12月29日に発表された、第99回箱根駅伝の区間エントリー。連覇を狙う青学大と、今季の学生駅伝3冠を狙う駒澤大は、まさに力と力の戦いをしようという意図か、あまり煙幕を張らない区間配置をしてきた。

箱根駅伝区間エントリーから各校の思惑を読む。駒澤大、青学大の...の画像はこちら >>

前回10区で区間新を出し、信頼のある中倉啓敦が今回も10区にエントリーされている

 青学大の1区は全日本大学駅伝の1区で快走した目片将大(4年)を置き、2区は全日本の7区で田澤廉(駒澤大・4年)に14秒差で走り、原晋監督が「現時点では田澤くんより強いと思う」と自信を持つエースの近藤幸太郎(4年)を配置した。そして、3区は出雲駅伝の2区で区間4位、全日本は4区区間2位と好調な横田俊吾(4年)と4年生を並べた。

 さらに4区は、1年生の黒田朝日をエントリーしたが、順当なら前回7区で区間賞を獲得し、全日本も5区を区間4位で走っている岸本大紀(4年)か、前回3区で区間2位だった太田蒼生(2年)を起用する堅実なオーダーにするだろう。そこで並ぶ状況でも、前回は1年生ながら区間3位の走りをしている5区の若林宏樹(2年)で抜け出して往路を制し、主導権を握って復路に入ることを目論んだ区間配置になりそうだ。

 対して駒澤大も今年は、1万mとハーフマラソンで自己新を出し、全日本の1区も青学大の目片に9秒差の4位でつなぎ、流れを作った円健介(4年)を置き、2区はエースの田澤と想定どおりの起用となった。往路で先手を取ろうと考える大学が複数いるなかでも、1区を着実に走れば、2区の田澤で確実にトップに立てると踏んでいるはず。
3区のエントリーは吉本真啓(2年)になっているが、ここは本人の「スピードを生かせる区間」と希望しているスーパールーキーの佐藤圭汰(1年)に、当日変更でリードを広げる思惑だろう。

 4区に鈴木芽吹(3年)をエントリーしたのは、完全に復調してきたのか、ダミーなのか判断が難しいところ。心配ない状態なら2区と3区で広げたリードを、悪くても維持できれば、5区の金子伊吹(3年)が前回の1時間11分19秒で走ったとしても、逃げきって往路優勝を果たせるという目算での区間配置だろう。

【6区終了時の位置がポイント】

 両校ともに往路に起用する戦力も豊富だ。青学大は原監督が、「6区は誰を使っても58分台で走れる」と話していたように、エントリーした西川魁星(4年)はその条件をクリアしているはず。7区は1年生だった前々回に4区区間4位、前回は8区区間2位と箱根での信頼感が高い佐藤一世(3年)をエントリーしているが、そこで確実にトップに立つ構想だろう。8区と9区は1年生をエントリーし、10区は前回区間新を出している中倉啓敦(4年)をエントリーしたが、今季は出雲と全日本を走り、前回は9区で区間新を出した中村唯翔(4年)のほか、岸本や太田の可能性もある。

さらには出雲を走っている田中悠登(2年)もいて万全な状況だ。

 一方、駒澤大も経験者がいない6区は帰山侑大(1年)をエントリーしたが、この区間を希望している赤星雄斗(3年)に当日変更するか。そこを乗り越えれば7区は、前回3区で16位と不本意な走りながらも、今季は出雲で5区区間1位、全日本は6区区間4位と好調な安原太陽(3年)をエントリーし、8区は全日本の8区で区間賞を獲得した花尾恭輔(3年)、9区は前回区間4位で信頼感のある山野力(4年)、10区は前回区間6位の青柿響(3年)をエントリーしている。さらにハーフマラソン1時間01分01秒を持ち、全日本では5区で区間2位だった篠原倖太朗(2年)も控えていて、どこかに当日変更で入る可能性も高い。

 前回の青学大は、3区でトップに立ったことで、それ以降の区間の選手たちは自分たちのペースで走り、それぞれの力を100%出せたことが独走の要因であった。6区終了時点でどちらが前に出ているか。
さらにどこで1分半ほどの差をつけられるかが、優勝候補筆頭である2校の勝負を決めるポイントになるはずだ。

【2強以外も狙うは往路優勝】

 そんな強力な2校に対抗し、往路を制して主導権を握りたいと考えているのが、3番手以降の大学だ。候補は國學院大や順天堂大、中央大、創価大あたりだ。

 出雲2位、全日本2位と前評判の高い國學院大は、5区には出雲と全日本で最長区間のアンカーを務め、関東インカレ2部ハーフマラソン優勝の伊地知賢造(3年)を5区に、6区は前々回区間4位の島﨑慎愛(4年)をエントリーして山を固めてきた。だが、3区にハーフマラソン日本人学生歴代2位の1時間00分43秒を持ち、出雲と全日本を走っている山本歩夢(2年)をエントリーした以外の往路は、煙幕を張ってきた。

