日本代表がトルコとの親善試合を行なったゲンクにほど近い、シント・トロイデンでプレーしているとあって、伊藤涼太郎はその試合を現地観戦していたという。

「自チームで頑張ろうと、あらためて思わせてくれるプレーを日本代表はしていた。

自分もその選手たちに負けないように、ここでしっかり結果を出していきたい」

 その5日後に生まれたシント・トロイデン移籍後初ゴール。「僕が目標とする代表選手のプレーを間近で見ることができた」ことは、確かに伊藤の刺激になっていたのだろう。

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 しかし、だからといって、伊藤の日本代表への思いが即ゴールにつながったとするのは、あまりに美談を求め過ぎなのかもしれない。

 実際、自身のゴールが生まれたばかりでなく、チームも2-0で勝利したベルギーリーグ第7節メヘレン戦を振り返り、伊藤は「得点シーン以外は全然よくなくて、今年一番悪いんじゃないかという出来でした」と語る。

「相手が前から(プレスに)くるなかで、僕と、もう片方のボランチのマティアス(・デロージ)のところに結構タイトにマンツーマンがきていた。ずっと(マークに)つかれていたので、前に(ボールが)入った時のサポートでしかフリーになるチャンスがなく、自分にボールが入った時にひとり(相手選手を)はがすことが今日はできなかった。

いつもどおりの動きができなかったっていうのはあります」

 いつもとの勝手の違いに戸惑った試合、と言ってもいいのだろう。表情にもさしたる喜びを表さず、伊藤は淡々と反省の弁を口にする。

「結構前からくるチームは多いんですけど、チームとして(連動した動きで)ハメにくるっていうチームが多くて、今日みたいな感じでマンツーマンでハメにくるチームは珍しかった。そこの対応は、今後もっともっと考えないといけないのかなって思いました」

 とはいえ、そんな試合で待望の初ゴールが生まれるのだから、巡り合わせとは不思議なものだ。

 伊藤自身も、「前節(対シャルルロワ戦1-1)は結構チャンスメイクもして、自分的にはわりといいプレーが多くて、それでも点が取れなかったんですけど、今節はあんまりよくなくて、逆に点が取れた」と語り、こう続ける。

「本当にラッキーだと自分では思っています。

まだまだ改善しないといけないところも多いので」

 しかしながら、ことゴールに関して言えば、これぞ伊藤涼太郎、と言うべき技巧によるものだったのは間違いない。

 左サイドからペナルティーエリア内に走り込み、ヤルネ・ステウカースからのスルーパスを受けると、冷静に相手GKの動きを見ながらやや体を開き、巻き込むような右足シュートでニアサイドを打ち抜く。

 まさに、伊藤の十八番だった。

「あの形、ファー(へのシュート)を見せながらニアに打つっていうのは得意な形なんで。それをうまく、このベルギーの地で出せたのはすごくうれしいです」

 さながら、今季J1第8節アビスパ福岡戦(3-2)のハットトリックを想起させるような鮮やかなゴールは、アルビレックス新潟サポーターにとってもうれしかったのではないか――。

 そんなことを尋ねると、伊藤はうなずき、わずかばかり表情を緩めて口を開いた。

「そうですね。今シーズンはニアに打ち抜くゴールが多かったんで、新潟サボーターの人たちも多少は喜んでくれているんじゃないかなと思います」

 試合を通して振り返れば、決して納得のいく出来ではなかった。「得点以外は今年一番悪い」という言葉は、偽らざる本音だろう。

 しかし、現在のチームメイトにして、偉大な先輩でもある岡崎慎司から「そういう試合で点を取るのはすごく大事なこと」だと声をかけられたという伊藤は、「ポジティブにとらえて、しっかり次の試合に向かいたい」と言葉に力を込める。

 Jリーグでの華々しい活躍を置き土産に海を渡ったファンタジスタも、ベルギーリーグでの出場は、この日でまだ6試合を数えたにすぎない。

 それでも初ゴールまでの道のりについて、「う~ん」と唸って一拍置き、「長かったです」と伊藤。

「たくさんのチャンスがありましたし、ここまでゼロ(無得点)できていたっていうのは、攻撃の選手としてやっぱり責任を感じていました」。

 だが、今季ここまでを振り返れば、プレー内容は決して悪くなかっただけに、これをきっかけに流れが変わる可能性も十分にある。

 伊藤は、努めて前向きに語る。

「まずは本当にゴールが取れてうれしかったっていうのと、チームを勝たせられるようなゴールを、(前半の)1-0(のまま)じゃなくて、(後半に追加点を取って)2-0にするっていうのはハーフタイムでも言っていたことだったので、それを達成できたことは喜びたいなと思います」

 今夏、初の海外挑戦を決断した25歳が、ようやくはじめの一歩を踏み出すとともに、チームに5試合ぶりの勝利をもたらした。