今回の箱根駅伝は、3年連続で獲得しているシード権で出場する創価大。今季は出雲駅伝で6位、初出場の全日本大学駅伝も5位と、初めて三大駅伝すべてを経験した。

出雲、全日本はともに目標を3位以内としていたが、箱根で掲げる目標は総合優勝だ。その理由を、就任4年目になる榎木和貴監督はこう説明する。

創価大「箱根駅伝は優勝を狙えるチャンス」。4年生を中心に戦力...の画像はこちら >>

昨年は悔しい走りとなったが、今季は好調を維持している4年生の葛西潤

「前回の箱根は9区で3番も見えていたので、自分たちがイメージしていた力どおりの走りができていれば(前回の)目標の3位以内も可能でした。失敗さえなくせば絶対に戦えるチームであるということを、認識できました。それと並行して、前回はメンバーから外れていた選手たちが若手も含めて上がってきたので、これは優勝を狙えるチャンスではないかと。青学大は強かったですが、自分たちの失敗を改善していくことで、その差は少し埋まってくるかなと考えています」

 榎木監督は、「ハーフ(マラソン)以上になれば自分たちの強みを見せられるという思いもある」と話す一方で、スピードや勝負強さが重要なトラックでも結果を出し、日本代表に自校の選手を送り込んで、強豪校と肩を並べられるようになりたいとも考えていた。


 その目標には、今年5月の学生個人選手権1万mで葛西潤(4年)と嶋津雄大(4年)がワンツーフィニッシュを決め、ふたりそろってワールドユニバーシティゲームズの代表になったことで少し近づけた。また出雲と全日本でも、ともに一時は目標としていた3位に顔を出すこともできた。

「苦手としているスピード駅伝の出雲と全日本でも、『あそこまで戦えた』という気持ちが選手たちにもあると思います。

(箱根でも)勝負感や、競り合った時の粘りをしっかり出していけば、簡単には負けないなと感じている部分もある。今までも、トラックで(5000m)13分台や(1万m)28分台を出していてもハーフがよくない選手もいる。そこに隙があるから、『自分たちはハーフを走れる準備をしっかりしていけば勝てる』という思いも持っています」

 こう話す榎木監督は、就任時から年間を通して月間750kmという目標を目指してきた。
それをクリアする選手たちも増えてきたなかで、1年生もトラックで結果を出して「これなら16人のエントリーメンバーに入れるかもしれない」と感じると、距離をしっかり踏み始めた。選手たちも、ただ箱根を走るためではなく、上位で勝負するための練習を意識するようになった。

「(八王子の)大学の周りは起伏しかないから、脚作りのためにはいい環境だと思います。2年前に準優勝をしてからは距離を踏むときも、平坦を探して逃げるのではなく起伏のあるところを積極的に走るなど、チームの意識も変化してきました」(榎木監督)

【4年生との絆と3年生の決意】

 そんな創価大の強みは、榎木監督が就任した年に入学し、「自分たちは監督と同期だ」と話す現在の4年生が充実していることだ。元々、高校時代の実績がある選手は少なく、5000m14分0秒台を持つ2019年世界クロカン代表の葛西と、同じく14分06秒76と世代トップクラスのタイムを持つ濱野将基が入ってきたのは異例とも言えた。

榎木監督は当初、このふたりを軸にしていこうと考えていたが、予想外に14分台後半から15分台で入ってきた選手の方が先に伸びてきて、記録がふたりよりよくなった時期もあった。

「生活がルーズなところもあって手がかかった学年だけど、みんな自分の指摘を素直に受け止めてくれたし、みんなが努力できる学年でした。

僕が強くしたというより、本当に弱い底辺のレベルからみんなで強くなってきたので、仲間意識のようなものもあります。葛西もケガがあったけどしっかり努力するタイプなので、他の選手に上に行かれたことで相乗効果も生まれたと思います」

 その4年生、嶋津と葛西にフィリップ・ムルワを加えた3人が、絶対的な主力と存在している。さらに山の区間にも、前回5区走った三上雄大を練習ではぶっちぎっていたほど計算できる存在の新家裕太郎がおり、6区には2年続けて同区を走っている濱野がいる。