 補欠には前回4区区間4位で、1万m28分17秒84を持ち出雲は4区区間賞で、全日本は3区区間6位と好調な主将の中西大翔(4年)と、前回は9区区間2位でハーフマラソンは1時間01分50秒を持つ平林清澄(2年)、出雲は1区区間7位で全日本は5区区間賞の青木瑠郁(1年)。この3人のなかのふたりを1区と2区で起用してくる可能性は高い。

そこで流れを作り、復路で粘る戦略でくるだろう。

 また前回2位で、長門俊介監督が「総合優勝のためには青学大と駒澤大に対して主導権を握ることが必須」と話す順天堂大は、3区に前回区間3位の伊豫田達弥(4年)と4区には前回区間2位の石井一希(3年)をエントリーしてきたが、往路の他区間は当日変更をにらんだ配置だ。経験者を並べる3区と4区で確実に上位に迫り、長門監督が自信を持っている四釜峻佑(4年)を当日変更で5区に入れて勝負するためには、1区と2区で確実に上位についていく展開にする必要がある。

 ただ2区は駒澤大の田澤、青学大は近藤という強力な戦力を持っている状況では耐える区間になりそう。それを考えれば1区は三浦龍司(3年)を起用して2校に差をつけて先着し、2区は前々回走った野村優作(4年)で耐えるという布陣になるか。それができれば復路は補欠を含めて堅実に走る選手が控えているだけに、目標の総合優勝争いにも絡めそうだ。


 また前回6位の中央大は、山の5区と6区を前回も走った阿部陽樹(2年)と若林陽大(4年)をエントリー。4区には1万m28分06秒27を持ち、出雲では6区区間4位の吉居駿恭(1年)をエントリーしたが、1区から3区は当日変更を予定したと思えるエントリーにしている。

 その当日変更要員と思える補欠には、前回1区で区間新を出して2位に39秒差をつけた吉居大和(3年)と、1万m28分00秒86を持ち、出雲を走っている中野翔太(3年)。1万m28分15秒40を持ち、出雲は2区区間3位、全日本は1区区間3位の千守倫央(4年)が残っている。

 吉居大和を、順天堂大の三浦が来るかもしれない1区に起用して前回と同じように先手を取る作戦でくるか。または全日本で好走した千守を1区で使い、吉居大和を2区か、ゲームチェンジャーとして期待できる3区で起用するか。
往路の戦力は揃っているだけに、どの布陣でくるのか、他校も警戒するところだろう。

 ただそのなかで、前回9位ながらも往路優勝を狙える戦力を持っている創価大は、榎木和貴監督が「やってみたい」と話していた総合優勝狙いの布陣にしてきた。それでも往路を十分に戦える布陣だ。今季は急成長をして、全日本でも1区で駒澤大の円と同タイムの5位でつないだ横山魁哉(4年)が期待どおりにタイム差のない上位でつなげば、2区のフィリップ・ムルワ(4年)は確実に上位に迫る力を持っている。その流れのなかで3区の山森龍暁(3年)が耐えれば、箱根には相性のいい嶋津雄大(4年)が先頭争いに加われる可能性を持つ。

【創価大は総合優勝の布陣】

 そんな創価大の注目は、5区と6区の起用だ。5区エントリーされたのは激坂最速王決定戦で4位になった野沢悠真(1年)だが、そのまま使って区間10位くらいを期待するのか、新家裕太郎(4年)を使ってもう少し上位を狙うか。さらに6区もこれまで2年起用している濱野将基(4年)をそのまま使うのか、5区を野沢にして6区では区間賞を狙える力を持つと期待する新家を使うのか。

「主力の3本柱のひとりを復路で使えれば、総合優勝を狙うということ」と話していた榎木監督は、7区にエースのひとりである葛西潤(4年)をエントリーした。その意味を考えれば、そこで先頭に立ちたいということである。ならば5区は野沢で耐えてトップからあまり離されないようにし、6区と7区の区間賞獲得の走りでトップに立つことを目論むはず。それがハマれば復路も、補欠に「前回は一番使いたい選手だった」と話していた、ハーフマラソンで1時間2分台を持つ小暮栄輝(2年)や、同じく1時間2分台を持つ野田崇央(2年)、前回8区を走った吉田凌(2年)という来年以降はチームの主力になってもらいたい選手たちもいる。

 往路優勝の行方は駒澤大と青学大、國學院大、中央大、順天堂大がミスのない走りをするかにかかっているが、総合優勝という面では、創価大も山の起用がうまくいけば、上位進出に食い込んできそうな気配もある。

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