WBC日本代表ブルペン捕手・鶴岡慎也インタビュー(後編)
WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の1次ラウンドを無傷の4連勝で突破した日本代表。準々決勝でもイタリアに快勝し、これまで2大会連続で敗れている鬼門の"準決勝"へと駒を進めた。
前編:鶴岡慎也が見たダルビッシュ有の変化はこちら>>
WBC決勝のアメリカ戦で先発した今永昇太
【伊藤大海のマウンド度胸】
── 1次ラウンドを終え、日本代表のなかでとくに印象深い投手は誰ですか。
鶴岡 山本由伸投手(オリックス)、佐々木朗希投手(ロッテ)は、ストレートの速さとキレ、フォークの鋭さなど、噂に違わぬすごさを感じました。今季も15勝から20勝近くはするだろうなと。間違いなく、今後の日本球界を背負う投手であることを実感しました。
ただ、私が個人的に印象深かったのは今永昇太投手(DeNA)です。
じつは昨年、今永投手がノーヒット・ノーランを達成した試合(札幌ドーム)で、私は解説を務めていました。その瞬間も感情をあらわにするのではなく、ポーカーフェイスでした。
── ほかに印象に残った投手はいましたか。
鶴岡 みんな超一流の投手ですが、選ぶとしたら大勢投手(巨人)ですね。準々決勝のイタリア戦の9回、準決勝のメキシコ戦の9回、決勝のアメリカ戦ではダルビッシュ投手、大谷投手の前の7回を任されるなど、実質的にジャパンのクローザー的存在でした。
サイドスローより少し上から投じる独特のフォームから155キロを超すストレートはエグかったですね。私は現役引退から1年経ちますが、捕るのがやっとという感じでした。
── アメリカ行きをかけた準々決勝はイタリアが相手でした。
鶴岡 イタリアはメジャーリーガーが増え、守備では大胆なシフトを敷いてきましたね。そんななか、中6日での大谷投手の登板は予定どおりだったと思います。第1戦では4回49球を投げていましたが、この日は4回2/3を2失点にまとめてくれたのはさすがでした。
大谷投手をリリーフした伊藤大海投手(日本ハム)も、二死一、三塁で相手の4番打者を封じ、ピンチを断ちました。伊藤投手はマウンド度胸満点で、重要な局面はもってこいでしたね。
【ダルビッシュ→大谷の豪華リレー】
── アメリカに移動して行なわれた準決勝の相手はメキシコ戦でした。
鶴岡 佐々木投手は大谷投手やダルビッシュ投手と遜色ないスピード、変化球のキレを持っています。
メキシコはスタメン全員がメジャー経験者で、佐々木投手クラスでも失投すればスタンドインされてしまう。あとの話になりますが、源田壮亮選手(西武)が送りバントしたシーン(8回裏)がありましたが、その時もシフトを敷いた細かな守備など、さすが準決勝となるとこれまでの相手とはレベルが違うと感じましたね。
── 試合は3点をリードされる苦しい展開でしたが、ブルペンの雰囲気はどうでしたか。
鶴岡 重く感じた3点ではありましたが、7回裏に4番・吉田正尚選手(レッドソックス)が同点3ラン。しかし喜びもつかの間、8回表に山本投手、湯浅京己投手(阪神)が打たれ2失点。ふつうだったら敗戦の流れなのですが、なぜか「これは絶対に逆転するな」という雰囲気がブルペンのなかに漂っていたのは不思議でしたね。もっとも、そう感じていたのは私だけかもしれませんが......。
でも思ったとおり、1点ビハインドの9回裏、先頭の大谷選手が二塁打、続く吉田選手が四球を選んで代走に周東佑京選手(ソフトバンク)。そして最後に、ここまで調子が上がらなかった村上宗隆選手(ヤクルト)の安打でサヨナラ勝ちを収めました。この戦いを見て、やはり日本は強いチームなんだと思いましたね。
── そしてアメリカとの決勝戦。日本は今永投手(2回)、戸郷翔征投手(巨人/2回)、高橋宏斗投手(中日/1回)、伊藤投手(1回)、大勢投手(1回)、ダルビッシュ投手(1回)、大谷投手(1回)と7投手の継投でした。ダルビッシュ投手と大谷投手の登板は予定されていたのでしょうか。
鶴岡 短いイニングでつないでいこうというのは栗山監督と吉井理人コーチのプランだったと思いますが、各投手が思いどおりの仕事をしてくれました。「日本の投手の実力はすごいな」と心の底から思いました。決勝は、大勢が7回に投げるという話はなんとなく聞いていました。首脳陣は、日本が勝っていて、本人たちの状態がよければ......という条件つきで、最後はダルビッシュ投手、大谷投手のリレーを思い描いていたと思います。
── ゲームセットの瞬間、鶴岡さんはどこで迎えたのですか。
鶴岡 1点差でしたので、延長10回からのタイブレークに備え、ブルペンで次に投げる投手の準備をしていました。ローンデポパークのブルペンは、中継ではなく球場を俯瞰した映像が流れるモニターしかありませんでした。ただ最後、大谷投手がマイク・トラウト選手を三振に打ちとったのは認識できました。ブルペンからマウンドまで、100メートルほど離れているのですが、全速力で駆けていきました(笑)。世界一の喜びがあんなに大きいものだとは......最高の瞬間を味わえました。
── 準決勝のメキシコ戦、決勝のアメリカ戦とメジャー打者のレベルのすごさを感じたと思いますが、一方で日本の投手のコントロールのよさを強く思いました。
鶴岡 日本の投手陣は本当にレベルが高いなと、あらためて実感しました。少し前はかわす投球だったかもしれませんが、今回はストライクゾーンで力勝負を挑み、メジャーの強打者を差し込んでいました。またフォークやスプリットといったボールが有効でしたし、それを理解したうえで落ちる系のボールを投げられる投手を選んだということもあったのでしょうね。
── 大谷投手のプロ初勝利の捕手として、彼の進化をどう見ますか。
鶴岡 今回は梶原有司ブルペン捕手が大谷投手の投球を受けていたのですが、その様子を見ていて、自分の投球を客観視しているなという印象を受けました。まず調整のペース。そしてラプソードなどのトラッキングデータで1球ごとにボールの変化量や回転数を測定していました。いわば、「ピッチャー大谷翔平」を「トレーナー大谷翔平」が管理しているというイメージです。平均球速はもちろん、変化球のキレも日本時代と比較してグレードアップしていたのは言うまでもありません。
── 今回のWBCで鶴岡さんが一番印象に残っているシーンは何ですか。
鶴岡 世界一を獲るために、ダルビッシュ投手と大谷投手がブルペンで並んで肩ならしをしている姿です。8回、9回と、ふたりがそれぞれブルペンからマウンドに向かっていく光景が、今でもまぶたに焼きついています。