さらに「4年になってようやくスイッチが入り、覚悟を持って駅伝にチャレンジしていると感じ、取り組み方が変わった」と榎木監督が評価する横山魁哉は、10月に1万mで28分33秒58と自己記録を伸ばし、全日本でも1区で駒澤大と同タイムの区間5位と計算できる選手になった。

また、これまで箱根出場を逃していた主将の緒方貴典も、夏場は出遅れていたものの、ここにきて調子を戻してきている。

 4年生はこの7人がエントリーされたが、榎木監督は「力が同等なら、来年以降を考えて下級生を使うと伝えているが、彼らが下級生の挑戦を押さえつける圧倒的な力を見せたら、総合優勝のためには当然起用します」とも話す。


 3年生以下の選手たちは4年生の充実ぶりを認めながらも、来年以降を考えて「自分たちが走らなければいけない」という意識を強く持つ。

 3年生では、前回の箱根で3区を走った桑田大輔が、今年の全日本は新型コロナウイルスに感染して走れなかったものの、11月下旬の1万m記録会では、緒方や濱野とともに先頭を引っ張るレースをして28分41秒93と元気な姿を見せた。

 また、全日本の8区を走って区間11位ながら、前年と比較すれば区間5位相当のタイムだった山森龍暁は、「終わってから余力が残っていたので、一緒にきた順大を追いかけるという判断ができていればよかったという後悔がある」と話し、箱根での雪辱を誓っている。

【1年生、2年生も走れるようになってきた】

 2年生は、前回8区を走った吉田凌が、1万mの記録を28分41秒28まで伸ばして全日本では3区を担当。ハーフマラソンも、1月の大阪で1時間03分07秒を出して以来、5月までに3レースを走り、10月にも東京レガシーハーフを走って長い距離への自信をつけた。

 さらに榎木監督が「前回一番使いたかった選手」と話す小暮栄輝も、初ハーフだった1月の大阪で1時間02分42秒を出して自信を持ち、「自分はロードが得意。

どんなレースでも失敗しないのが強み」と、吉田とともに往路の出走を狙っている。さらに1年生では、全日本で4区を走った石丸惇那も、11月下旬には1万mで28分46秒37の自己新を出している。

「うちの柱としている葛西とムルワ、嶋津の3人を往路で使えば往路優勝は狙えるかもしれないですが、総合優勝は無理だと思います。あくまでもチーム目標は総合優勝なので、そのためには区間配置を考えていかなければいけない」

 榎木監督はこう話すが、ポイントは1区だろう。これまでの3年間は流れに乗るのを必須条件として、日本人エースを1区に起用してきた。今回もそれを踏襲するなら前回と同じく葛西となるが、横山が全日本の1区で結果を出したことで可能性が広がった。
横山は11月の世田谷ハーフでも、風が強い悪条件のなかで5位と、その力を証明している。

 横山が1区になれば、山森か桑田、小暮を3区に起用して葛西を4区にし、嶋津を復路の主要区間に起用して勝負をかけることもできる。さらに山の5区と6区も、当初と違う配置を考えられるようになったと榎木監督は言う。

「当初は新家が(5区で)区間5位くらいでまとめてくれれば大けがはしないし、濱野も6区で区間10番以内にまとめてくれるから、無難路線ならその配置だと考えていました。ただ新家は下りも走れるので、6区に使えれば区間賞候補になるくらいの走力がある。彼の代わりに走った5区の選手が想定より2分以上遅れると厳しくなるが、激坂最速王決定戦で1年生の野沢悠真が去年の三上と同じくらいのタイムで4位になっているので、野沢が前回の三上と同等に走れるなら、新家を6区に使える。濱野も以前はついていく走りしかできなかったけれど、今年は自分でペースを動かして(1万mで)28分46秒を出していたので、平地区間でもある程度計算できるまでになっていて、起用に幅が出てきました」

 好条件になればスピードのある駒澤大や青学大が突っ走ってしまう可能性もある。だが準優勝した21年のような向かい風が吹く悪条件になれば、自分たちの実力を出せると目論む創価大。当日の区間配置が、目標の総合優勝へ向けた大きなカギになる。