昨シーズン、球界の注目を一身に集めた日本ハムの"BIGBOSS"こと新庄剛志監督。大混戦を極めたパ・リーグにあって、5位に9ゲーム差をつけられるなどダントツの最下位に終わった。

新球場のエスコンフィールド北海道とともに「新生・新庄劇場」は見られるのか。キャンプを視察した元"ミスター・ファイターズ"の田中幸雄氏に2023年の日本ハムについて聞いた。

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昨シーズン18本塁打を放った日本ハム・清宮幸太郎

【熾烈なポジション争い】

── 清宮幸太郎選手は入団5年目の昨シーズン、18本塁打を放ちました。

田中 入団してから7本、7本、7本、0本(イースタンでは19本で本塁打王)、そして18本と一気に増えました。もっとレフト方向に本塁打できれば、さらに本数は増えると思うのですが、もともと引っ張りの打者です。ただ、今年は球場が札幌ドーム(両翼100m、中堅122m、フェンスの高さ約5.8m)からエスコンフィールド北海道(左翼97m、右翼99m、中堅121m、フェンスの高さ約2.8m)に変わります。球場サイズも小さくなり、フェンスの高さも低くなった。

清宮にとって球場移転は大きなアドバンテージになるでしょう。最低でも、今季20本は打てると思います。

── 清宮選手、野村佑希選手、万波中正選手のクリーンアップは実現するでしょうか。

田中 昨年、清宮は18本塁打(打率.219)、野村6本塁打(打率.279)、万波14本塁打(打率.203)です。未来の4番を嘱望される野村は、打率はまずまずですがホームランがほしい。昨年、パ・リーグの3割打者は2人しかいませんでしたが、それでも清宮と万波はもう少し確実性が求められます。

万波はボール球に手を出さなければ、40本塁打を打てる素材だと思っています。ほかにも、昨年10本塁打の今川優馬もさらなる進化が期待できます。

── そのほか、気になる打者はいますか?

田中 レギュラーが確約されているのは、清宮と野村だけだと思います。昨年、プロ11年目で首位打者のタイトルを獲得した松本剛は実質"2年目のジンクス"に挑みます。センターは五十幡亮汰と浅間大基(左足くるぶし骨折で離脱)、ライトは阪神から移籍の江越大賀と万波の競争です。ほかにも、二塁は加藤豪将と石井一成、ショートは昨年新人ながら打率.291の上川畑大悟、2年目の水野達稀、ルーキー・奈良間大己のポジション争いが予想されます。

【守護神は誰が務める?】

── 一方、投手陣は日本ハムの最大のウィークポイントである守護神不在。田中さんなら誰をストッパーに指名しますか。

田中 昨年、日本ハム以外の11球団のストッパーは24セーブ以上を挙げました。日本ハムは新人ながら開幕投手を務めた北山亘基が抑えに回りましたが、わずか9セーブでした。個人的には昨シーズン、ノーヒット・ノーランを達成したコディ・ポンセが投球に力強さがありますので適任だと思います。また阪神から移籍の齋藤友貴哉、ソフトバンクにFA移籍した近藤健介の人的補償の田中正義は、いずれも球にスピードがあるので面白い存在です。

── 昨年は中継ぎ投手もいい結果を残せませんでした。

田中 昨シーズンに関しては、ベテランの宮西尚生(昨年7ホールド)、2021年に最優秀中継ぎのタイトルを獲得した堀瑞輝(昨年11ホールド)が不振で、抑えにつなげられなかったですからね。宮西はあと20ホールドで前人未到の「通算400ホールド」ですから、モチベーションは高いと思います。あと、高卒4年目の吉田輝星が51試合に登板するなど経験は積みましたが、防御率(4.26)を向上させないといけませんね。

── 先発三本柱は、伊藤大海(昨年10勝)、上沢直之(昨年8勝)、加藤貴之(昨年8勝)でしょうか。

田中 昨年のパ・リーグは、規定投球回に到達した投手が9人しかいませんでしたが、そのうちの3人が日本ハムです。そこに加え、ドラフト2位の新人・金村尚真は150キロ前後のストレートをコントロールよく操り、打者を打ちとる術を知っています。

ほかにも、アンダースローの鈴木健矢、ジョン・ガント、3年目の根本悠楓らが名乗りを挙げると思います。先発陣の駒は揃っています。

── ドラフト1位ルーキー、"二刀流"の矢澤宏太選手はいかがですか?

田中 オープン戦では松井裕樹(楽天)から代打本塁打を放つなど、類まれな才能を披露しました。見た感じ、引っ張りの打者の印象を受けました。もう少し逆方向にも打てるようになると、もっと成績は残せると思います。投手としてはスライダーがいいです。

近い将来、大谷翔平のように"二刀流"として活躍してほしいですね。

田中幸雄が語る「2年目新庄劇場」と「清宮幸太郎の最低ノルマ」 日本ハムの予想順位はまさかの…

2年目を迎える日本ハム・新庄剛志監督(photo by Ichikawa Mitsuharu/Hikaru Studio)

── 捕手に関しては、伏見寅威選手(前オリックス)、アリエル・マルティネス選手(前中日)を補強しました。

田中 抑え投手とともに、ここが日本ハムの弱点でした。私がコーチを務めていた頃(2010~17年)は清水優心がレギュラーを獲ると思っていましたが、実際は正捕手になれなかった。宇佐見真吾や古川裕大もいますが、伏見をFAで獲ったのは司令塔が決まっていないということです。日本ハムは鶴岡慎也(12年ベストナイン)、大野奨太(16年ゴールデングラブ賞)以来、正捕手が定まっていません。今年もそこは大きな課題です。

【2023年のパ・リーグ順位予想】

── 今シーズンのパ・リーグの順位を予想してください。

田中 1位・ソフトバンク、2位・オリックス、3位・ロッテ、4位・西武、5位・楽天、6位・日本ハムです。ソフトバンクは千賀滉大がメジャーに移籍しましたが、近藤健介を獲得したり、しっかり補強を行なった。同じくオリックスも吉田正尚がメジャー入りしましたが、森友哉が加入しました。もともとオリックスは先発、リリーフとも投手陣が質量とも豊富です。ここが"2強"ですね。ロッテは得意の機動力でどこまで点をとれるか。西武は、昨年チーム防御率1位の投手陣が今年もいい成績を残せるか。楽天に関しては、先発投手陣が高齢化しているので5位にしました。

── 日本ハムを6位に予想した理由は?

田中 かつて日本ハムが日本一になった時は、たとえば2006年はダルビッシュ有小笠原道大、稲葉篤紀、そして現監督の新庄がいて、2016年の時は大谷翔平など、傑出した選手がいました。ただ今のメンバーを見ていると、彼らほどの選手はいない。伸び悩んでいた清宮や吉田が成長していますが、もうひと頑張りほしいところです。

── 新庄剛志監督の2年目は変わると思いますか。

田中 昨年、新庄監督は「優勝しなくてもいい」と語っていました。それが今年は「優勝しか目指さない」と断言しています。1年かけて、選手を見極めたのでしょう。昨年は新庄監督自ら選手に技術指導していました。それが今年はコーチに任せています。逆に、選手間にピリピリした緊張感が漂っていました。

 ほとんどのポジションでレギュラーが決まっていないのが日本ハムの厳しい現状ではありますが、競争という意味で前向きにとらえてほしいと思います。順位予想で日本ハムを最下位にしておいて矛盾していると思われるかもしれませんが、オリックスとヤクルトは"2年連続最下位"からの"連覇"だったじゃないですか。本当の勝負は来年だと予想して、この順位にさせていただきました。