2023-24シーズン開幕戦、レアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)の久保建英は、新エースに相応しい活躍で火蓋を切った。本拠地でのジローナ戦の開始5分に見事な先制点を左足で決めた。

昨シーズンに続く開幕戦ゴールで、他にいくつものチャンスを作り出している。

 前半32分、ドリブルで縦に切り込み、相手2人を引きつけてのクロス。33分には、ブライス・メンデスとの息の合ったパス交換から左足を振り抜いたが、シュートは惜しくもバーの上へ。得意の形だった。

 一方で、攻守に成熟した姿も見せた。自陣で敵のパスコースを読み、カットに成功すると、自らカウンターを発動させ、ミケル・オヤルサバルに展開、ゴールに迫った。

後半に入っても、1人、2人、3人と敵を外し、際どい左足シュートを打っている。

久保建英の先制弾を現地紙が絶賛 「マークを外す動き」でゴール...の画像はこちら >>

ジローナとのリーガ開幕戦で先制ゴールを決めた久保建英(レアル・ソシエダ)

「導火線に火をつけた」

 スペイン大手スポーツ紙『アス』は、久保のプレーをそう絶賛している。開幕戦、いきなりゴールという結果を出した功績は大きい。戦いに火をつけたのだ。

「間違いなく、チームのベストプレーヤーだった。開始5分にゴールしただけでなく、相手にとっては"最悪の脅威"を与えていた。

(後半29分の交代で)次第にペースダウンしたが......」

 結局、追加点は生まれず、ラ・レアルは1-1と追いつかれてしまい、試合はドローに終わった。昨シーズン、久保が9得点した試合は9戦全勝だった「縁起かつぎ」も消えた。手放しの賞賛とはいかないだろう。しかし、辛口の批評が多いなか、久保への期待は特筆に値する。久保と交代出場のモハメド・アリ・チョには「大山鳴動して鼠一匹」と散々な書かれぶりだった。

 チームとしての仕上がりは、これからになる。

ダビド・シルバ引退のショックはまだ消えていない。他にもアレクサンダー・セルロートの移籍、ミケル・メリーノの欠場、ウマル・サディクが故障明けなどで、スクランブルな布陣に近かった。

 そして本拠地レアレ・アレーナの芝生の状態が、猛暑などの影響でかつてないほど悪い。とにかくボールを動かし、滑らすスタイルのラ・レアルにとって、アキレス腱にもなりかねない状況である。修復に時間はかかるという。チームとしてペースをつかむのに苦しんだのはそうした理由もあったからで、9月に開幕するチャンピンズリーグでも不安要素になりそうだ。

【勝ち点に直結するゴールを】

 今シーズンの久保は、何が期待されるのか?

 単刀直入に言えば、今シーズンの久保にはゴールが求められる。得点数というよりは、どれだけチームが困難な状況でゴールネットを揺らし、流れを引き寄せられるか。言わば、勝ち点に直結するゴールだ。

 その点で開幕のジローナ戦は昨シーズンに続くゴールを決め、及第点がつけられる。

 5分、自陣からのカウンターだった。左サイドを左利きサイドバック、アイエン・ムニョスがドリブルで持ち上がった時、久保は押し下げられる相手のディフェンスラインに対し、焦っていない。

急ぎすぎず、タイミングを測り、ファーポストから侵入。ムニョスからのバックラインの前を横切るクロスを呼び込み、左足で逆サイドにコントロールした。完全にマークを外していたこともあって、難なくシュートを打ち込めている。

 簡単に見えるが、これが難しい。

 カウンターでは、どうしても「ここぞ」という空気が出て、つんのめるようなスピードが生じ、相手も下がって行く。そこで「止まる」、あるいは「スローになる」ことができるか。

それによって、マーカーを幻惑できる。鋭く力強く動くことが、必ずしも正解ではないのである。

 ラ・レアルでは過去、フランス代表アントワーヌ・グリーズマン、スペイン代表ミケル・オヤルサバルというセカンドストライカータイプの得点数が多くなる傾向にある。それは、彼らが下部組織スビエタ時代から、「ファーポストで"止まる動き"でマークを外し、ゴールを奪う」という技術を身につけているからだ。味方FWが駆け引きをした後にできるスペースをうまく使い、自らにつくマーカーを出し抜く。背後を取る動きが、体に染みついているのだ。

 久保がゴールゲッターとしても覚醒するとしたら、ファーでの得点が増えるだろう。

 冒頭で記したように、チームが仕上がってきたら、ラ・レアルはもっと高い位置で攻撃を繰り返せる。現時点では、想定していた主力メンバーの半分近くが揃わず、新加入のポルトガル代表FWアンドレ・シウバもケガの影響で実戦復帰していない。

 一方でロシア代表の20歳アタッカーで「ケビン・デ・ブライネを彷彿とさせる」というアルセン・ザハリャン(ディナモ・モスクワ)を移籍金1200万ユーロ(約18億円)で契約内定と報じられる。他にもまだ数人は出入りがありそうで、新チームの全貌が見えるのはこれからだ。

 芝生の問題もあるなかで、序盤戦をどう凌ぎきるか。

 久保はチームを双肩に担うことになる。それに値する選手になっている。苦しいなかで自らのゴールで勝ち点を稼ぐのは、エースの証明だ。