2023年シーズンの女子ツアーも、はや後半戦へと突入した。注目の年間女王争い、さらには残りのシーズンでの躍進が期待できる選手について、永久シード保持者の森口祐子プロに話を聞いた――。


※メルセデス・ランキングをはじめ、その他の成績やスタッツは8月21日時点のもの。

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 今季女王争いは、現在メルセデス・ランキング1位の申ジエさん(35歳/今季ツアー2勝)と、2位の山下美夢有さん(22歳/今季ツアー4勝)のふたりが引っ張っていくことになると思います。

 まず山下さんですが、海外メジャーの参戦はこれまで、昨年のAIG全英女子オープン1試合だけでした。それが今季は、7月の全米女子オープン、アムンディ・エビアン選手権、8月のAIG全英女子オープンと、3試合の海外メジャーに出場しました。

 日本女子ツアーは、2022年からシード権の確定基準が賞金ランキングからメルセデス・ランキングへと移行。メルセデス・ランキングでは、海外メジャーにおける獲得ポイントが、国内ツアー3日間トーナメントの4倍で計上されることになりました。

そうしたことが、海外メジャー参戦へのモチベーションになったのではないでしょうか。

 そして、山下さんが参戦した海外メジャー3試合には、申ジエさんも出場。それぞれの成績は、山下さんが(開催時期順に)予選落ち、48位タイ、21位タイ。申ジエさんが2位タイ、54位タイ、3位でした。

 山下さんは、全英女子の最終日に4日間で最もいいスコア(2アンダー)でフィニッシュしたこともあって、今季最後の海外メジャーを終えた際の表情は、決して暗くはありませんでした。ただその表情からは、手応えよりも悔しさのほうが大きいのではないか、ということがうかがえました。

 シーズン後半戦でタイトル争いを演じることになる申ジエさんが、全米女子、全英女子という大舞台で自分よりもはるかにいい成績を収めたことで、格の違いのようなものを感じたのかもしれません。それが、全英女子の試合後に「メジャーで、上位で戦いたい」というコメントに表れていたように思います。

 注目されるのは、こうした海外メジャーでの経験が今後の山下さんのゴルフにどう影響するのか?

 若いうちに海外を経験し、打ちのめされたり、ショックを受けたりして、帰国してから自分のゴルフを見失ってしまう選手は結構います。でも、山下さんはそうはならないだろう、と私は見ています。

 というのも、彼女は自分のゴルフがある程度確立されるまで国内ツアーに集中し、年間女王のタイトルを獲得したあとに海外メジャーに参戦する、というスタイルをとってきたからです。そのため、帰国後に自らのゴルフに迷いが生じる、ということは少ないと思うわけです。

 実際、全英女子の戦いを終えたあと、悔しい思いを漏らしたのと同時に、「(自分には)足りない部分が多いし、帰ってからも来年に向けて頑張っていきたい」とコメント。国内ツアーで戦いながら来年の海外メジャー挑戦に向けて取り組むと、前向きな姿勢を示しました。後半戦でどんなプレーを見せてくれるのか、ますます楽しみです。

 一方、申ジエさんは、昨季は肘を手術したこともあってか、時に集中力を欠いて、短いパットを外すといったシーンも目立ちました。しかし今季は、心・技の真価が問われる海外メジャーにおいて、集中力の高さを発揮。強風のなかでの長いパットの距離感など、さすがは世界のトッププレーヤーであると思わせました。

 彼女の日本ツアーにおける大きな目標は、ひとつは年間女王。もうひとつは、日本での永久シード権を得られるツアー通算30勝(現在、通算28勝)。彼女にとって、今季はその2つの目標達成のチャンスですから、これまで以上に気合いが入っているはず。女王候補の最右翼と言っていいでしょう。

 今後の女王争いですが、9月7日から始まる日本女子プロ選手権が最初のポイントになりそうです。山下さんにとっては昨季、ツアールーキーだった川﨑春花さんに4打差を逆転されて優勝を逃した一戦。

リベンジへの思いは強いはずですし、それを果たせるかどうかが、女王争いの行方を大きく左右するのではないでしょうか。

【その他の注目選手】
◆岩井明愛(21歳/メルセデス・ランキング3位/今季ツアー1勝)
◆岩井千怜(21歳/メルセデス・ランキング4位/今季ツアー2勝)
 妹の千怜さんのほうが1年早くツアー優勝するなど、どちらかというと"早くコツをつかむのがうまい"という感じがします。21歳なのに、熟練のゴルフをするイメージがあります。

 一方、姉の明愛さんは、どこか物足りなさを感じます。というのも、潜在能力は明愛さんのほうが高いものを持っていると感じるからです。先の全英女子でも、畑岡奈紗さんとともに日本人最上位の11位タイで終えましたが、まだまだ上を望める存在だと思っています。

 彼女の場合、今現在の自分で"結果を出そう"と思うのではなく、少し先に目標を置いてゴルフに取り組んでみてはどうかな、と思います。

 岩井姉妹はふたりとも飛距離が出ますから、世界で通用するポテンシャルは十分に備わっています。これからの1年間はパリ五輪の代表選考にも関わってくるので、明愛&千怜の"岩井ツインズ"での出場を実現する、といったことをモチベーションのひとつに頑張る、というのもいいのではないでしょうか。

今季女子ツアー「女王争い」の行方と、後半戦「注目選手」を永久シードプロが分析する
さらに勝ち星を重ねていくことが期待される吉田優利
◆吉田優利(23歳/メルセデス・ランキング6位/今季ツアー1勝)
 発信力もさることながら、柔和な対応でのファンサービスにも定評がある吉田さん。プレーにおいては、一日で8アンダーといったビッグスコアを出せるスケールの大きさを持っています。これまでツアー3勝ですが、この先、5勝、6勝と、もっと優勝を重ねていける選手だと思っています。

 明るい笑顔が印象的で、あまり闘志を前面に出すことはありませんが、内心では自分なりに高い目標を持っているようです。だからこそ、自分なりのペースで何事も取り組んでいく、というタイプなのでしょう。

 日本ツアーも4日間競技が増えて、コンディショニングやスケジューリングが大事になっているなかで、トーナメントから戻ってきた翌日の月曜日には、午前中にバーベルなどを使ったトレーニングをきっちりこなしていますし、午後にはプライベートな時間をしっかりと確保。"吉田スタイル"を貫いています。

 ウエートトレーニングによってパワーアップしたようで、「(ゴルフが)すごくラクになりました」と言っていましたから、今後のさらなる活躍が期待できます。

◆櫻井心那(19歳/メルセデス・ランキング7位/今季ツアー2勝)
 昨季のステップ・アップ・ツアーで5勝し、同ツアーの賞金ランキング1位の資格で今季のレギュラーツアーに参戦。すでに2勝を挙げた逸材です。

 今年6月の宮里藍サントリーレディスで、あるホールの飛距離を見ていたら、彼女が最も飛んでいました。その飛距離を武器にして、攻撃的なゴルフを見せています。しかしながら、パーオン率が23位で、平均バーディー数は17位。ショットの精度を高め、この辺りの順位が上がってくれば、さらに上のランキングに入ってくると思います。

 芯が強そうで、「自分は今の位置では満足していない」といった向上心と自信を秘めている感じを受けます。プレーぶりや表情から受ける印象は、アスリートのマインドを持っているガッツのあるプレーヤーという雰囲気。おそらく、今後の女子ツアーをリードしていくプレーヤーのひとりになっていくのかなと思います。