野球選手がプレーすることをあきらめる理由に、何があるのかとふと考えてみた。

・ケガでプレーできなくなったケース
・プライベートで問題を起こして出場停止を科せられるケース
・指導者と方向性が合わずに野球部を退部してしまうケース
・野球道具が高いため、経済的理由で断念するケース

 どれも現在の日本野球界が抱えている問題だ。

和田毅、館山昌平が語ったプロ野球選手だからこそできる支援活動...の画像はこちら >>

【夢をあきらめてほしくない】

 そんな問題点のひとつを解決するために立ち上がったプロジェクト『DREAM BRIDG』の交流会イベント「DREAM BRIDGE DAY」が、12月8日に横浜・鶴見で開催された。

 これはプロ野球選手や球団の慈善活動をサポートするNPO法人『ベースボール・レジェンド・ファウンデーション』のプロジェクトのひとつで、ひとり親家庭や児童養護福祉施設など、経済的な理由などで苦しむ小学4年から中学3年生までの選手に野球用具を贈呈するというもの。

 現役のプロ野球選手では和田毅(ソフトバンク)、石川雅規(ヤクルト)の両左腕が参加し、OBからは館山昌平(元ヤクルト)攝津正(元ソフトバンク)、そしてものまねタレントのニッチローが姿を見せた。

 いわば冒頭で挙げた4つ目のケースに該当するもので、和田や館山らが先頭に立って支援を行なっているプロジェクトである。

「野球をやめざるを得ない理由はいろいろあると思うんですけど、少しでもこうした活動が広がっていけば、また違った形のサポートもできるのかなと。いま自分たちが考えられることに対して、可能性がある限りやっていきたいと思います」

 そう語ったのは館山だ。同級生の和田とともに、同プロジェクトの立ち上げ当初から活動に参加。

この日はトークショーでMCを務めるなど、ユーモアな語り口で会場を盛り上げた。

 企画立案者のひとりでもある和田が話す。

「僕自身、それほど裕福な家庭ではなかったというのが背景にありました。道具ひとつ買ってもらうのも、けっこう勇気がいるんですよね。古くなって新しいものを買ってもらいたいけど、まだ使えるからと......。家庭環境などが理由で野球をやめないといけない人はたくさんいるけど、夢をあきらめてほしくない。

プロ野球選手はたくさんのサラリーをもらって、しかも用具提供を受けられるというところに自分もちょっと感じるところがありました。用具を提供してもらった子たちがその後、どこまで野球を続けていくかはわかりませんが、そういう子たちが将来的にこうした活動に興味を持ってくれたらいいかなと思っています」

 このプロジェクトでは、用具提供を希望する野球少年を公募。希望者は作文を提出し、選考委員である和田や館山が協議して提供者を決める。

【支援を続けることで気づいたこと】

 プロジェクトは4年目を迎えるが、続けてきたことでたくさんの発見があったと和田は言う。

「道具を渡した時の子どもたちのうれしそうな表情や、毎晩布団に道具を抱えて寝ているという話を聞いた時は、彼らのような気持ちになって自分は(野球を)やってこなかったなと。支援をすることで気づくことは多かったなと思います。我々は用具を提供してもらってプレーしている立場なので、矛盾していることかもしれないですけど」

 家庭環境が厳しかったことでクローズアップされる選手として、現役ではオリックスの宮城大弥が挙げられる。

宮城はボロボロのクラブを大切に使いながら、プロの舞台までたどり着いた。そして2023年は侍ジャパンの一員としてWBCを戦い、世界一に輝いた。和田は言う。

「テレビ番組などで、宮城選手のような少年がいるのを見ると、あきらめる選手もいるんだろうなと考えたりしますね」

 毎年のように、冒頭に挙げた理由で野球ができなくなる選手がいる。自ら招くケースもあるが、本当に野球を続けたい選手のためにバックアップするのが大人の役目なのだろう。なかでも、プロは用具提供を受ける選手がほとんどで、だからこそ道具があることへのありがたみを"支援"という形で恩返しするのは素敵な取り組みと言えるだろう。

 また、館山がこのプロジェクトにいることも大きな意味を持つ。なぜなら館山は現役時代、幾度となくケガに見舞われ、野球がしたくてもできなかった経験の持ち主だからだ。現役を引退した今、自身の活動を通して伝えなければいけないことがあると館山は言う。

「ケガで野球をあきらめてしまった先輩や同級生を見ると、もったいないというのが先にくるんですよ。プレーをしていた時は、最後までとことん突き詰めてやりたいという思いと、負けてなるものかというようなあきらめの悪さ。自分の現役時代は"ケガ"というところがクローズアップされてしまっていましたが、そこでケガに勝った、リハビリで乗り越えた......となれば、世の中を明るくできるんじゃないかと、意地になってやっていました。

ただ、そこを乗り越えたからじゃなくて、そもそもケガをしない環境をつくらなきゃいけない。それが僕の使命だと思っているので、できる限りのことはサポートしたいなと」

 館山はケガをしないことへの啓蒙活動を行なっているが、一方でこの日のように経済的な理由などで野球が続けられない子どもたちへの支援も行なっている。少しでも野球ができなくなってしまう選手を減らすという、館山の思いが伝わる。

【野球人口が増えれば環境は変わる】

 この日のイベントは一風変わっていた。今回は支援者への恩返しの場でもあったのだが、そこで取り組まれたのは「アクティビティ」という体を動かす交流だ。

「ライフキネティック」のトレーニングを取り入れたものだが、じつはこれは和田が来季に向けて自主トレでもやる予定だという。

ライフキネティックは、脳を活性化させるトレーニングのひとつで、ドイツのブンデスリーガのクラブなど多くのスポーツチームが行なっている。

 とはいっても、決して激しい運動をするようなものではなく、目で見て、頭で判断して動くという楽しいものだ。それをファンとともにやる理由は、支援ありきの取り組みにならないためのものだ。館山は言う。

「(こうした支援の)理想論は、支援がなくても世の中が平和だったら一番いいと思います。サポートはできる限りのことはしていかなきゃいけないですけど、世の中がもっと明るくなって、たとえば野球人口がもう少し増えて、道具に関してももっと値段が下がりやすい状況になったり、公園でキャッチボールができるような環境になればいい。今は公園に18人集めて試合をするのが難しくなってきて、高校野球も僕らの頃は4000校以上あったのに、今は3400校ぐらいまで減っている。サポートできる人が助け合いながら、誰もが自分のやりたいことにまっすぐ向き合える世の中になることが最終目標かなと思います」

 プレーすることをあきらめることがないように。人それぞれがやりたいことができる世の中に。野球を通じてそれを伝えることが、この日の取り組みであり、目指すところであり、我々大人が考えていくべきことなのかもしれない。