今永昇太鈴木誠也は、2016年から2021年まで横浜DeNAベイスターズの投手と広島東洋カープの打者として、60打席以上で対戦した。その結果は、打率.333、出塁率.456、4本塁打、OPS1.123──。

簡単にまとめると、今永は鈴木によく打たれた。

 だからというわけではないだろうが、今オフ、ポスティングシステムを利用した今永は、シカゴ・カブスに入団した。来シーズンからは、鈴木とチームメイトになる。

今永昇太のカブスでの活躍に期待できるわけ 左のスプリッターは...の画像はこちら >>
 今永の契約は、ESPNのジェシー・ロジャースとUSAトゥディのボブ・ナイテンゲールによると、4年5300万ドル(約77億円)だ。2025年のオフか2026年のオフにカブスがオプションを行使すると、5年8000万ドル(約116億円)になる。

 年平均額は、前者であれば1325万ドル(約19億3000万円)、後者なら1600万ドル(約23億3000万円)。

オプションが破棄されると、今永にはオプトアウトの権利が発生するという。そこで契約を打ち切り、FAになることができるということだ。

 山本由伸がロサンゼルス・ドジャースと交わした12年3億2500万ドル(約473億円)はもちろん、年明け早々にESPNのジェフ・パッサンが報じていた、総額1億ドル以上(約145億円)にも届かない。ただ、ニューヨーク・ポストのジョン・ヘイマンは、他球団からカブスより倍以上の契約を申し出られていた、と報じている。

 カブスにとっては、リーズナブルな契約に思える。今オフのFA市場に出ている左の先発投手、ブレイク・スネル(前サンディエゴ・パドレス/31歳)とジョーダン・モンゴメリー(前テキサス・レンジャーズ/31歳)の契約は、どちらも年平均2000万ドル(約29億円)を超え、総額は1億ドルに達するだろう。

 それでも今永の契約は、低い金額ではない。

【今永の武器は千賀のお化けフォークに匹敵する】

 昨オフ、福岡ソフトバンク・ホークスからFAになった千賀滉大は、ニューヨーク・メッツと5年7500万ドル(約102億円・当時)の契約を交わした。こちらは、年平均1500万ドル(約21億円)だ。今永の年平均額は、オプションを破棄されると千賀を少し下回るものの、行使されれば千賀を少し上回る。

 メジャーリーグ1年目のシーズン年齢(6月30日時点)は、2023年の千賀も2024年の今永も30歳だ。一方、その直前の3シーズンに記録した防御率を比べると、2020年~2022年の千賀が2.19であるのに対し、2021年~2023年の今永は2.69なので、0.5点の差がある。同様に、奪三振率も10.17と9.09。

千賀が1.00以上高い。

 けれども、イニングは今永のほうが多く、与四球率も低い。千賀が349.2イニングと与四球率3.42、今永は411.2イニングと与四球率1.73だ。

 しかも2023年に限ると、今永の奪三振率10.58は、セ・リーグパ・リーグで規定投球回に達した計21人だけでなく、100イニング以上を投げた計50人のなかでも最も高かった。ちなみに、山本の奪三振率は9.27、今永とチームメイトだったトレバー・バウアーは8.95。2022年の千賀は9.75だった。

 千賀のお化けフォークは、メジャーリーグでも「ゴーストフォーク」として絶大な威力を発揮した。スタットキャストによると空振り率は60%近く、被打率は.110にすぎなかった。今永のスプリッター(スタットキャストはチェンジアップではなくスプリッターとしている)も、そうなり得る。

 スプリッターを持ち球とする左の先発投手は、極めて少ない。こちらもスタットキャストのデータを見ると、2023年にスプリッターを50球以上投げた先発左腕は、8月下旬にメジャーデビューしたドルー・ロム(セントルイス・カージナルス/24歳)しかいない。ロムも全投球に占めるスプリッターの割合は高くなかった。

671球中53球、7.9%だ。

 メジャーリーグにおいて今永のスプリッターは、ほとんどの打者には未知の球種となる。加えて今永のフォーシームはスピン量が多く、伸びがある。

【カブスではエースに次ぐ先発の柱として期待】

 不安材料を挙げるなら、投手としてフライ系という点だろう。ここ3シーズンの被本塁打は47本。山本と2020年~2022年の千賀は、その3分の1に満たない。ヘイマンによると、ニューヨーク・ヤンキースは今永がフライボール・ピッチャーなのでヤンキースタジアム(をホームとするヤンキース)には不向きと判断した、という。

 その一方で、メジャーリーグに移り日本プロ野球と使用球が変わることは、問題にはならないと思われる。サンプル数はわずかながら、昨年3月に行なわれたワールド・ベースボール・クラシックで、今永は制球を乱していない。韓国、イタリア、アメリカを相手に計6イニングを投げ、7三振を奪い、与四球はなかった。死球と暴投もゼロだ。

 今永が加わり、カブスのローテーションは5枠中4枠がほぼ確定した。エースは、今永と同じ左腕のジャスティン・スティール(28歳)だ。メジャーリーグ2年目の2022年に119.0イニングで防御率3.18と台頭したのに続き、2023年は173.1イニングを投げ、スネルと千賀に次ぐナ・リーグ3位の防御率3.06を記録した。

 スティールとともに今永が防御率3.50未満を記録すれば、かなり強力なローテーションが形成される。4枠のあとのふたり、ジェイムソン・タイヨン(32歳)とカイル・ヘンドリックス(34歳)はそこまでいかずとも、実績と力量からすると防御率4.00未満は可能だ。3.50前後の防御率もあり得なくはない。

 最後の5枠目は、現時点ではこちらも左腕のジョーダン・ウィックス(24歳)が有力だ。ウィックスは2021年のドラフトで全体21位指名を受け、昨年8月にメジャーデビューした。

 短縮シーズンの2020年に飾った地区優勝を最後に、カブスは3年続けてポストシーズン進出を逃している。だが、2023年に挙げた83勝は、ワイルドカードの2番手に並んだ2チームと1勝しか違わなかった。そこからあと一歩上に行くため、カブスは今永を手に入れたようにも見える。

【4年ぶりの地区優勝に向けてさらなる補強なるか】

 もっとも、今オフのカブスは同地区のミルウォーキー・ブルワーズで監督を務めていたクレイグ・カウンセルを新監督に迎えたものの、マイナーリーグ契約のエドウィン・エスコバー(前DeNA/31歳)らを除くと、加わった選手は今永がひとり目だ。

 なかでも、一塁のポジションは空いていて、リース・ホスキンス(前フィラデルフィア・フィリーズ/30歳)と契約を交わすか、カブスからFAになったコディ・ベリンジャー(28歳)を呼び戻しても不思議ではない。パワーヒッターの加入がないと、2023年の後半にOPS.938を記録した鈴木に対するマークはきつくなりそうだ。

 合意が報じられた2日後、カブスはトレードを成立させ、マイナーリーガーふたりと交換に、ロサンゼルス・ドジャースからリリーフ投手のイェンシー・アルモンテ(29歳)と昨年メジャーデビューした内野手のマイケル・ブッシュ(26歳)を獲得した。

 今永との契約は、ここから開幕までカブスが行なう「補強の幕開け」なのかもしれない。