【一発屋ではない強力4本柱】

 もはやダークホースとは言えないかもしれない。

 今回の箱根駅伝(2023年1月2、3日)は、学生駅伝三冠(出雲駅伝、全日本大学駅伝、箱根駅伝)に王手をかけた駒澤大が本命。そして、4年生の戦力が充実している前回王者の青山学院大が対抗というのが、大方の見方だろう。



「史上最強」國學院大が駒澤大三冠、青学大連覇を止める筆頭。カ...の画像はこちら >>

2022年3月の日本学生ハーフは、平林清澄(右)、中西大翔(左から2番目)がワンツー。伊地知賢造(左)が8位入賞。前田康弘監督(右から2番目)は今季のチームに自信

 そこに割って入ってきそうなのが、國學院大だ。今季の駅伝シーズンは、出雲、全日本ともに駒澤大に次いで2位に入り、青山学院大には勝利している。距離が延びるほど力を発揮できるチームだけに、箱根ではいやがうえにも期待が高まる。

 今季の國學院大は、前回の箱根を走った選手が5人も卒業したのにもかかわらず、戦力ダウンどころか、むしろ昨季以上に充実している。

 前回の箱根でも活躍した、主将の中西大翔(4年)、伊地知賢造(3年)、平林清澄(2年)、山本歩夢(2年)の4本柱は強力。ハーフマラソンでは、いずれも学生トップの実績を持つ。

「一発屋は、僕はつくりたくない。アベレージの高い、強い選手を育てたい」とは、前田康弘監督がたびたび口にしていることだが、この4人はまさにそういう選手たちだ。

 前回の箱根駅伝後の2月に、山本が全日本実業団ハーフで、従来の日本人学生記録を上回る1時間0分43秒をマーク(日本人学生歴代2位)すると、3月の日本学生ハーフでは、平林が優勝し、中西が2位、伊地知も8位とトリプル入賞を果たした。さらに5月の関東インカレ(2部)では、伊地知がハーフマラソンで優勝している。

「ゆくゆくは『自分がエース』と自信を持って言える選手になりたいと思っていますが、このチームにはこれだけ強い選手がいっぱいいる。これがうちのチームのいいところで、だから結果も出ていると思っています」

 こう話すのは2年の平林。4人それぞれ、チームメイトの活躍に刺激を受けながら、着実に成長を重ねてきた。

【監督は「過去最強」と断言】

 軸となる選手たちがしっかりしていると、その他の選手への波及効果も大きい。

 秋、駅伝シーズンを迎えると、1年の青木瑠郁がめきめきと力をつけ、全日本では5区区間賞の活躍を見せた。しかも、岸本大紀(青学大)や嶋津雄大(創価大)といった他校のエース格を引き離す走りは、インパクトも大きかった。

 また、4年生にして台頭してきたのが藤本竜だ。

出雲と全日本で好走しており、安定感も出てきた。箱根ではさらなるブレイクの予感が漂う。

 中間層を支える選手たちも、もちろん成長を見せている。11月の上尾シティハーフでは、7位に入賞した鶴元太(2年)、1年の高山豪起、全日本からの連戦となった坂本健悟(4年)の3人が1時間2分台の好記録をマークし、さらに8人が1時間3分台で走った。

 ハーフ1時間3分台の力があれば、従来なら十分に箱根を走れるタイムだが、こんな好記録をマークしても16人のエントリーメンバーに入れないほど、戦力が充実している。前田康弘監督は「過去最強の戦力」と断言するのも納得だ。

【ポイントは4本柱の起用法】

 箱根で初優勝を狙うには、やはり、4本柱をどのように配するかがポイントとなる。

 12月29日の区間エントリーでは、前回と同じ3区に山本、5区には伊地知が登録された。一方で、中西と平林は補欠登録。当日のエントリー変更で出番が回ってきそうだ。

「史上最強」國學院大が駒澤大三冠、青学大連覇を止める筆頭。カギは強力4本柱の起用法で前田康弘監督は「山で勝負できる」

区間エントリーでは3区の山本歩夢

 前田監督は「今回は山で勝負できる」と、箱根山中で勝負を仕かけるつもりだ。

「山は、区間順位以上にタイムを稼げる。勝ちにいくなら、5区でリードを奪うしかない」

 平林の起用も匂わせていたが、5区に登録されたのは伊地知だった。
5区は、上りの適性のみならず、メンタルの強さも求められる。その点で、伊地知は無尽蔵なスタミナに加えて、前田監督が「昭和感がある」というガッツある走りが大きな魅力。まさに適任と言えるだろう。

 前田監督の口ぶりからは、相当自信をもって伊地知を5区に起用したことがうかがえる。これまで"山の神"の称号を与えられた選手たちが見せてきたように、ビハインドを背負っていればごぼう抜きでチームの流れを変える役割を、好位置でタスキを受けた時には復路で逃げきれるだけのリードをつくる走りを、伊地知に期待してもいいのかもしれない。

 伊地知が5区となれば、2区は、当日変更で平林の起用が濃厚だ。


 今季の平林は、出雲3区、全日本7区で、田澤廉(駒澤大)や近藤幸太郎(青山学院大)といった、学生長距離界を代表する選手たちに挑んでいる。

「田澤さんと近藤さんは強すぎた。まだまだ差がある」と力の違いを実感した一方で、再戦となっても「攻めるスタンスは変えるつもりはない」と積極的な走りを誓っている。

【初優勝で黄金時代の幕開けへ】

 総合優勝へのカギを握るのが、中西の起用法だろう。中西自身は「どこの区間でも勝負できる準備をしていきたい」と話している。

 一か八かで勝負を仕かけるのであれば、往路に4本柱をつぎ込み、逃げきりを図ることも考えられる。

 中西は1年次と3年次は4区で、それぞれ区間3位、4位と好走を見せている。正攻法なら4区が濃厚だが、現時点で4区登録の鶴元太(2年)はハーフマラソンでチーム内4番目のタイムを持っており、鶴がそのまま走る可能性も高い。

 また、12月4日の甲佐10マイルロードレースで、中西は日本人学生歴代2位となる46分9秒をマークしており、1区に起用されてもスピードレースに対応することができる。

 前田監督が"総合優勝できる"という確証を持っていたとしたら、勝負が決する9区に中西が起用される可能性もある。もっとも、そこまでに優勝争いに食らいついていなければならないが......。藤本や青木の成長もあり、このオーダーを組むことも可能だ。

 現状、復路のエース区間9区には坂本が登録されている。今季は全日本6区6位、その2週間後の上尾ハーフで1時間2分台と好走している選手なので、そのまま9区を走ることも考えられる。

 とはいえ、中西が往路の当日変更でも登場せず、復路に温存されるようなことがあれば、優勝を目指すライバルチームにとって不気味に映るのではないだろうか。また、そうなれば、前田監督の自信の表れにも思える。

 今回は、創価大、順天堂大、中央大もダークホースに挙げられるが、駒澤大の三冠、そして、青山学院大の箱根連覇を阻止するとしたら、その筆頭は國學院大だろう。

 下級生に好選手がそろっているだけに、今回初優勝すれば、一気に國學院大の黄金時代が幕を開けることになるかもしれない。

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