2シーズンを過ごしたパリ・サンジェルマンを契約満了で退団したリオネル・メッシがスペイン・メディアの取材に応じた。

 次の行き先はアメリカMLS(メジャーリーグサッカー)──インテル・マイアミに決めたことを公言した。

まだ移籍の手続きは完了していないものの、インテル・マイアミ側もメッシ加入を公(おおやけ)にしており、そう遠くない時期に何かしらの正式発表が行なわれるはずだ。

メッシの移籍先MLSにはなぜスター選手が集まるのか ベッカム...の画像はこちら >>

メッシのMLSデビューは7月下旬になる見込み

 それまではサウジアラビア行きや古巣バルセロナ復帰が噂されていた。だが、インタビューのなかでメッシは「W杯で優勝してバルサには戻れないという現状、別のやり方でサッカーをして、日々の生活をより楽しむ時がきた」と決断の背景を説明。ヨーロッパというスポットライトを離れ、家族とともに穏やかな暮らしを望んでいることも口にした。

 昨年末にサウジアラビアのアル・ナスルに新天地を求めたクリスティアーノ・ロナウドに続き、メッシもヨーロッパの舞台から去ってしまうのは寂しいところだ。しかしその一方で、約15年にもわたって両雄が世界のトップに君臨し続けてきたことを考えれば、これもひとつの「時代の終焉」と言っていいだろう。

 いずれにしても、メッシの移籍によって、俄然、注目が集まるのがMLSだ。

 1996年、Jリーグよりも3年遅れで産声をあげたMLSは、現在、果たしてどのようなリーグに成長しているのか。どんな選手たちがその舞台に立ち、どのような盛り上がりを見せているのか。あらためて確認してみたい。

 まず、創設時に10チームでスタートしたMLSは、これまで紆余曲折もあったが、現在行なわれている2023シーズンには2地区計29チームに増加(イースタン・カンファレンス15、ウェスタン・カンファレンス14)。トロントFC、バンクーバー・ホワイトキャップスFC、CFモントリオールと、隣国カナダからも3チームが参戦している。

【ブレイクの転機は2007年】

 しかも、創設当初わずかだった専用スタジアムも、2000年代以降は次々と新設された。現在、陸上トラックのあるスタジアムをホームとするチームは皆無。アメリカンフットボールのNFL(ナショナル・フットボール・リーグ)と共用するスタジアムもあるが、基本的にはすべての試合がサッカー専用スタジアムで行なわれている。

 スタジアム環境が整備されたこともあり、観客入場者数も右肩上がり。1996年の年間278万5001人から、2022年には28チームで年間1001万1578人と、1試合平均でも約2万1000人を超えるほどの盛況ぶりだ。

 ちなみに、2022年度のリーグ最多入場者数を記録したのは、最大約7万9000人の収容を誇るメルセデス・ベンツ・スタジアムを本拠地とするアトランタ・ユナイテッドFCで、1試合平均は4万7116人。逆に最も少なかったのは、メッシが加入予定のインテル・マイアミで、1試合平均は1万2637人だった。

 少ない理由として、収容1万8000人の本拠地DRV PNKスタジアムがマイアミの中心地から30kmほど離れたフォートローダーデールにあることもその要因のひとつ。しかし、それでもメッシが加入したとなれば、毎試合満席になることはほぼ確実だろう。

 入場者数が増加した背景には、スタジアム環境が整ったこと以外にも理由がある。それが、今から約15年前の2007年──現在インテル・マイアミのオーナーでもあるデイヴィッド・ベッカムがレアル・マドリードからロサンゼルス・ギャラクシーに移籍したことだ。

 それまで適用されていたサラリー・キャップ制度に『特別指定選手制度(1チーム2名までサラリー無制限の選手の所属を認めた通称「ベッカム・ルール」)』を設けてまで世界的スーパースターを手にしたことが大きな転機となった。以降、各国のスター選手が次々とMLSに参戦し、アメリカ人たちのサッカー熱はさらに高まっていった。

