第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の侍ジャパンの決勝の相手は、前回チャンピオンにして、最強打線との呼び声が高いアメリカ。MLBのスターを並べたラインナップは破壊力抜群。

一次ラウンドの序盤こそ、チャンスであと一本が出ずに得点力不足が心配されたが、準々決勝以降はその懸念を一蹴するかのように本来の力を発揮している。決勝で先発する今永昇太(DeNA)をはじめとする日本の投手陣は、この「銀河系打線」を抑えることができるだろうか。

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ベネズエラ戦で逆転の満塁アーチを放った「恐怖の9番打者」トレイ・ターナー

【逆境をはねのけた銀河系打線】

 これまでアメリカの戦いは決してラクなものではなかった。現地時間3月18日の準々決勝のベネズエラ戦は、圧倒的アウェーのなかで行なわれた。もともとベネズエラからの移民が数多く暮らすマイアミ。この日、スタジアムにはベネズエラのユニフォームに身を包んだ多くのファンが詰めかけた。満員となった3万5792人の観客のうち、アメリカのファンは1割ほど。

ベネズエラが攻撃の際はもちろん、守備の際も2ストライクに追い込むごとにスタンドが総立ちになって声援を送った。

 そんななかでもアメリカ打線は初回からベネズエラ先発のマーティン・ペレス(レンジャーズ)に襲いかかる。先頭のムーキー・ベッツ(ドジャース)から5番のカイル・タッカー(アストロズ)までの5連打であっという間に3点を先制する。

 その後、2番手で登板したダニエル・バード(ロッキーズ)の乱調もあり、5回に一挙4点を奪われ逆転を許すと、スタンドの大半を占めるベネズエラファンはお祭り騒ぎ。

 なんとか追いつきたいアメリカは、7回二死一、三塁のチャンスで、この日すでに3安打のタッカーが打席に立つとスタンドから「USA!」コールが始まったが、「ベ~ネズエラ!ウッ!」という大合唱にかき消されてしまう。そしてリリーフのホセ・キハダ(エンゼルス)が三振で切り抜けると、マウンド上で渾身のガッツポーズ。

スタンドはまるで優勝したかのような盛り上がりだった。あまりのアウェーっぷりに、この時ばかりは頭を抱えるアメリカ・ファンもいた。

 しかし、その嫌な空気を一瞬で吹き飛ばしたのが8回。恐怖の9番打者、トレイ・ターナー(フィリーズ)だった。無死満塁の場面で振り抜いた打球は、レフトスタンドへ一直線。まさにチームを救う起死回生の逆転ホームランだった。

 この一発によって、壮絶なアウェーでの打ち合いを制し、ドラマチックに準決勝進出を決めたアメリカ。これまで数々の死闘を繰り広げてきた百戦錬磨のプレーヤーが並ぶ打線は、たとえ逆境に立たされても、ただでは終わらない底力がある。

 そして、その興奮が冷めやらぬ翌日19日はキューバを相手に14安打14得点と打線が爆発。前日に続きターナーが2ホーマーともはや手のつけられない状態に。あらためて「史上最強打線」との呼び声が、偽りではないことを証明してみせた。

 しかし、その称号も「優勝」のふた文字をつかむまでは本当の意味で手に入れることはできないはずだ。

キャプテンのマイク・トラウト(エンゼルス)は、次のように語る。

「チャンピオンになれなければ、私たちのミッションは失敗なんだ」

 決勝戦でも、アメリカ打線は容赦なく侍ジャパン投手に襲いかかってくるだろう。

【要注意は恐怖の9番打者】

 ここで、あらためて史上最強打線を見てみたい。

 なんといっても今もっとも好調なのは今大会のHR王にして、チームトップの10打点を挙げるターナーだ。彼が9番に座る打線は脅威と言える。

 1番のベッツからトラウト、ポール・ゴールドシュミット(カージナルス)、ノーラン・アレナド(カージナルス)と続く右打者の並びも、今大会好調を維持している。

昨シーズン、対左打者よりも右打者を抑えている今永だが、それでもこの4人には相当の神経を使うことになるだろう。

 キューバ戦で手にデッドボールを受けたアレナドの状態は明らかではないが、出場すればここまで打率.391と当たっているだけに怖い存在だ。

 5番以降は流動的にメンバーを入れ替えてきた。一発のあるカイル・シュワーバー(ナショナルズ)や好調タッカー、ティム・アンダーソン(ホワイトソックス)やピート・アロンソ(メッツ)などタイトルホルダーが名を連ねる。

 どのメンバーが出場したとしても、どこからでも点がとれるラインナップであり、ここまでの6試合で49得点を挙げた打線は、気を抜くことができない。

 また、ここまでチーム本塁打も全チームトップの10本塁打を記録しており、ランナーをためての一発にも注意が必要だ。

 実績や実力、そして年俸だけを見ると、震え上がりそうになる2023年版のアメリカ打線だが、野球は何が起こるかわからないスポーツ。

 そして決勝戦という舞台は、日本の自慢の投手陣の力を世界に示す絶好のチャンスでもある。当日はアメリカ・ファンの「USA!」コールが響き渡るアウェー感が予想されるが、侍ジャパンにはそれをはねのける勢いと底力があるはずだ。そのネームバリューに臆することなく、丁寧に、そして気持ちのこもった投球で立ち向かい「銀河系打線」をねじ伏せてほしい。

 今年1月、栗山監督が立てた誓いを実行する時がきた。

「アメリカで、最後はアメリカをやっつけて勝ちたい」