ドジャースのMLB開幕戦が行なわれる韓国に、大谷翔平ファンクラブがあるという。会長のイ・ジェイク氏に、大谷を初めて見た時の話から、好きになり推し活を始めたきっかけを話してもらった。

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【大谷愛を綴る書籍まで出版】

 大谷翔平のドジャースでの公式戦デビュー(2024年3月20、21日/ソウル)を控え、「韓国の大谷翔平プライベートファンクラブの会長」なる人物に会ってきた。

 ラジオPD(プログラムディレクター)や作家として活動を繰り広げるイ・ジェイク氏(50歳)。大谷のことが好きすぎてファンクラブを作ったうえに、2023年11月には「大谷愛」を綴る書籍までも出版したという。

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 ファンクラブの会員数は約450人と少なめだが、2022年10月から韓国最大のポータルサイト「NAVER」内にアカウントが開設され、これまで1200近い投稿が行なわれている。

 こんな書き込みが見られる。

「大谷が韓国の空港に着いた時に迎えに行こう!」
「一平さん(通訳の水原一平氏)も大変だけど頑張れ」
「ホントにかわいい大谷~」

 日本人の大谷がいくら世界的アスリートだとしても、話は韓国でのこと。ファンクラブ設立は当たり前ではない。

勇気のいることだ。

 日本への対抗心はあらためて言うまでもない。野球ではイチローが「大いなるリスペクトはあるが、決して好かれない存在」として知られた。サッカーのカズ(三浦知良)はずばり「憎い」と言われていた。

 古くは1992年のバルセロナ五輪男子マラソンでのファン・ヨンジョの金メダル獲得は「銀メダルが日本の森下広一だったからこそ、何倍も価値が高まった」とされる。

 いったい、そんな韓国でなぜ? 

 ソウルの漢江沿いの高級マンションに暮らすイ氏の自宅を訪れた。

そこで語られたのは、ソウル大出身でラジオディレクター活動や執筆活動に勤しむ彼の「葛藤」とそれを乗り越えた「大谷愛」だった。

【最初は反発「韓国をナメてるのか」】

 もともと野球が好きなわけではなかった。日本文化との接点は「幼少期に聞いたX JAPANのファン」という程度。

 そんなイ氏が、大谷翔平を初めてテレビで見たのは、2015年のプレミア12でのことだ。「スポーツの日本戦はみんなが見るから自分も」といった考えだった。

「先発ピッチャーとして彼が出てきたんです。最初に見た時は、大柄ではあったのですがその童顔に驚きました。

『この顔が日本の先発?』と。日本は韓国をナメてるのか、と思ったりもして」

 当時の大谷は北海道日本ハムファイターズに入団後3年目。15勝で最多勝を獲得したシーズン終了後のことだ。この日は6回を投げ、10奪三振の快投を見せた。

「とにかく韓国のバッターが彼の球を打てないわけですよ。バットにボールが当たらない。

野球をよく見ない僕の目にもレベルが違うのがわかりました。最初はさしたる興味もなく見ていた試合でしたが、驚き、そしてひとつひとつの投球をじっくり見るようになりました。むしろ打てない韓国の打者に腹を立てたりもして。ショックもありました。そこで逆に気になって、彼のことを調べたんです」

 日本では当たり前のように「二刀流」が知られた存在だったが、当時の韓国ではそこまでの情報は伝わっていなかった。イ氏にとってはとにかく「童顔なのにすごいボールを投げる投手」が第一印象。

「その大会では確か2試合で投げて13イニング無失点だったと思います」。イ会長が記憶するデータは正確だった。確かに大谷は大会でその結果を残した。

【関心が愛情へ変わる】

 その後、韓国で大谷翔平について調べていくうちに「二刀流」であることを知った。

「サーカスみたいなもんだろ、と思っていましたよ。本気でやっているとは考えもしなかった。

『ピッチャーにしてはよく打つ』程度だろうと。韓国にもアマチュア時代には投打ともに優れていた、という選手はたくさんいますから」

 しかし、2018年のメジャーデビューイヤーでは主に打者としても活躍。打率.285、22本塁打、61打点、10盗塁の成績で新人王を獲得した(投手としては10試合に先発登板、4勝2敗で防御率3.31)。これで「童顔なのにすごい球」という大谷に対する関心が「ファンとしての愛情」に完全に変わった。

 ただし、まだまだ「韓国でファンクラブを作ろう」という行動には至らない。翌2019年シーズンからはなんと「好きだからこそ大谷をネット上で批判する」方向に向かう。

「二刀流への反対意見ですよ。人間の肉体が耐えられるものではないと思ったのです。ヒジの最初の手術をして2019年は投手を休んだでしょう? 個人的には投手としての姿が印象的だったので、投手に専念すべきだと考えていました。彼はすばらしい才能を持っていて、メジャーリーグでも先発陣の一番手になれる力がある。なのに打者を兼ねていることによって、2019年は投手を休むことになった。当時も『大谷の熱烈ファン』として韓国メディアのインタビューを受けましたが、強く意見した記憶があります」

 強い愛情、そして愛情があるからこその批判。ライブ・録画を含め全試合観戦する。そうやって「推し活」の日々を送っていくことになる。

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