今年も1月2日、3日に行なわれた第99回東京箱根間往復大学駅伝競走。大学駅伝3冠を狙う駒澤大と、連覇を狙う青山学院大の熾烈な対決が予測されたレースは、駒澤大の3冠(出雲、全日本、箱根)達成で幕を閉じた。

その勝因を駒澤大の大八木弘明監督は、「選手層の厚いチームだったと言うことに尽きる」と話した。

駒澤大が箱根駅伝優勝で3冠達成。勝因は全区間5位以内の選手層...の画像はこちら >>

前回に続き10区を走った駒澤大の青柿響

「これまでも3冠を狙ったことはありますが、その当時はエース格の選手がケガをしたり、体調不良になると『これは厳しいな』と思うくらいに層が薄かった。でも今回は、エース区間を走る佐藤圭汰(1年)や花尾恭輔(3年)がいなくてもこれだけの結果を出せた。(その要因は)選手層の厚さだったと思う」(大八木監督)

 新型コロナウイルス感染拡大が収まらないなか、大会へ向けてのコンディション調整は以前より神経を使うようになってきている。事実、駒澤大でもエースの田澤廉(4年)が12月に入ってからコロナに感染し、練習を1週間休まなければならなかった。15日の公開取材時に田澤は、「2区は最後に上り坂がありますが、自分は上りがあまり得意ではない。
下りと平坦がある3区の方が自分の力を発揮できると思う」と3区希望を口にしていたのも、不安がゆえの正直な気持ちだったのだろう。

 直前には2年連続で箱根を走り、全日本では8区区間1位でゴールテープを切っていた花尾が体調不良で走れなくなり、8区は赤星雄斗(3年)に当日変更。7区に起用予定だった出雲2区区間賞、全日本2区区間2位だったスーパールーキーの佐藤も体調不良で欠場となったが、他大学も同じように誤算はあった。

 そんななか、レースは序盤から駒澤大と青学大に加え、中央大の3校が競り合う展開になった。1区は18.5kmの六郷橋から主力チームが動き出し、18.8kmで飛び出した明治大の富田峻平(4年)を追って駒澤大の円健介(4年)が抜け出し、区間2位の1時間02分53秒で中継した。中央大は溜池一太(1年)が駒澤大から9秒差の4位で続き、青学大は全日本でも堅実に走った目片将大(4年)が同11秒差の7位で中継した。

 2区の競り合いは、白熱した。これまでの実績を見れば駒澤大の田澤が独走態勢に入ると思われたが、昨年1区で区間新の快走を見せていた中央大の吉居大和(3年)が1km過ぎで田澤に追いつくと、2km過ぎには前に出て差をつけ始めた。しかし、12km過ぎに田澤が吉居を抜いて再度トップに立つ。だが吉居は14km過ぎに追いついてきた青学大の近藤幸太郎(4年)についてリズムを取り戻し、終盤に田澤を再び抜いて1位で中継。

「大会前に『今年は特別な思いがある』と話していたのは、夏合宿で大八木監督から『今年で監督を退く』と聞いていたから。監督が退く年に3冠を達成してあげたいという思いが本当に強かった」と話す田澤は、大きく遅れてもおかしくない状況のなかで粘りきり、中央大に3秒差で中継。

追い上げた近藤も田澤に1秒差という大接戦を演じた。

 3区は中央大の中野翔太(3年)が区間賞の走りで1位をキープし、篠原倖太朗(2年)で2位に上がった駒澤大が青学大に26秒差をつけた。4区はトップに39秒差と遅れた青学大が、前回3区で独走態勢を作った太田蒼生(2年)で先頭に出た駒澤大の準エース、鈴木芽吹(3年)に追いつき、ほぼ並ぶ1秒差で中継してレースを振り出しに戻した。

 続く5区では青学大に誤算が出た。区間エントリーしていたのは前回区間3位の若林宏樹(2年)だったが、前日に体調不良を訴えたため、6区を予定していた脇田幸太朗(4年)に急遽変更。それに対して駒澤大は全日本の4区で区間賞を獲得していた山川拓馬(1年)を起用したが、脇田はその山川に2km過ぎから離され始めると2年連続5区となる中央大の阿部陽樹(2年)にも抜かれ、区間9位の1時間12分47秒で3位ながら、駒澤大に2分3秒差をつけられる危険水域に達してしまった。


 一方、区間4位の1時間10分45秒で走った山川は、阿部に9秒負けたものの30秒差を維持して駒澤大は19年ぶりに往路優勝を果たした。

 青学大の誤算は大きくそのあとにも響いた。6区は初出場の西川魁星(4年)をそのまま使ったが、直前の出走決定で動揺があったのか区間最下位の走りで順位を7位まで落とし、逆転優勝の夢は途絶えた。

 それに対して駒澤大は山の5区と6区で、大八木監督の1年生起用が当たった。

「山川は登りが得意と本人も言っていたので、練習で走らせてみて向いていると感じた選手。前回区間4位の金子伊吹(3年)もいたが、今季は故障気味で戻ってきたのが11月と不安もあったので、いい走りをしていてスタミナもある山川を思い切って使った。

6区の伊藤蒼唯も1年間故障もなくて本当に練習ができていたし、下りの適性も感じていたので思い切って使った」(大八木監督)

 復路30秒差スタートの中央大には、前回区間5位の58分48秒で走った若林陽大(4年)がいて、6区終了時点で並んでいれば駒澤大と中央大の勝負はわからなくなるところだった。だが伊藤が周囲の予想を上回る58分22秒の区間賞の走りをし、中央大との差を47秒まで広げたことで、駒澤大が総合優勝へ大きく近付いた。

 中央大の藤原正和監督は、駒澤大の強さをこう語る。

「僕らは6区で追いついてしか勝負できなかった。復路に(駒澤大の)佐藤(圭汰)が入っていなくて下りが1年生ということでチャンスが少し増えたかなと思ったが、下りで伊藤があれだけいい走りをしたところが駒澤大の強さだと思う。大八木監督の指示もあったと思うが、各区間とも最初は少し早めに入り、中盤は少し落として我々と同じペースにし、15~18kmからもう1回頑張らせる走りで、少しずつ差を開かれてしまった。
そういう意味では、やはり試合巧者だなと感じました」

 藤原監督は、全区間をミスなく終えた2位という結果を、「うちは強化の階段を上がるという意味で今年は3位以内を目標にしていたが、これで選手たちも『優勝したい』という気持ちになると思うので、この悔しさを来年に生かしたい」とも評価する。

 結局、先頭に立つアドバンテージを生かした駒澤大が、7区で3秒縮められた以外ではタイム差を開き、結果2位に1分42秒まで差をつけて優勝した。

 一方、青学大も9区の岸本大起(4年)の区間記録に12秒まで迫る走りで3位まで順位を上げた。5区の若林が欠けたというだけで復路は後手に回って敗れる結果にはなったが、誤算の山の2区間が駒澤大と同タイムだったら、結果11秒差だったという底力の確かさも見せ、来年は中央大とともに3強を形成しそうな雰囲気を見せる。

 駒澤大は、エースが体調不良のほか、エース格の2選手も走れないなか、大八木監督はミーティングで選手たちに「区間賞を獲らなくても、全員が区間5位以内だったら総合優勝はできる」と話した。結果はそのとおりの区間賞1区間、2位が3区間、3位が3区間で4位が2区間、5位が1区間での優勝。駒澤大は選手層の厚さに加え、大八木監督の山に1年生を起用する勝負感の鋭さで、有言実行の3冠獲得を果たした。それは退任する大八木監督への、選手たちからの慰労のプレゼントでもあった。