日本代表が第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の準決勝でメキシコ代表と対戦し、6対5で下して準決勝進出を決めた。日本は4回、先発の佐々木朗希が6番ルイス・ウリアスに3ランを打たれて3点を先制される。

攻撃ではチャンスをなかなか生かせなかったが、7回に4番・吉田正尚の3ランで追いついた。

 しかし8回表、2番手の山本由伸が勝ち越し点を許し、イニング途中からマウンドに上がった3番手の湯浅京己も追加点を与える。だが、日本はその裏に代打・山川穂高の犠牲フライで1点を返すと、9回に5番・村上宗隆のサヨナラ2点タイムリーでサヨナラ勝ちを飾った。試合のポイントはどこにあったのか。2004年のアテネ五輪、2008年の北京五輪で日本代表としてプレーした岩瀬仁紀氏に聞いた。

WBC準決勝で大谷翔平がチームを引っ張っていると確信した象徴...の画像はこちら >>

サヨナラ勝ちでWBC3大会ぶりの決勝進出を決めた日本

【流れを変えた吉田の同点3ラン】

 白熱した一戦で、分岐点が多い試合でした。個人的には8回表、5番アイザック・パレデス選手のレフト前タイムリーで5点目をとられた直後、ホームに突っ込んできたセカンドランナーをレフトの吉田選手が刺したプレーが大きかったと思います。

 そうして日本は最終回の逆転につなげていくわけですが、試合の流れを変えたのは7回、吉田選手の同点3ランでした。

 それまではランナーが出るものの、あと1本が出ずに苦しんでいたなかで、吉田選手が一発で試合の流れを呼び込みました。2ボール2ストライクと追い込まれていましたが、ピッチャーとすればチェンジアップをインサイドにいったことが仇になりましたね。吉田選手はうまく回転して、ボールをはらってスタンドまで運びました。まさに吉田選手の技術で放った一発だったと思います。

 1点ビハインドで迎えた9回裏、大きかったのは先頭打者の大谷翔平の出塁です。

相手がクローザーのジオバニー・ガイエゴス投手を出してきたなか、初球を右中間への二塁打としました。最後の最後で集中力をまざまざと見せてくれました。侍ジャパンを引っ張っているのは大谷選手だと、あらためて象徴するような場面でした。

 その後の吉田選手が四球でつなぎ、最後は村上選手が決めます。9回までの4打席ではヒットが1本も出ず、おそらく状況として一番きつい場面で回ってきました。でも、村上選手はこの大会を通じて苦しんできたからこそ、開き直れたと思います。

初球から振っていけたことで、3球目をとらえることができたように感じました。

【逆転を呼び込んだ栗山監督の采配】

 ピッチャー陣について言えば、先発の佐々木投手はボールを操れていましたし、ピッチング自体はよかったです。4回の3失点は不運な形でヒットが2本続いたところに、甘くなったフォークボールを打たれて3ランとなりました。準決勝からは本当に一発で試合の行方が変わってしまうので、気をつけなければいけない場面ではありましたね。

 栗山英樹監督は5回から2番手で山本投手を送りましたが、トーナメントでは負けたら終わりなので、いいピッチャーから先に使うという姿勢が最後に逆転を呼んだという展開になりました。山本投手は同点に追いついてもらった直後の8回に勝ち越しを許しましたが、持ち味は出していたと思います。

 ただ、佐々木投手にも言えることですが、すべての球をマックスでいっていたので、一回り目はよくても二回り目から少しバテが来ました。これまで対戦してきたチームと比べると、メジャー各球団の主力どころが並んでいるメキシコ打線は実力的に2、3段上のように感じました。だから追い込んでも粘られるし、甘いコースはとらえられる。

 日本にとっては終盤までリードを許す厳しい展開でしたが、そこから最後に逆転したのは本当にすばらしい勝ち方だったと思います。

 ただし決勝で対戦するアメリカは、実力的にはさらに上のバッターが並び、しかも振れている選手が多いです。日本の投手陣はいかに怖がらずに、自分のピッチングができるかどうかがポイントになるでしょう。

 準決勝のベンチの様子を見ていると、日本の先発は今永昇太投手だと予想されます(試合後、栗山監督は今永の先発を明言)。そんなに長いイニングを期待するというより、ピッチャーの枚数をある程度使いながら継投で戦っていく展開になるはずです。

 今大会を通じて日本の投手陣は高い力を見せてくれていますが、なかでも今永投手は一番状態がいいと思います。序盤をしっかり抑えて、自分たちのペースに持ち込んでほしいですね。