三笘薫(左)と伊東純也(右)の両ウイングを欠いた状態で北朝鮮戦とのホーム&アウェー戦に臨むことになりそうな日本代表。その代役は、従来の序列でいけば左・中村敬斗、右・堂安律の先発が有力視される。
右利きの伊東と同タイプをあえて探すなら仲川輝人だ。
そして、招集により必然性を感じるのは町田ゼルビアの23歳だ。J1でプレーする今季は立派な招集対象になる。3月9日の鹿島アントラーズ戦で左ウイングとして先発した平河悠。
開始2分。何よりこの試合のファーストタッチに目は釘付けになった。自軍深くのライン際で魅せた左足→右足での連続タッチである。その2歩目の右足でボールを押し出すようにスルスルと抜け出し、MF仙頭啓矢にパスをつける様は、もはや代表級、あるいは欧州組級と言いたくなる、鮮やかさをともなう絵になる躍動感だった。
鹿島の新監督、ランコ・ポポヴィッチは試合後、自軍の試合の入り方の悪さを嘆いたが、筆者は、キックオフ直後の平河のこのプレーを見て、鹿島が身構えてしまった可能性を指摘したい。
【三笘を彷彿とさせるアクション】
172センチ70キロ。乾貴士、中島翔哉、本山雅志のいいところを足して3で割った、いかにも向こうっ気の強そうな小兵のドリブラーだ。低重心。ドリブルのフォームに安定感がある。
続く7分には、対峙する鹿島の右サイドバック(SB)濃野公人と1対1になるや後ろ足(右足)の内側でボールを繊細に操り、引きずるように運びながら縦抜けを図ろうとした。
鹿島の濃野はどうすることもできず、縦抜けを決められ、左足でマイナスの折り返しを許した。ゴール前で町田FW藤尾翔太にボールが渡る寸前、鹿島の左SB安西幸輝がスライディングでクリアしたが、これも鹿島の試合の入り方に大きな影響を与えたプレーだった。
前半13分の先制弾は、その流れから生まれた。
右足でボールを押し出し、角度を作りながら蹴り込んだその左足弾は、番狂わせを意味する決勝点でもあった。「試合の入り方が悪かった」(ポポヴィッチ監督)原因の多くは、紛れもなく平河のプレーと関係があった。
ご承知のとおり、ポポヴィッチは前町田監督(2020~2022年)だ。山梨学院大から町田の特別指定選手になった平河の元監督である。
「今日は彼にやられた。能力的には近い将来、日本代表入りしてもおかしくない人材だ」と、ポポヴィッチは試合後の会見で、渋面を作りながらも平河に賛辞を送った。
だが、平河は日本代表どころか、大岩剛元鹿島監督率いる五輪代表チーム(U-22日本代表)にも、まだ1度しか選ばれていない。出場も、昨年のU-23アジアカップ予選パレスチナ戦1試合のみだ。そのお眼鏡にはかなっていないようだ。
【細かなボール操作を左右均等にできる】
しかし、このタイプは短期集中トーナメントを戦うチームにはとりわけ、欠かせない選手だと見る。
その答えは後半のピッチ上にあった。平河はポジションを左から右に変えていた。後半27分には大きな切り返しから際どい左足シュートを放っている。その2分後、右サイドでボールを受け、鹿島の左SB安西と1対1になった際も、後ろ足にあたる左足でボールを操作。縦抜けを図ろうとする動作を見せた。ここでは仕掛けの動きだけで縦勝負はしなかったが、左だけでなく右にも適性があることは、このアクションで一目瞭然となった。
昨季までを振り返れば、右と左のプレー機会はほぼ半々だった。右も左も苦にしないウインガーはそうザラにいない。多機能的なのだ。
伊東純也も左でプレーするが、せいぜい"こなす"程度だ。右を10とすれば、左は4だ。久保建英も右を10とすれば左は3。堂安律は右10対左1で、三笘に至っては左10対右0だ。中村も三笘に近いだろう。先述の俵積田も同様だ。
細かなボール操作を両足で、左右均等にできる。代表チームという人数に限りがある集団にとっては重宝する選手でもある。
日本代表に選ばれるのが先か、欧州に旅立つのが先か。「欧州組になってから選ぶ」では、代表監督として恰好のいい話ではない。平河が森保一監督、大岩監督のお眼鏡にかなうことを期待したい。