高木豊が注目する若手の左バッター

セ・リーグ

 春季キャンプやオープン戦で、各球団の若手がレギュラー奪取に向けて必死のアピールを続けている。すでにプロの世界を経験し、課題と向き合いながら「今年こそ一軍の主力に」と意気込む選手も多い。

 かつて大洋(現DeNA)の主力選手として活躍し、現在は野球解説者やYouTuberとしても活動する高木豊氏は、特に注目する「プロ2年目以上」の若き左バッターがいるという。同じ左打者の目線から、まずはセ・リーグの注目選手について聞いた。

高木豊が注目するセ・リーグ若手の左バッター3人「20歳であん...の画像はこちら >>

【プロ野球界の「武蔵と小次郎」になりそうなふたり】

――セ・リーグで注目している若手の左バッターからお聞かせください。

高木豊(以下:高木) 阪神の前川右京(3年目)です。まだ20歳と若いですが、チームに貢献できるバッティングができますし、起用したくなる選手ですね。左投げなので左腕の押し込みが強く、柔らかさもあります。進塁打やエンドランもできて、ビハインドの試合展開ならホームランを打ってくれそうな期待感がある。

非常に可能性を感じる選手です。

――右足のステップが強く、バットのヘッドが体の近くを走るスイングをするイメージがあります。

高木 そうですね。壁がしっかりできていて体が開かない(胸をピッチャー側に見せない)ので、バットのヘッドが体の近くを通ることになる。それはバッティングセンスが高いということで、バットコントロールのよさに繋がります。"狙い撃ち"ができる感じがしますね。

 中日とのオープン戦(2月25日)では、8回表の1アウト一塁の場面で、フルカウントからランナーがスタートしてランエンドヒットの形になったのですが、相手のショートがセカンドに入るのを見て、その空いた場所に狙い打っていた。相手のファインプレーでアウトにはなりましたが、「20歳であんなバッティングができるのか」とゾッとしました。周りが見えていて、状況に応じたバッティングができる技術もある。末恐ろしい20歳ですよ。

――昨年に比べて、今年は打球に角度がついてきましたね。

高木 昨年はドライブがかかった打球が多かった印象がありましたね。

ただ、ドライブがかかるのは悪いことではありません。ゴロの打球が走って内野の間を抜けやすくなりますし、外野に飛んだライナーも内野を越えたあたりで落ちたりして、ヒットの確率が上がるので。

 特に甲子園では、打球に角度がついても風で戻されるので、逆にドライブがかかっているほうがいい場合も多い。いずれにせよ、彼は真っすぐにも変化球にも対応できますし、選球眼もいいです。今年はレギュラーとして活躍する姿が見たいですね。

――ほかに注目している左バッターは?

高木 広島の田村俊介(3年目)もいいですね。

キャンプで見て感じたのは、体がひと回り大きくなったということ。バッティングはパンチ力もミート力もあるし、タイミングを少し崩されても膝を柔らかく使ってボールを拾ったりと、柔軟性も優れています。(2月23日の)中日とのオープン戦では、初回に髙橋宏斗のきわどいコースのボールをカットして粘って、最後は甘いボールをライトに持っていった場面(適時三塁打)がありました。そんなふうに、自在に反応できるんです。

――前川選手との違いは?

高木 前川は懐をうまく使います。腹を引っ込めて、バットの"抜きどころ"を作るイメージでしょうか。

なので、インサイド打ちがうまいんです。一方の田村の場合は、膝と肘の使い方が抜群にうまい。打つポイントが前にズレた場合、膝を使って体を前に移動させないといけませんが、その際の動きが柔らかいんです。バットコントロールもいいですね。前川もそうですが、将来的にはチームの3番、4番を打つ可能性もあると思います。

 前川と田村は、まだ実績がないので気は早いかもしれませんが、宮本武蔵と佐々木小次郎のような関係になりそうな気がするんです。

今後、ふたりはお互いが強力なライバルになって、それが長く続いていくんじゃないかと。どちらが武蔵になり、どちらが小次郎になるのか。ふたりとも、そう表現したくなるほどの逸材ですよ。

【近本を手本にする中日4年目の外野手】

――他に気になる左バッターはいますか?

高木 「変わったな」と思うのは、中日の三好大倫(4年目)でしょうか。阪神の近本光司のバッティングをイメージしながらバットを振っているようなのですが、少しずつ近づいてきているように見えます。お手本とする選手になりきる、というのは打撃能力を高めるためのひとつの手ですし、しっくりきている感じがあるんじゃないかと。

 フォーム自体は大きく変えていないと思うのですが、頭の中に描いている動きのイメージが変わったというか......技術が大きく向上する、バットの軌道を変えるといったことではなく、イメージを変えることでよくなってきた。バッターは、そういうことで打ち始めることがよくあるんです。だからバッティングって面白いですよね。

――具体的によくなった点はどこですか?

高木 軸がしっかりしてきましたね。あと、少し前までは体の回転が早くてバットが出てこない印象があったのですが、体が開かずにバットのヘッドが返ってくるようになりました。それこそ、近本は体が開かずにバットヘッドを走らせるバッターなので、三好もそういうイメージでバットを振れるようになってきたんじゃないですか。

 それと、近本のスイングの軌道は少しアッパー。そういうところも含めて、イメージの再現度が高くなっていると思います。

――足もあり、守備もそつなくこなす印象です。

高木 そうですね。今季は三好にとってレギュラーをつかみ取るチャンスですし、ここまでは結果も出て十分にアピールできています。外野陣の突き上げ、競争という意味で面白い存在になってくれるといいですし、本人にとっては勝負の年になるでしょう。

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【プロフィール】
高木豊(たかぎ・ゆたか)

1958年10月22日、山口県生まれ。1980年のドラフト3位で中央大学から横浜大洋ホエールズ(現・ 横浜DeNAベイスターズ)に入団。二塁手のスタメンを勝ち取り、加藤博一、屋鋪要とともに「スーパーカートリオ」として活躍。ベストナイン3回、盗塁王1回など、数々のタイトルを受賞した。通算打率.297、1716安打、321盗塁といった記録を残して1994年に現役を引退。2004年にはアテネ五輪に臨む日本代表の守備・走塁コーチ、DeNAのヘッドコーチを2012年から2年務めるなど指導者としても活躍。そのほか、野球解説やタレントなど幅広く活動し、2018年に開設したYouTubeチャンネルも人気を博している。