久保建英の元同僚もMLSへ】

 MLSに加入してきたスター選手たちを、ざっと挙げてみよう。

ティエリ・アンリ(FW/2010年~2014年@ニューヨーク・レッドブルズ)
ロビー・キーン(FW/2011年~2016年@ロサンゼルス・ギャラクシー)
アシュリー・コール(DF/2016年~2018年@ロサンゼルス・ギャラクシー)
アレッサンドロ・ネスタ(DF/2012年~2013年@モントリオール・インパクト)
カカ(MF/2014年~2017年@オーランド・シティSC)
ダビド・ビジャ(FW/2014年~2018年@ニューヨーク・シティFC)
スティーヴン・ジェラード(MF/2015年~2016年@ロサンゼルス・ギャラクシー)
アンドレア・ピルロ(MF/2015年~2017年@ニューヨーク・シティFC)
フランク・ランパード(MF/2015年~2016年@ニューヨーク・シティFC)
バスティアン・シュヴァインシュタイガー(MF/2017年~2019年@シカゴ・ファイアーFC)
ディディエ・ドログバ(FW/2015年~2016年@モントリオール・インパクト)
ズラタン・イブラヒモヴィッチ(FW/2018年~2019年@ロサンゼルス・ギャラクシー)
ウェイン・ルーニー(FW/2018年~2020年@D.C.ユナイテッド)
ゴンサロ・イグアイン(FW/2020年~2022年@インテル・マイアミCF)
ガレス・ベイル(FW/2022年@ロサンゼルスFC)

 このように、誰もが知る世界的スター選手がMLSの舞台に立ち、リーグを大いに盛り上げた。

 現在も、ロレンツォ・インシーニェ(32歳/FW/2022年~@トロントFC)、ジョルジョ・キエッリーニ(38歳/DF/2022年~@ロサンゼルスFC)、チチャリート(ハビエル・エルナンデス/35歳/FW/2020年~@ロサンゼルス・ギャラクシー)、ジェルダン・シャチリ(31歳/MF/2022年~@シカゴ・ファイアーFC)、ドウグラス・コスタ(32歳/FW/2022年~@ロサンゼルス・ギャラクシー)、フェデリコ・ベルナルデスキ(FW/29歳/2022年~@トロントFC)、セバスティアン・ドリウッシ(FW/27歳/2021年~@オースティンFC)など、脂の乗り切った世代がMLSに参戦中。

 また、元バルセロナのリキ・プッチ(23歳/MF/2022年~@ロサンゼルス・ギャラクシー)やマジョルカ時代は久保建英とプレーしたクチョ・エルナンデス(24歳/FW/2022年~@コロンバス・クルー)のような比較的若い選手もプレーしている

【メッシの年俸は破格の56億円】

 リーグ全体がプレゼンス(存在感)を高め、収益力も上がったことで選手のサラリーも上昇。今シーズンのサラリートップ5を見てみると、1位シャチリ=年俸820万ドル(約11億6000万円)、2位インシーニェ=年俸750万ドル(約10億6000万円)、3位チチャリート=年俸740万ドル(約10億5000万円)、4位ベルナルデスキ=年俸630万ドル(約8億9000万円)、5位ドリウッシ=年俸600万ドル(約8億5000万円)となっている。

 今回インテル・マイアミと契約をかわすメッシの場合は、MLSでは破格の年俸4000万ドル(約56億6000万円)を手にするという。しかも1年延長のオプション付きの2年契約なので、3年プレーした場合、ボーナスを含めて総額最大1億5000万ドル(約212億円)と言われている。

 とはいえ、サウジラビア行きを決めていればメッシの年俸は5億ユーロ(約764億円)と見られていたため、本人が明言したように、MLS行きはお金目当てではなかったことは間違いない。とにかく、MLSにとってはベッカムを超える大物獲得となったわけだ。

 すでにメッシ加入前から地元マイアミは大フィーバーとなっており、チケットの価格も地下で高騰。そして、現在アルゼンチン代表の一員として中国入りしたメッシは7月5日にマイアミ入りすると見られており、注目のデビュー戦は7月下旬になる見込みだ。

 来年6月にはメッシも出場予定のコパ・アメリカ2024が開催されるアメリカは、2026年ワールドカップの開催地でもある。果たして、メッシ加入でアメリカサッカー界とMLSはどのような盛り上がりを見せるのか。

 これまでとは比較にならないほど、世界中から注目を浴びることになりそうだ。