高木豊の交流戦総括 前編
セ・リーグについて
今年の交流戦は4チームが11勝7敗で並ぶなど大混戦となり、得失点率の差で最上位となったDeNAが優勝した。セ・リーグはDeNAと巨人の2チームが勝ち越した一方で、リーグ首位の阪神、勢いをつけたかった広島、ヤクルト、中日も苦しい戦いになった。
そんな交流戦でのセ・リーグ球団について、かつて大洋ホエールズ(現横浜DeNAベイスターズ)で活躍し、現在は野球解説者やYouTubeでも活動する高木豊氏に、気になったチームと選手、今後のリーグの展望を聞いた。
交流戦で苦しんだ阪神の岡田彰布監督
【阪神の牙城が崩れてきた】
――交流戦を経て、もっとも勢いづいたセ・リーグのチームは?
高木豊(以下:高木) 巨人かな、という感じがします。DeNAは交流戦で優勝しましたが、そもそもDeNAにはこれくらいの力はあると思っていたので。
――巨人は特にどこがよかったですか?
高木 交流戦に入る前に4.10くらいだった中継ぎ陣の防御率が、3.10くらいまで下がってきたこと。打線では、1番に坂本勇人を起用したのも当たりましたし、4番の岡本和真が本塁打(8本)と打点(19打点)で交流戦2冠と状態を上げてきました。
チームとして細かいミスもあったりしましたが、総括するのであればよかったのは巨人です。交流戦に入る前から調子が上がっていくような兆候はありましたが、交流戦でそれが形になった感じですね。
――逆に、交流戦で心配になったチームは?
高木 阪神です。エラーが増えてきたことと、抑えのピッチャーに問題が出てきた。抑えが打たれたことで4試合ぐらいやられているんです。そういう面では、交流戦前は盤石だったリーグ首位の阪神の牙城が崩れてきて、リーグの様相が変わっていきそうな感じがしますね。
【阪神2年目の左打者は「使わない理由がわかりません」】
――選手個人についても伺いたいのですが、交流戦で活躍が目についたバッターを挙げるとすれば?
高木 巨人の岡本、DeNAの牧秀悟と宮﨑敏郎は特によかったです。巨人の丸佳浩、DeNAの(タイラー・)オースティンの状態も上がってきましたね。オースティンはホームランこそ出ていませんが、"ゲーム勘"が戻ってきています。
あと、阪神の前川右京と巨人の大城卓三もよかったです。
――阪神の前川選手は高卒2年目、若手の左バッターですが、どこがよかったんでしょうか。
高木 スイングのスピード、あとは対応力ですね。交流戦の最初はDHで起用され、緊張感などにのまれてしばらく打てませんでしたが、徐々にヒットが出てきた。外野手でもコンスタントに打てるようになりました。
(6月18日の)ソフトバンク戦での(カーター・)スチュワートの速いボールに対しての対応もよかったです。
――今後もスタメンで使っていくべきですか?
高木 逆に、使わない理由がわかりません。左ピッチャーが出てきた時に岡田彰布監督がどう考えるかですね。例えば、佐藤輝明と前川を並べて使うような形になるとしたら、相手は左ピッチャーを出しやすくなるでしょうし。なので、(ヨハン・)ミエセスや森下翔太らとの併用になってくるのかなと思います。
――巨人の大城選手については?
高木 ポイントとなる場面でホームランを打っていますし、WBCから帰ってきて成長した感じがあります。
【日本のピッチャーもバウアーに学ぶべし】
――ピッチャーはいかがですか?
高木 阪神の才木浩人ですね。もともと力があって、調子がいい時は球威もフォークも申し分ないピッチャー。直近の2試合は絶好調ではありませんでしたが、その中でゲームをしっかり作れるようになったし、失点もしませんでした。すごく成長したと思います。
――巨人の山﨑伊織投手も、パ・リーグのバッターたちが苦戦していた印象です。
高木 落ち着いてきましたよね。
巨人でいうと、戸郷翔征もよかったです。今まではずっと全力だったような感じだったのが、試合の展開や相手の状態などに合わせてギアを上げたり下げたりできるようになった。ピッチングのコツをつかみ始めたのではないでしょうか。
――高木さんが早くから期待していた、DeNAのトレバー・バウアー投手は交流戦で3勝(0敗)を挙げ、防御率1.50といい数字を残しました。
高木 サイ・ヤング賞を穫ったピッチャーですし、ポテンシャル、投げているボールの質はすごいです。高めのコースの使い方がうまいですね。日本の場合は、キャッチャーが「低め低め」とか、立ち上がって「高めのボール球」を要求することがありますが、バウアーは高めのほうが空振りが取れることがわかっている。日本のピッチャーも学べる部分が多いです。
【交流戦後も巨人が加速しそうだが......】
――交流戦の戦いを経て、加速していきそうなチームを挙げるとすれば?
高木 一番状態が上がったのは、やはり巨人かなと。投打で好調な選手が多いですから。
DeNAも「交流戦優勝」という目標が常に目の前にあり、高いモチベーションを保てていた。阪神はちょっと失速気味になりましたが、抑えの問題が修正できて、落ち着いて戦えるようになれば強さを取り戻すと思います。ただ、2チームとも交流戦を経て「加速する」という感じではないですね。
リーグ4位以下だと、広島は苦手な交流戦を五分で乗り切った感じですが、ヤクルトはソフトバンクとオリックス相手にひとつも勝てずに6連敗。中日も調子は上がらず、終盤で日本ハム相手に3連敗と、3チームともよくなかった。
ただ巨人も、交流戦の優勝まであと一歩のところで失速したのがちょっと気になります。昔の巨人であれば、そんな状況で絶対に負けなかったのですが、調子を上げてきた楽天に連敗をしてちょっと尻すぼみになった。優勝していたらより加速していたでしょうが、他チームは助かりましたね。
――6月23日から再開されるリーグ戦では、首位を争う阪神とDeNAが対戦します。交流戦を経て2.5ゲーム差まで縮まっていますが、この3連戦はポイントになりそうですか?
高木 岡田監督に言わせれば、「まだまだ勝負所は先」という感じでしょうね。周囲は盛り上げていくでしょうが、今からそんなことを言っていたら疲れてしまいます。両チームとも負け越さないように、「できれば2勝1敗でいきたい」と思っているはずですよ。
(後編:「佐々木朗希がどんな球を投げても打たれる状況はおかしい」他にパ・リーグで気になるのは西武の「崩壊」状態...>>)
【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)
1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。