。担当になれて充実していますし、報われた思いです」

 その数日後、電話口の向こうから弾んだ声を返したのは、岸スカウト。

自身、現役時代は制球力に優れた左腕として2011年から3年間を巨人、2014年を千葉ロッテ、2015年から2年間を三菱重工長崎で過ごした。その後、ロッテの打撃投手兼スコアラーを経て、2019年から現職を務めている。

 関西学院大卒業後、ふたつの独立リーグ球団を経て、2010年に愛媛マンダリンパイレーツから巨人育成2位でNPB入りを果たした岸スカウト。巨人では2012年途中から2年近く支配下選手を経験するも、ついに一軍デビューは果たせなかった。本人は、「いろいろな場所で経験させてもらった」と振り返り、「選手のよさをまず見るようにしている」という現在の仕事の流儀につながっているという。

 171センチ・86キロと身体的に決して恵まれているわけではない浅野に関しても、昨年初めに、初めてプレーを見た時から惹きつけられた。
「思った以上に大きく見える。小さいというイメージはまったくなかったし、醸し出すオーラがありました」と岸スカウト。そんな期待感は、浅野の2年夏の香川大会準決勝・大手前高松戦で確信に変わった。

 9回表に4点差を一気に逆転した高松商。その同点2点適時打を放ったのは浅野だった。

「自分も鳥肌が立つほど球場の雰囲気が変わった。
スター性があるし、この子はすごい力を持っていると思いました」

 岸の2022年ドラフトでの、メインターゲットはこの瞬間に定まった。

大勢と共通した浅野のメンタルの強さ

「当初からバッティングはいいと思っていましたが、スイング時の後ろ腕の使い方は木のバットで打てるスイング。普通の高校生ではないですね。巨人の歴代打者で例えるならば、村田修一さんのようなイメージです」

浅野翔吾への期待が確信に変わった瞬間。「この子はスター性がある」、巨人スカウトが明かすドラフト1位指名の裏側

昨年の大勢に続き2年連続でドラフト1位指名選手を担当した巨人の岸敬祐スカウト

 岸スカウトは、打撃面における浅野の魅力を明快に説明した。こうして12球団のスカウトが熱視線を送るなかで迎えた浅野の3年春、岸スカウトがもうひとつ大事にしているという判断材料を落とし込む機会が図らずもやってきた。

 春の香川大会では準決勝を前に負傷し、決勝戦も欠場。続く四国大会では復帰はしたものの本調子とはほど遠い出来で、「厳しいね」と複数の球団スカウトも顔をしかめていた。


 しかし、岸スカウトは「大勢とかぶっていました」と当時の状況を言う。

「逆境を乗り越えるメンタルの強さはプロの世界でやっていくための重要なポイント。そして、大勢も実は昨年春に右肘を疲労骨折したあと、秋までにネガティブな評価をプラスに変えたんです。だから、浅野くんも大勢と似たタイミングでケガをしたので、どう乗り越えていくかを見るようにしました」

 そして浅野は大勢と同じく、ケガからの見事なリバウンドメンタリティで岸スカウトの"宿題"をクリアしていった。浅野は欠場中に「客観的にチームを見ることができた」と感じたという。主将として、「和を大事にする。
自分の結果よりチームが勝てばいい」というリーダーシップを随所に発揮した。そして、そのチーム愛は自らのプレーに余裕と引き出しも与えた。

「それまでは自分中心な部分があったけれど、周りを見られるようになったし、下級生よりも声が出るようになった。変わるきっかけは誰にも絶対にあるんですが、浅野くんは周りを見られるようになったところで一皮、二皮むけましたね」(岸スカウト)

 夏の活躍はご存じのとおりだろう。香川大会3本塁打甲子園3本塁打と圧倒的な成績で高松商を52年ぶり夏の甲子園8強に導いた。その後、侍ジャパンU-18代表としてWBSC U-18W杯の地であるアメリカ・フロリダへ。
そこには岸スカウトの姿もあったーー。

アメリカ視察で感じた「繊細さ」

 侍ジャパンU-18代表では高松商で務めた中堅手でなく、左翼を守った浅野。ここで岸スカウトは、浅野の新たな一面に触れる。

「大会では試合前のノックがなくていきなり試合が始まるのですが、浅野くんはプレイボール前のわずかな時間を使って、レフト後方の金網のフェンスに(ボールが)当たったときの弾み具合を確認していたんです。そうした準備の大切さを大事にしている部分を知ることができた。価値あるアメリカ視察でした」

「豪快」の2文字が先行する浅野の「繊細さ」に触れ、プロ志望届提出後に行なわれた面談でも「打撃はこだわりがあって、いい意味で譲れない部分があることを知ることができた」という。

 その先にあったドラフト1位指名の歓喜。浅野は指名後に「岸さんは海外まで足を運んでくれて、誰よりも僕のことを見てくれた」と感謝の思いを述べた。岸スカウトは「他球団スカウトの思いも詰まっているので、大事に育てたいしサポートしていきたいです」と語った。

「よかったっすね!」「2年連続1位はヤバいっすよ!」。浅野の1位指名直後、岸スカウトの携帯電話には次々とメッセージが入った。その主は大勢をはじめとする、岸スカウトが担当した選手たち。そのなかにはこんなメッセージも含まれていた。

「岸ファミリーの一員として、温かく迎えますよ!」

 ジャイアンツファミリー、そして、「岸ファミリー」のニューカマーとして。2023年、浅野は、恵まれた環境のなかでプロ野球生活をスタートさせることになる。