「PLAYBACK WBC」Memories of Glory

 昨年3月、第5回WBCで栗山英樹監督率いる侍ジャパンは、大谷翔平ダルビッシュ有、山本由伸らの活躍もあり、1次ラウンド初戦の中国戦から決勝のアメリカ戦まで負けなしの全勝で3大会ぶり3度目の世界一を果たした。日本を熱狂と感動の渦に巻き込んだWBC制覇から1年、選手たちはまもなく始まるシーズンに向けて調整を行なっているが、スポルティーバでは昨年WBC期間中に配信された侍ジャパンの記事を再公開。

あらためて侍ジャパン栄光の軌跡を振り返りたい。 ※記事内容は配信当時のものになります

 日本代表が第5回WBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の準々決勝でイタリア代表と対戦し、9対3で下して準決勝進出を決めた。日本は3回、6番・岡本和真の3ランなどで4点を先行。5回表に2点を返されたが、その裏、5番・村上宗隆、6番・岡本の連続タイムリーで3点を加えてリードを広げる。7回には4番・吉田正尚の本塁打などで2点を追加した。

 投げては、先発の大谷翔平が5回途中まで2失点と好投。

2番手の伊藤大海をはさみ、6回から今永昇太、ダルビッシュ有、大勢とつないで逃げきった。試合のポイントについて、2006、2009年WBC日本代表でメジャーリーグでもプレーした岩村明憲氏に聞いた。

「栗山英樹監督の勝負勘がさえていた証」村上宗隆と吉田正尚の打...の画像はこちら >>

【イタリアを圧倒した大谷翔平の気迫】

 先発した大谷選手は、普段よりもギアを1つも2つも上げた状態で挑んでいるように感じました。それだけこの試合にかける思いが強かったのだと思います。特別な気持ちがピッチングにも表れ、真っすぐ、スライダー、スプリットとどのボールも気迫がこもっていて、実際のボール以上にバッターを圧倒していた印象を受けました。

 3回の先制の場面ですが、大谷選手のセフティーバントから一気に流れが変わりました。WBCの準々決勝という負けられない戦いで、本当にしびれる状況でプレーしているからこそできたセフティーバントでした。

 イタリアはマイク・ピアッツァ監督をはじめ、とくに内野手にメジャーを経験している選手が多く、一、二塁間に内野手の人数を増やす"大谷シフト"を敷いていました。そしてこれは取ってつけたように聞こえるかもしれないですが、サードにはエンゼルスのチームメイトであるデビッド・フレッチャーが守っていた。結果的にピッチャーが捕球しましたが、相手のシフトと大谷選手の遊び心が重なった結果だったのだと思いました。

 その後、吉田選手のショートゴロで先制し、村上選手が四球で歩き、岡本選手の3ランでこの回一挙4点を奪いました。今の日本の投手陣なら、4点とれば盤石と言えるような陣容ですので、岡本選手のホームランは勝負を決めた一発といってもいいと思います。

 岡本選手は慣れている東京ドームで、少し泳がされながらもスタンドまで持っていける打ち方をしていました。

さすが5年連続30本以上ホームランを打っている打者だと感じました。

【村上宗隆の完全復調】

 2点差に迫られた5回裏には、村上選手にタイムリーが出ました。1次ラウンドで打率1割台と苦しんでいた村上選手ですが、これまでは打つべく球を見逃していました。それで不利なカウントになり、手を出さなくてもいい球を打って凡退していました。イタリア戦の第1打席も3ボール2ストライクから際どい球を見逃そうとして、"バットコール(悪い判定)"になってしまった。そうした消極性が悪い方向へつながっている印象がありました。

 そういった意味で、5回に飛び出した二塁打はものすごく大きかった。試合を見ながら、「"今後のためにも"センターから逆方向(レフト方向)に打ってほしい」とずっと思っていました。

 今後のためというのは、2つの意味があります。1つは、準決勝以降を見据えてのことです。準決勝の相手は、メキシコとプエルトリコの勝者になりますが、いずれもバリバリのメジャーリーガーを擁するチームです。この1次ラウンド、準々決勝で対戦してきたよりはるかに上のレベルのピッチャーが登板してきます。

 そしてもう1つはご存知のとおり、村上選手は「将来、メジャーに行きたい」と公言しています。今回のWBCに個人的な理由を持ち込むことは絶対ないと思いますが、「こういうピッチャーを打てない限り、自分の夢につながらない」という気持ちはどこかにあるでしょう。

 村上選手のいい時というのは、センターから逆方向への打球が多い。この試合で放ったヒットはいずれもセンターから逆方向への打球で、村上選手らしい会心の当たりでした。調子の上がらないままアメリカに行くのと、復調して行くのとでは気分的にもまったく違います。

 もちろん、村上選手のなかには今大会初めて4番から外された悔しさもあったはずです。

昨年三冠王を獲り、日本で一番多くホームランを打ったバッターですから。4番を外された反骨心が、いい方向に働きましたね。その村上選手に代わって4番に入った吉田選手もさすがの一発でした。

 栗山英樹監督はふたりの打順を入れ替えることに関し、相当悩んだと思います。「4番は村上でいく」という覚悟のもと、1次ラウンドの4試合を戦ってきただけに、変えたくないという思いはあったでしょう。ただ、短期決戦はひとつの判断が大きく結果を左右します。

 そういった意味で、打順を入れ替える決断をし、最高の結果が出た。栗山監督の勝負勘がさえていた証だと思います。

 準決勝はどんな打線で臨むかに注目ですが、このいい流れを変えたくないでしょうし、イタリア戦と同じ並びでいく可能性はあると思います。

 日本にとっては、準決勝からまったく違う戦いが始まると思っていいでしょう。相手のレベルもそうですし、スタジアムの雰囲気も完全アウェーになるかもしれない。さらに、準々決勝から準決勝を迎えるまで、実質4日ほどしかありません。日本と決戦の地・マイアミの時差は13時間。時差調整は選手たちを最も戸惑わせる原因になり得ます。こればかりは気持ちだけでどうすることもできません。実際、僕がメジャーでプレーしている時は、アメリカ国内の3時間の時差でも大変でした。

 いずれにしても、環境は180度変わりますが、これまでの戦いを変える必要はありません。しっかり自信を持って、できる限りいいコンディションで臨んでほしいですね。そうすれば自ずと結果はついてくると思います。