Jリーグから始まった欧州への道(2)~三笘薫
三笘薫のJリーグデビューは2020年シーズンの開幕戦、川崎フロンターレ対サガン鳥栖戦(2月22日)だった。後半20分、左ウイングとして先発した長谷川竜也と交代でピッチに立った。
三笘は翌2021年6月、ベルギーリーグのユニオン・サンジロワーズに移籍しているので、Jリーグでプレーした期間は丸1年になる。
活躍の密度が濃く、とりわけ際立っていたのが得点力だった。2020年が13ゴール、2021年が7ゴールと、ウインガーにしてはハイスコアを記録している。
ブライトンでプレーする現在、縦を突こうとする姿勢は旺盛だが、無理にゴールに迫ろうとはしない。ボールを受ける場所も、欧州でプレーする現在を"大外"とするなら川崎時代は"中外"。ペナルティエリアの左角あたりが多かった。よりゴールに近い位置でプレーしていた分だけ、得点に絡む機会も多かった。ドリブラーであることに当時も今も変わりはないが、本格的なウイング色は、現在のほうが濃い。
川崎時代には日本代表には招集されなかった。
【代表、ベルギーではウイングバック】
五輪代表チーム(本大会ではU-24日本代表)は、東京五輪本番直前までウイングのいない3-4-2-1で戦っていた。三笘の適性にマッチした布陣ではなかった。森保一監督との相性は悪かった。五輪本番(2021年8月)でさえ、三笘はアタッカーのなかで最も出場機会が少ない選手だった。
A代表に初めて招集されたのは2021年11月だ。
2022年11月に開催されたカタールW杯本番でも、三笘に対する森保監督の評価は高いとは言えなかった。4試合いずれも交代出場に終わっている。森保監督はそうなった理由について、三笘がコンディションの悪い状態で合流してきたことを挙げた。だが、それまでの経緯を見れば、それが主たる理由には思えない。
そしてカタールW杯の4試合は、すべてウイングバックとしての出場だった。サイドをひとりでカバーするため、サイドアタッカーを両サイドに各ふたりを擁すチームと対戦すると、ライン際一帯で数的不利に陥る。ウイングバックは後退を余儀なくされ、最終ラインは5バック同然になる。
ウイングバックの平均的なポジションはウイングより平均距離にして20~30メートルほど低い。その場所で相手と1対1に臨めば、ボールを奪われた時のリスクが膨らむ。三笘をウイングバックで起用することは無駄遣いに相当した。
サンジロワーズも5バック(5-3-2)で戦うチームで、三笘はカタールW杯同様、ウイングバックでプレーしていた。
"大外"の後方を任された三笘だが、それでも7ゴールを決めた。ウイングバックとして7ゴールを決める選手はそういない。三笘がベルギーリーグのレベルを超えた選手であることが、この数字からも見て取れる。
ブライトンはカタールW杯時の森保ジャパンや、サンジロワーズとは趣の異なる、かつての川崎をもう2レベルほど濃厚にした、攻撃的サッカーの本流を行くチームだ。何と言ってもボール支配率が高い。サイドは片側(外側)がタッチラインなので、相手のプレッシングを浴びるのは内側からだけになる。相手が360度、全方位からプレスを掛けてくるピッチ中央の選手より、ボールを奪われにくい設定になっている。
【頭脳的なプレーヤーになってきた】
したがってウイングは、ロベルト・デ・ゼルビ監督が標榜する攻撃的サッカーには欠かせないパーツになる。三笘との相性は抜群によかった。三苫にボールが渡った瞬間、ブライトンらしさは全開になる。三笘にボールが回ってくる頻度は、それまで所属したどのチームより高い。
一番に狙うのは縦勝負だ。相手のサイドバックと対峙した際に、後ろ足となる右足のインサイドで、ボールを押し出しながら、タイミングのズレを狙う。十八番は、内に行くと見せかけて縦に出るフェイントで、キレは川崎時代より何倍も鋭くなっている。1試合に1、2度決まるそのアクションは、もはや芸術の域にある。三笘ほど相手の逆を完璧に突き、縦に抜いて出る技巧を持った選手はいない。三笘が相手SBと向かい合う姿は、お金を払いたくなる見せ場となっている。
ドリブル&フェイントのキレに加え、中盤的なセンスも身につけている。周囲と絡む能力は大幅にアップした。大外で構えるゲームメーカー。サイドアタッカーと言うより、横崩しの主役だ。冷静沈着。サイドからゴールを逆算する頭脳的な賢いプレーヤーになってきた。
川崎時代の三笘より、エリアをカバーする概念が増している。左ウイングという持ち場を長時間空けることはまずない。デ・ゼルビ監督のもと、ボールを奪われることを想定しながら、賢く攻めながら守ることができる戦術的選手に変貌を遂げていった。腰のケガが長期に及ばないことを祈りたい。