近本光司、大山悠輔、村上頌樹、岩崎優......今季、阪神の18年ぶり優勝に貢献した選手は誰かと聞かれれば、いくらでも挙げることができる。それくらい多くの選手が持ち味を発揮した。
【敵将も認めた恐怖の8番】
岡田監督はキャンプ、オープン戦の頃までは、ショートのレギュラーに小幡竜平を考えていたという。実際、開幕は小幡を起用したがなかなか思うような結果を残せず、木浪を使ったところ見事にハマった。それが偶然だったのか、必然だったのかはわからない。
1番・近本、2番・中野、8番・木浪──今季の阪神打線はこの3人が骨格となり、そこに大山や佐藤輝明らの長打力がある中軸が座ることで肉厚さを増した。退任した巨人の原辰徳監督も「(今季は阪神の)1、2、8にやられた」とコメントしていたが、1、2番はともかく、8番にやられたと感じるほど、木浪の活躍は強烈な印象を残した。
一般的に8番打者は、野手で最も打席の劣る打者が座るイメージが強い。ヤクルトのコーチ時代に宮本慎也が入団してきたが、ノムさん(野村克也)は彼のことを「専守防衛」と表現していたことがあった。宮本の守備力を高く評価したノムさんは、ショートのポジションを与えた。
木浪はもともと肩が強く、守備に定評があった選手だ。その一方で打撃にこれといった個性を打ち出すことができず、今シーズンにしてもショートの守備を最優先に起用されていたはずだ。ところが、打撃でもしぶとさを発揮し、恐怖の8番となっていった。
聞けば、オフに近藤健介(ソフトバンク)の自主トレに参加し、下半身の使い方を見直したという。
【8番に固定した理由】
では、木浪は打者としてどのようなタイプなのか。バッティングは、コツコツ当てるというよりはしっかりボールを叩く。得意なコースは真ん中よりもやや外角寄りで、逆に内角低めの膝もとあたりを苦手としている。
昨年までの木浪は左右広角に打ち分けていたが、今季は右中間への強い打球が印象的だ。そして苦手にしていた膝もとの球もうまくバットを出せるようになり、少々詰まったとしても一、二塁間に転がしてヒットを稼げるようになった。
そのせいか、犠打も20個(リーグトップは21個)あるものの、バントをしていた印象は薄い。実際、つなぎ役としてだけでなく、チャンスメーカーにもポイントゲッターにもなっていた。それが今シーズンの木浪だ。
これだけのバッティングを披露すれば、起用法の幅が広がる。たとえば、シェルドン・ノイジーが不振で3番打者に困っていた時期があった。そのような状況で、監督によっては近本を3番にして、木浪、中野を1、2番に据えることも考えられたはずだ。
ところが岡田監督は違った。どれだけ木浪が好調でも、8番から動かさなかった。おそらく岡田監督は「打順を変えたら、打線が切れる」と考えたのではないか。
先述したように、木浪はチャンスメーカーにも、ポイントゲッターにもなった。木浪が出塁して、9番が送り、近本で還す。また中軸でつくったチャンスに木浪が応える。今年はこんな場面を何度も見てきた。
シーズン前から岡田監督は打線を固定したいと言っていた。その言葉どおり、近本、中野の1・2番コンビ、不動の4番となった大山、そして8番の木浪とシーズンを通して固定することができた。
打線を固定するのは容易ではない。しかも、機能させるとなるとさらに困難だ。だが、今年の阪神打線はある程度固定できたことでいいリズムが生まれ、ノイジーや佐藤などの中軸が不振に陥っても得点力不足に悩むことはなかった。今年の阪神打線が上位、下位関係なく得点できたのも、木浪が8番にいたからだ。