12月8日に第2回の現役ドラフトが開催されたが、まだまだ改善の余地を残す同制度についてはさまざまな議論がなされている。より"選手ファースト"の制度にするためのアイディアを高木豊氏に聞いた。



高木豊が現役ドラフトに感じた球団による温度差 開催時期変更も...の画像はこちら >>

【球団によって温度差がある?】

――今回の現役ドラフトの全体的な印象を聞かせください。

高木豊(以下:高木) 選手の出し方を見ていると、現役ドラフトに重きを置いている球団とまだ重きを置いていない球団の温度差を感じるところはありました。チームによって選手層が厚い、逆に選手がいないといった事情もあるのでしょうが......。

――現役ドラフトに重きを置いていると思った球団は?

高木 成功体験がある球団ですね。特に阪神と中日は、いい選手を出せば早く指名できるというメリット(※)を他のチームよりも身をもってわかっているというか、そういう思惑を感じましたね。

 1回目の現役ドラフトで大竹耕太郎を獲った阪神は馬場皐輔、細川成也を獲った中日は鈴木博志と、第2の大竹や細川になるような選手を獲るためにドラフト1位の選手を出しましたし、意識の高さがうかがえました。一方で、申し訳ないのですが楽天や日本ハムなどはあまり力を入れていないような印象を受けました。

(※)指名前に12球団が獲得したい選手1名に投票し、最も多くの票を集めた球団が1番目の指名権を得る。

――第1回はポテンシャルを秘めながらも開花できていない素材型の選手が多かった印象ですが、今回は比較的に実績のある選手が出揃った印象です。現役ドラフトの本来の主旨「出場機会に恵まれない選手の救済」に近い印象もありました。

高木 そうですね。今回は「環境を変えたら活躍できるのでは?」という選手が多かったです。それと、ドラフト1位のピッチャーが3人(阪神の馬場、中日の鈴木、ロッテの佐々木千隼)も出ていることを考えてみても、各球団の本気度が上がってきたことがわかります。

 ただ、前回の現役ドラフトで指名された選手の半分が1年で戦力外になっている。チャンスを掴めば大きく飛躍できる反面、徳俵に足がかかっている状況であることは選手も肝に銘じておく必要があります。球団側とすれば、一番首を切りやすい状況からのスタートになるので、チャンスをもらった時にいいパフォーマンスが出せるよう、しっかり準備しておくことですね。

【実施時期の見直しを】

――今回の現役ドラフトも2巡目の指名は行なわれず、各球団1名ずつ計12名の選手が移籍することになりました。

高木 前回よりも実績のある選手が多く出ていましたが、それでも2巡するほどいい選手はいなかったということでしょう。

 それと、現役ドラフトはプロ野球のさまざまなイベントの中で一番最後。

今回も開催されたのは前回と同じ12月8日でしたが、トライアウトやドラフト会議も終わって、この時期はどのチームもすでに来季の構想ができあがっている。つまり、足りない部分や強化したい部分を「現役ドラフトでなんとかしよう」というチームはほぼないと思うんですよ。なので、現役ドラフトを実施する時期を考え直したほうがいいんじゃないかと思います。

――例えば、どの時期がいいでしょうか。

高木 オールスターゲームの時期でもいいですし......12球団の自由契約の選手が出揃った段階ですぐに実施するとか、ドラフト会議、トライアウトの前でもいいかもしれません。そういう時期に実施したほうが活性化すると思うんです。

 そうすると、現役ドラフトで指名された選手が秋季キャンプに参加することもできる。今のように12月に移籍先が決まっても、初顔合わせは2月の春季キャンプになってしまいます。秋季キャンプ中か、その前に開催すれば秋季キャンプからチームに合流できますし、2月からのキャンプにイチからじゃなくチームに馴染んだ状態でスタートできたほうがいいと思うんです。

――チームに慣れた状態で春季キャンプをスタートできるのは大きい?

高木 大きいですよ。チームに慣れるということもひとつの大切な作業ですから。「自由契約にならない、トライアウトも受けられない、現役ドラフトに出る」という選手は、球団も多少は戦力として見ているということだと思います。

そうした選手が移籍先で活躍できる可能性を高めるために、秋季キャンプ前などに実施してチームに慣れてもらうだけでも全然違うはずです。

 それと、秋季キャンプに参加させて技術的に足りない部分や、いい部分・悪い部分などを把握できれば、春季キャンプも一軍と二軍のどちらでスタートさせるかを振り分けやすいはず。選手側も、秋季キャンプで見えた課題を12月や1月に改善することができるかもしれない。"選手ファースト"を徹底するのであれば、そうしてあげてほしいです。

――現役ドラフトは内情が一切明かされず、結果だけが発表されます。各球団のファンがSNSでさまざまな予想をしたり、議論をしたりといった盛り上がりを見せていますね。

高木 予告先発もそうですが、最初から見えているものに対してはファンもあまり興味を示さないですよね。中身がわからないこそ、あれこれと想像を巡らせるわけで。

 試合も、実力差があって戦う前から勝敗がある程度わかっている試合は盛り上がりに欠けますが、どうなるのかわからない試合には興味が湧きますよね。それを予想するのが面白いのであって、結果を受けての答え合わせまで含めてファンは現役ドラフトを楽しんでいると思います。

 現役ドラフトの制度は始まったばかりで議論の余地も多分にあると思います。今後もいろいろと改善が必要だと思いますが、SNSで飛び交っているファンの声なども参考にしたりしながら、改善していってほしいですね。

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【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。